第33話 令嬢は、銀色のカタナを振るう

「レツ、あれは本当に、わたくしの兄マダルドですの?」


 竜人間となった兄貴を見て、ミアさんは顔を歪める。その表情には、哀れみとおぞましさが入り混じっていた。


「あなたの兄貴じゃなくなったのは確かだよ、ミアさん」

 

 どうしようか、ルクレツィア?

 今まで身体を鍛えてきたが、本番でカタナを振るうのは初めてだ。


 相手に通用するのか?


 おそらく、【トクサツスーツ】の下に着ている【マイニングスーツ】によって、サポートは万全だろう。


 しかし、それだけでも相手と渡り合えるのか?


 明らかに、準備不足だ。


 相手は、モネッドの怪人である。

 奴らは強力な力を得る反面、犠牲は寿命だ。放っておいても死ぬ。


 だが、それでミアさんを守れるのか?


 ミアさんだけじゃない。


 アガタ、エニュイ、そして王都の住人たちもいる。


 こいつの寿命が尽きるまで、守りきれるのか?


 ムリだ。


 なにより、私がそれを許さない。


 コイツには、引導を渡さなければ。


「我が手にかかって、地獄へ落ちるがよい!」


 黒騎士と呼ぶにはあまりにも怪物的な剛腕が、襲いかかる。

 

「【ワイヤーブレード】!」


 私はカタナから持ち替えて、自身の最強武器を振るう。


 だが案の定、ブレードはブラックドラゴンのウロコに弾かれて、砕け散った。


 ですよねえ……。


 キズすらつかない。


「手がしびれたが、それまで! やはり怪人となったオレは、無敵!」


「自分の命を犠牲にして、そこまで勝ちたいか?」


「モネッドの怪人に、命は関係なし。たとえ寿命が尽きてこの身が滅びても、オリハルキウムとして大帝王クビラムの糧となるのだ。我々の命が、クビラムの命」


 つまり、コイツラを殺しまくれば、クビラムも弱体化する。


 むしろ、殺して回らないとクビラムはどんどん強くなってしまうのか。


 だったら、斬るしかない。


「今やオレは、全盛期のクビラムに匹敵する力を得た! オレの寿命が尽きれば、クビラムはオレの身体を己の武器とするだろう!」


「そんなことはさせない! ペスカ!」


 私は、ペスカに指示を送る。


「【ビッグ・セイクリッド・ファイア】、発射!」


『了解でつ!』


 虚空に引き金を引く姿勢を取って、私は移動要塞ベーモットのブレス発射指示を出した。


 闇を切り裂いて、ベーモットのブレスがドラゴンの群れをかき消していく。


 こんな遠くからでも、ベーモットは確実にドラゴン共を灰にしていった。


「ごうううおおおお!」


 ブレスは、ギャラルの皮膚すら焼き尽くす。


 オリハルキウムに守られているとしても、これだけのダメージを与えれば。


「死んでない!?」


「ぐ、ぐううう」


 やはり、アガタの【セイクリッド・オーラ】がなければ、こんなものか。


 オリハルキウムの残量で、黒騎士ギャラルはわずかに傷を塞ぐ。ダメージは残っているようだが、殺しきれていない。


 ドラゴンは全滅させることができた。しかし、最強の敵はまだ残っている。


 だったら、見せてやろう。私のとっておきを!


「見事! ドラゴンを葬り去るとは。やはりお前は、オレと同じだ。天才であるがゆえに、誰にも理解されない!」


 ギャラルが、自身の境遇を語りだす。誰も聞いていないのに。


 幼少期から誰にも理解されず、ひそかにモネッドと手を組んだ。

 しかし魔族たちからも、科学に頼る中途半端な強さを否定され続けてきた。

 父との確執で死を乗り越え、自らを【アクヤクスーツ】に包んだ。


「オレは、魔族を超えたのだ! 魔王の力さえ、オレは超えた!」


 ギャラルは各地の魔王さえ殺し、アクヤクスーツのエサにしてきたという。


「ブラックドラゴンは、とうに死にかかっている。だがオレには、自らが作った、【アクヤクスーツ】がある。ドラゴンの力をも凌駕した今のオレは、誰にも止められぬ! オレはあらゆる生物も、魔族も、ドラゴンも、魔王さえも凌ぐ!」


「そうかな?」


 私は、カタナを引き抜いた。

 

