アニメのモブキャラに転生したけど、推しの悪役令嬢を救うために最強を目指します

ジャジャ丸

第1話 転生したらモブでした

 俺の名前はロロン・ハートナー。ハートナー男爵家の長男で、今年六歳になる。

 そんな俺だが、たった今前世の記憶を取り戻した。


 とある少女が起こした癇癪に、殺されかけたのをきっかけに。


「ロロン!! 大丈夫か!?」


「誰か!! 医者を連れて来い!! 早く!!」


 漆黒の魔力に呑み込まれて混濁する意識の中、騒がしい周囲の声を無視して顔を上げる。


 その先にいたのは、たった今自分が何をしてしまったのか理解しきれず、呆然と立ち尽くす同い年の女の子だった。


 ミュリア・ルークウェル……俺のお父様が騎士として仕えている主君、ルークウェル公爵家のご令嬢。

 そして、俺が前世で最後に見たアニメで、たった一話の登場で死んでしまった、いわゆる“中盤のボス”的立ち位置のキャラだ。


 アニメで見たよりずっと幼いけど……自分のを見間違うなんてこと、俺に限ってあるわけないからな。間違いない。


「……やっぱ、可愛い、なぁ……」


 足まで届くほど長く、顔のほとんどを隠してしまうくらい伸ばしっぱなしの銀髪。血のように赤い真っ赤な瞳。

 小柄で細い体は今にも消えてしまいそうなほど儚げで、その身に背負う“呪い”という暗い背景が、余計に視聴者の庇護欲を駆り立て、人気を博していた。


 正直、未だに自分の状況すらハッキリ分かってない中で、こんなことを考える俺は頭がおかしいのかもしれない。


 それでも俺は、今まさに二度目の死を迎えそうになっている自分のことよりも……目の前で泣いてるミュリアを慰めてあげたいって、そう思った。


「…………」


 ああダメだ、意識が保てない。声を出す余裕もない。


 それでも、彼女が抱えてる罪悪感が、少しでも和らぐようにと……祈るような気持ちで笑みを向け、そのまま意識を失うのだった。







 しばらく経ち、意識を取り戻した俺は、ルークウェル公爵家にある医務室のベッドで寝かされていた。


 俺のお父様が心配性そうに何度も声をかけてきたり、厳つい顔のルークウェル家ご当主様が直接謝罪しに来たりしたけど……ぶっちゃけ、今回の件は俺の自業自得なので、謝るのは俺の方だと思う。


 元々、単に俺を公爵様に紹介するだけのはずだったのに、暇を持て余した俺が勝手に「探検だ」とかなんとか言って離れに忍び込んで……そこでバッタリ出会したミュリアを、少し強引に遊びに誘おうとした結果、こうなったんだし。


 ともあれ、大人達の謝罪攻勢が落ち着いて、今は一人きり。


 自分の考えを纏めるには、絶好の機会だ。


「まず……この世界はやっぱり、あのアニメの世界で間違いないよな」


 “異世界転生で学園ハーレムを”……通称、“転ハー”なんて呼ばれてたアニメ。ミュリアは、そこに出てくる俺の最推しキャラだ。


 推しに出会えたことを素直に喜べれば良かったんだけど、そういうわけにも行かない事情が二つある。


 まず第一に、“ロロン・ハートナー”なんて名前のキャラ、作中に一度も出てこなかったこと。


 それもそのはず、ミュリアが登場した時点で、その家族も家臣も、皆殺しにされていたからだ。


 “魔女の大虐殺”、とかって言われてたっけな。

 俺の実家、ハートナー男爵家は、ミュリアのいるルークウェル公爵家に代々仕える騎士の一族であり、同じ町に居を構えているので……まあ、ついでに殺されたんだろうな。


 要するに俺は、ミュリアの恐ろしさを際立たせるためだけに存在するモブであり、このままだとアニメ本編が始まる約十年後に、ミュリアに殺されるってこと。


 推しに殺されるなら本望だぜ! なんてセリフは、俺が死ぬことで推しの幸せが担保されるから言えることであって、推しを地獄への一本道に案内する切っ掛けとして殺されるなんて真っ平ごめんだ。絶対に阻止しないと。


 そして二つ目の問題がまさにその、どうやって阻止するかという点だ。


 俺は、名も無きただのモブ。

 特別な力なんて何も持っていないし、生まれ持った魔力も平凡そのもの。剣や魔法だってまだ習っていない、正真正銘ただの子供ということだ。


 そんな俺が、どうやってミュリアの闇堕ちを阻止すればいい?


 ミュリアは、生まれ持った魔力それ自体が呪いを帯びているから、一般人には傍に近付くことすら出来ないというのに。


「まあでも……やっぱり、強くなるしかないか……!!」


 いくら考えても、結局のところこういう結論しか出てこなかった。


 ミュリアの持つ呪いの力は強力だが、一定レベル以上の強度で身体強化魔法を発動すれば、垂れ流される魔力にやられることはないと、アニメでも主人公が言及していたからな。


 ミュリアの闇堕ちを防ぐには、呪いの力が原因で周囲から孤立し、ルークウェル家の離れに半ば監禁されている彼女に寄り添い、救い出してあげる必要がある。


 そのためには、少なくともアニメのメインキャラに並ぶくらいの力がないとダメだっていうなら……何がなんでも、それを身に付けないと。


 ミュリアの心が決定的に壊れて、俺が殺されるより前に。


「幸い俺には、アニメの知識があるからな……やってやる。今から徹底的に鍛え上げて、主人公あいつに負けないくらい、俺も強くなってやる!!」

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