第11話 令嬢は、新兵器を即興で開発する

 クモ型魔物の中でも、頂点に君臨する魔物だ。アラクネの夫とも、言われている。

 魔法学校のダンジョン攻略でも、ツチグモデはすぎて対処できなかったんだよね。ツチグモがでてきたフロアは、結局先生頼みになった。


 このツチグモは、そのときの個体よりはるかにデカい。

 明らかに、ここにあるなにかを守っているような。


「誰でい? オレサマの寝床に悪さするヤロウはよお?」


 ツチグモが、私の存在に気づいた。

 魔物というより魔族に近い存在なので、ツチグモは人語も話せる。まあ、知性はそんなにないんだけど。


「女か? うまそうなニンゲンだ! 酒のサカナにしてやんぜ!」


【マッドもぐら】の数倍はあるだろう足で、ツチグモは私を突き刺しにかかった。


「おっと! 溶着!」


 秘密結社【モネッド】の怪人ではないようだけど、一応変身をしておく。でないと、勝てるかわからん。


【タワーシールド】で、攻撃を防ぐ。魔物との戦闘で拾ったものだ。

 

 このタワーシールド、強いな。【マッドもぐら】からの、レアドロップなだけあるね。頑丈だ。


「てめえ。大人しくオレサマのエサになりやがれ!」


 バカの一つ覚えのように、太い足を振り回す。


「おっとっと」


 タワーシールドで身体を守りつつ、私は壁走りで逃げ回った。


「逃がすかよ!」


 これだけ巨体なのに、壁走りまでこなすとは。まるでゴキブリだな。


「おおおおっ!?」


「アイツらからはエルフを食わせてもらえなかったが、こんな上玉に会えるとはな! 魔力量も多くて、うまそうだ! 絶対に食う!」


 なるほど、エルフの捕食を条件に、この鉱山を邪魔していたのか。


 だったら、やっつけてもいいよね。


 とはいえ、どうするか。逃げながら戦うのも、限界だ。


「【光の剣スパーダ・デ・ルーチェ】!」


 足を一本、光の剣で切り落とす。


 だが、胴体に刃が通らない。

 

「ムダだ! そんな爪楊枝のような剣で、オレサマの身体は貫けん! ちょっとはできる冒険者のようだが、残念だったな!」


 私は、前足にぶっ飛ばされる。


 ケガはないが、これは苦戦を強いられるな。


 どうにかせんと。


『レツ殿、【マギブラスター】を使うでつ!』


 ペスカが、マスクから私に呼びかける。


 そういえば、ペスカが作ってくれたんだっけ。


「せっかくだし、撃つか!」


 私は、魔法の銃をぶっ放す。


 的がデカいから、外しようがない。


「ぐお!」


 銃は見事、ツチグモの身体を貫通した。


「なるほど。銃身から弾丸を撃ち出す構造をあきらめて、杖にしたと」


 よく見ると、銃身は杖になっている。引き金を引くことで、魔法を発動する仕組みになっていた。


『推進力を上げる魔法を、銃身に相当する杖の柄に施しているでつ』


 そのおかげで、拳銃に匹敵する推進力を得ているわけか。


 しかし、急所には当たってない様子である。すぐに、身体が再生してしまった。


「ちょこざいな武器を使いやがるぜ!」


 どこかに弱点はあるだろうけど、なかなか探しづらい。


「うーん。こっちも、縦横無尽に動けたら」


 そうすれば、銃も当てやすいのに。


「ペスカ、今からタワーシールドを送る。これこれこうやって、改造してもらいたい」


 ツチグモの攻撃をかわしつつ、ペスカに新しい装備の開発手順を伝える。


『がってん承知でつ。送って来るでつ』


「頼んだよ!」


 私は、ペスカにタワーシールドを送った。


「何をするのかは知らんが、オレサマに勝てると思うな!」


「やってみなければ、わからんさ」


「何を!」


 ツチグモの足攻撃を、剣でさばく。


「くう! 一発一発が重い!」


 だが、これに慣れておかないと、後々の敵とは戦えない。


 強いのはツチグモだけではないだろう。もっと強いやつもでてくる。


 私はさらに、強化していかなければ。


 ただ単に依頼をこなすなら、より精度の高いヨロイを着て、銃で一撃で倒していけばいい。

 しかし、それでは強敵が現れたときに苦戦は必死。

 臨機応変に対応する力が、必要になる。


 ツチグモには、トレーニング相手になってもらう。


「首筋に、どうだ!」


 私は、ツチグモの首筋に切込みを入れた。


 ツチグモの首が、ダランと落ちる。


 しかし、すぐに新しい顔が生えてきたではないか。


「何だと!?」


 この顔は、ダミー?