 ワイヤーブレードで攻撃したのは、日和ったわけじゃない。


 自分の科学力が怪人にどこまで通じるか、確かめたかっただけ。


 しかし、コイツの強さは常軌を逸していた。


 間違いなく、現時点で最強の怪人だろう。


 この銀色の刀身で、コイツをぶった切る。


「おお、銀装令嬢の最強装備か。歴史はサイクルするのだな」


 かつて【銀装令嬢 ミルト】が大帝王クビラム討った武器も、カタナだった。


「喜べ、クビラムよ! このマダルド……いや、黒騎士ギャラルに手を貸せ! 今こそ力を合わせ、この令嬢を破壊するぞ!」


 クビラムの血液ともいえる大量のオリハルキウムが、竜人間に流れ込んでいく。

 ギャラルがますます、巨体になっていった。

 


「今のオレは、魔界と同一化した!」


「そんなことをすれば、魔界もろともお前も死ぬよ」


「オレは死なない! たとへオリハルキウムの過剰摂取で燃え尽きたとしても、そのときはクビラムが、オレを復活させてくれる! オレは、耐えてみせる!」


「なにがお前を、そうさせる?」


「オレは最強でなければならない! やがて王都さえ支配する! いや、世界はオレが支配してやらねばならんのだ! この貧弱になった世界を立て直すには、オレのような優れた人間でなければ! 父でもなく、妹エウフェミアでもなく、オレでなければ!」


 プライドと、執着心か。

「自分以外はアホ」なんて考えは、一番ダメな力じゃん。

 とてつもなく自分を強くしてくれる代わりに、視野が極端に狭まる。自分しか見ていないから。



 私には、エニュイやアガタのような友だちがいる。ミアさんやペスカのようなメンターも。

 誰もいなかったら、私もああなっていただろうな。自分しか愛せない女になっていただろう。


 私よりすごい人たちに囲まれて、私も強くなっていった。


 それはコイツからしたら、弱い人間の象徴なんだろうな。「助け合わないと生きていけない」から。


 おそらく、コイツに助けはいらない。だが、それは救いもないのと一緒だ。


 救いなき魂が落ちる先は、一つしかない。


「地獄へ落ちな! 【ドラゴンキラー】!」


 私はカタナに、ミスリリウムを流し込む。


「ペスカ、ありったけのミスリリウム全開!」


『スーツが持たなくなるでつ』


「それでいい」


 それくらいやらないと、コイツは目覚めない。


 ギャラルは、妹の思いまで踏みにじった。


 生かしてはおけない。


「オリハルキウムと混ざり合って、己の無力さを後悔するがいい!」


 赤黒い稲妻でできた剣を、ギャラルが振り下ろしてくる。


 私はミスリリウムを過剰充填させたカタナを、暗黒色の稲妻に叩き込んだ。


【トクサツスーツ】の一部パーツが、雷撃に耐えられず吹っ飛ぶ。


 それでも、カタナは雷撃を切り裂いた。


「なにぃ!? 最強のオレが!?」


 なんの思いも背負っていない攻撃なんぞ、強くない。


「お前は、強くなんかない!」


 たしかに、私は孤独だ。


 これからも、誰も私を理解できないだろう。

 どれだけ文明が発達しても、トクサツの技術はオーパーツだ。

 コイツを倒せば、トクサツのある世界とのつながりは途絶える。


 だけど、それでいいのだ。


 私には仲間がいて、友だちがいるから。


「私は、お前とは違う!」


「黙れ!」


 雷撃の一部が、トクサツスーツの胸部を切断した。スーツを突き抜け、私の身体をわずかに斬る。


「ぐふうう!」


「どうだ! なにがトクサツスーツだ! 着ている人物が所詮人間では、この程度の出力しか出せぬ! 魔王さえ超えた力があれば、どれだけトクサツの力があろうと!」

 


 それでも……!



「【ファイナル・ダイナモ・スラッシュ】!」

 

 

 私は、ギャラルのクビを跳ね飛ばした。


 

「なぜだ!? なぜオレは、負ける!? お前の、強さの秘密はぁ……!?」


「強さは、愛から生まれるのさ」


 銀色のカタナを、私はギャラルの心臓に突き刺す。


 ギャラルが、爆発四散した。

 

「他者を愛さないお前に、本当の強さは永遠に生まれない」

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