第7話 身体強化の持続時間

 魔素による身体強化で、ミュリアと一日五分間だけ顔を合わせられるようになって一週間。


 少しずつ、魔素の生成と制御の精度が増して、身体強化魔法の持続時間も増えてきたんだけど……それでも、やっと七分。


 なかなか殻を破りきれないのが現状だった。


「うーん……何とか持続時間を伸ばせないものか……」


 そもそも、人間に制御出来る魔力の量には、技術だけではどうしようもない上限がある。


 それを強引に増やすための技術たる“魔素”は、一歩間違えば魔力が暴発してしまう危険性を孕んでいるんだ。


 主人公は難なく体内で安定させたまま昼寝すらしてたけど、それが異常なのである。


「魔素の安定化に割く労力が減れば、その分だけ身体強化魔法の持続時間も伸ばせるんだけど……」


「ロロン、独り言とは余裕だな!! 十周追加!!」


「はい!!」


 リック団長の怒声に答えながら、俺は意識を目の前の訓練……いつもの早朝ランニングに戻す。


 最近知ったんだけど、これみんな身体強化魔法使いながら走ってたみたいね。道理で全く追い付けないわけだよ。


 まあ、身体強化魔法を維持しながら走るのもそれはそれで、ただ走るのとは別の難しさがあるんだけど……身体強化の持続時間を伸ばしたい俺にとっては、この上なくありがたい訓練だ。


 “準備運動”だけで疲れ果てて動けなくなる、なんて情けない姿を晒すこともなくなったし。


「っし……やるぞ!!」


 ここまで通常の魔力を使っていた身体強化を、魔素によるものにギアチェンジ。

 ぐん、と出力が上がったその力でペースを上げ、一緒に走っている騎士のみんなを抜き去った。


「弛んでるぞお前ら!! 十周追加!!」


「「「はい!!」」」


 そんなこんなで、みんな仲良く罰走含むランニングを終え、次の訓練へ。

 腕立て、腹筋、スクワットと基礎を終えたところで……俺は、リック団長に話し掛けられた。


「ロロン、そろそろ形稽古の方にも参加するか?」


「え?」


 ここ数日、この準備運動を終えた後は、魔力増強訓練なんかを中心に、自主練することが多かった。

 理由は単純に、自分の剣を持ってない俺に、剣を使った型稽古は出来ないからだ。


 そんな中でのまさかのお誘いに驚く俺に、リック団長は木剣を投げ渡して来た。


「お嬢様の騎士になるのだろう? ならば身体強化ばかりでなく、剣も覚えなければダメだ。俺が見てやるから、振ってみろ」


「あ……はい!! ありがとうございます!!」


 まさかの申し出に、俺は勢いよく頭を下げる。


 ミュリア自身の心を救うのはもちろんだけど、それで闇堕ちの最後のひと押しをした存在……悪魔が消え去るわけじゃない。


 万全を期すためには、俺自身が悪魔に打ち勝てるくらい強くなっておかないとマズイわけだし、剣を覚えられるなら願ったり叶ったりだ。


 お父様じゃなくて、リック団長が直接教えてくれるっていうのも……お父様には悪いけど、光栄だな。


 ぶっちゃけ、お父様ってそんなに強いわけじゃなさそうだし。今の俺よりは間違いなく強いけど。


「まず、騎士の剣術は身体強化と同時に、剣身にもまた魔力を纏わせ、高威力の斬撃を放つ“魔法剣”を発動するところから始まる。やってみろ」


「はい!!」


 リック団長に言われるがまま、俺は手にした木剣に普通の魔力を通す。

 薄ぼんやりと輝きを放つそれを見て、リック団長は少しだけ驚いたように目を見開いた。


「……やるな。やはりお前は放出系の魔法より、こうした強化系の方が得意らしい」


「…………」


「どうした、ロロン?」


 リック団長の言葉を半分聞き流しながら、俺は木剣をじっと見つめる。


 ……体の中の魔力を操るより、こうして剣の中にある魔力の方が安定して操れる気がする。


「試してみよう」


 思い付いたまま、俺は木剣の中に更なる魔力を流し込み、“魔素”を生成する。


 眩い輝きを放つ木剣を見て、何やらリック団長が慌て始めたけど……俺はその生成速度に驚いていた。


 十秒。体の中だと三十秒かかっていたものが、この時間。


 そのあまりの早さに、俺自身が驚いていた。

 しかも……体内で維持するより、ずっと制御が楽だ。


 これを上手く活用すれば、身体強化魔法の持続時間だって伸ばせるかもしれない。


「そうか……俺に才能がないなら、道具に頼れば良かったんだな」


 これは、特に何の変哲もない木剣。

 それでさえこの効果なんだから、俺専用に調整した剣なら、もっと良くなるはず。


 新たな発見に浮かれる俺に、リック団長は神妙な顔で問いかけてきた。


「ロロン、お前は……自分を、何だと思っているんだ……?」


「……? 何と言われても、ミュリアお嬢様の騎士……になりたいただの見習いですが」


 まだ正式な騎士じゃないし。


「ただの見習い、ね……まあいい、それよりロロン、その今にも爆発しそうな木剣、早く何とかしろ。危なくて仕方ない」


「えっ」


 指摘されて初めて気付いたけど、確かに俺の魔素を注入された木剣は罅が入り、今にも弾け飛びそうになっていた。


 そしてここで、重要なことが一つある。

 俺は、魔素の制御が主人公ほど上手くない。


「……どう、しましょうね?」


「…………」


 暗に、俺にもどうしようもないと伝えられたリック団長は、無言のまま俺の手から木剣を奪い取り……上空へ、ぶん投げた。


「総員、伏せろぉーー!!」


 訓練場の上空で、派手な大爆発を起こす俺の木剣。


 その後、騎士全員を危険に晒したとして俺が説教を喰らうことになったのは、言うまでもない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る