 

「すばしっこいヤロウだ!」


 尻から、ツチグモが糸を吐き出した。


 私は、足を絡め取られる。


「しまった。よく考えたら、コイツもクモだったね」


 全身が、捕まってしまった。


「散々逃げ回られていたが、もう動けまい! オレサマの腹の中に、収まりな!」


「そうは、いかん! ペスカ!」


 今ペスカを呼んでも、アイテムは未完成品だろう。しかし、それでいい。


『はいでつ! 【ジェットシールド】!』


 私の手首にはめてあるブレスレットから、タワーシールドが高速で飛び出した。ツチグモのアゴにヒットする。


 舌を噛んだのか、ツチグモがしゃべれなくなった。


「ナイス、ペスカ!」


『【トクサツスーツ】で、熱を発動するでござる!』


「そんなこと、できんの?」


『はいでつ。熱を発生させることで、糸から逃げられるでござるよ』


 ペスカに使用法を聞いて、スーツから熱を発した。


 説明通り、糸が溶けていく。


「ありがとう、ペスカ!」


 私は、タワーシールドの上に乗り込む。サーフボードの要領で、ツチグモの上を滑った。光の剣で、敵の表皮を削りながら。


「てめえ!」


 ツチグモが、背中を滑りまわる私を足で攻撃しようとした。

 

 私はスイスイと飛び回って、クモの足をよける。


「てめえの弱点は、ここだ!」


 尻のところにある、「本当の顔」に、私は銃を撃ち込んだ。


 眉間に火炎魔法の銃弾を受けたツチグモが、今度こそ消滅する。

 

「まさか、『食べる用』の顔と『脳用』の顔が、分離しているとはねぇ」


 だから最後まで、糸を吐くのをためらっていたわけか。

 確実に仕留められるまで、使わないとは。

 

 魔法学校の生徒が、苦戦するわけだ。

 

『ナイスでつ、レツ殿!』


「前にしか、進まないけどね」


 このタワーシールドの足元には、風属性の魔晶石をはめ込まれている。


 本当は四方八方を囲むように魔晶石を付けてくれと、ペスカには頼んだ。


 しかし時間がなかったので、後方だけに付けてもらった。


 ツチグモを倒せたから、これでいいか。


 レア素材である、【ツチグモの糸】が手に入った。


「一旦帰ろうかな」


 装備の見直しや反省点が、たくさんある。



 まずはギルドに、大型ボスモンスター討伐を報告した。


「あの【ツチグモ】を、一人で倒したのか!?」


 戦利品である【ツチグモの魔石】を見て、ギルド受付のお兄さんが驚く。


 ツチグモの魔石は、さすがにデカい。スイカくらいある。ミノタウロスの魔石も大きかったが、それより


「たしかにこれは、ツチグモの魔石だ。ありがとう。ヤツを倒してくれて」


 私が勝てなかったら、王都か魔法科学校から、助っ人を呼ぶ予定だったらしい。


 危ねー。魔法科学校なんて来られたら、私が生きてるってバレるじゃん。

 

「それで相談なのだが、この魔石は私にくれないか?」


 その代わり、ツチグモの素材は糸以外すべてを渡す。


 糸は、マイジングスーツの繊維に使うからね。


「もちろんだ。それでさえ、我々が受け取る資格がないくらいだよ」


「さすがに、こんなたくさんの素材は受け取れない。この素材は、ギルドでこそ活用してもらいたい」


 あのダンジョンにいたツチグモは、時が経てばいずれ再生する。ダンジョンとは、そういうものだ。その気がなくても、強い魔物を生み出してしまう。


 そうなったときに素材があれば、魔物の弱点がわかる。


「感謝する。大型ツチグモの対策に、活用させてもらうよ」


「では。魔石はもらっていくので」


 私は、茶色い魔石をアイテムボックスにしまう。


「おかえりなさいませ、レツさん」


「はーい。会いたかったよ~エニュイ~」


 アジトに戻ってそうそう、私はエニュイをヨシヨシする。

 ああ、ストレスが解消されていくよ。

 やはり持つべきものは、癒し系メイドさんだ。


『おかえりなさいでござるよ、レツ殿』


「ただいま。【ジェットシールド】の再調節をやるよ」


『はいでつ。その間に、【トクサツスーツ】の強化はしておくでつ』


「お願い。強化パーツもいいけど、コンセプト自体の見直しも考えたいんだよ」


『というと?』


「モードチェンジ」

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