婚約破棄されたので田舎に引退したら、隣の転生者が温泉をキックで掘り当ててきた

そらみん

プロローグ:最悪な出会い



――そして私は、山奥の静寂へと辿り着いた。



すべての始まりは、あの愚かな婚約破棄劇だった。

貴族の子女が集う王立学園、その中でもとりわけ注目を浴びていた私――クラリス・フォン・アルマリナは、「悪役令嬢」の称号をたっぷりと浴び、見事に華々しく断罪された。

白々しい涙を浮かべた庶民出身の少女。

彼女に肩入れした王太子。

そして、無意味に観客と化す学園の面々。

国王ですら、もちろん家族ですら、私の味方になってくれる人間は誰一人としていなかった。

私は台詞すら用意された舞台装置のように、その場で「嫉妬深く、傲慢な悪役」として処理された。

いや、いい。演じてやったとも。 


……だけど、本当は、私はあのときこう思っていた。

「やっと……解放される」と。


社交も、名誉も、恋愛も、誰かの評価も、うんざりだった。

誰かに気に入られることも、誰かを演じることも、うんざりだった。


だから私は、すべてを捨てて村に来た。

知人もいない、貴族も来ない、魔物すら寄りつかないこの静かな田舎。

空気はうまく、水は冷たく、鳥の声しか聞こえない。


薪を割り、ハーブを煮出し、本を読み、湯を沸かす。

こんなにも豊かで、満たされているのに――誰もいない。


 


それが、私の理想だった。


 


……そう、“彼”が現れるまでは。


初めて彼を見たのは、ちょうど北側の丘に朝の霧が立ちこめていた日。

私は静かに湯を沸かしていたのに、あの音が響いた。


 


ドォンッ!!!


 


……何事かと思えば、あの男は言ったのだ。


「魔物が出たから蹴ったんで、なんか吹き飛んだ衝撃で温泉出ました」


 


あれは、世界が違うと確信した瞬間だった。


 


私は今、この静かでうるさい山奥で、

“おひとり様”の人生を、彼とともに、なぜか送っている。


……これは、自由を手に入れた悪役令嬢が、

なぜか隣人の超絶身体能力に翻弄されながらも、

静かに、そしてちょっと騒がしく生きていく物語。


恋なんていらない。

でも――


今日も、彼はまた何かを蹴り飛ばしている。

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