第3話 令嬢は妖精の手助けを受けて、悪党を薙ぎ払う
どうする?
オーギャブのギルドまで戻って、人を呼ぶか?
「……いや、助けに行こう!」
本来はオーギャブに戻って、ギルドの冒険者を呼ぶのが正解なんだろう。
しかし、時間は待ってくれない。
私がオーギャブに行っている間に、あの精霊が売られてしまっては。
船で逃げられたら、ヤツらの居所だって掴めなくなる。
結論は、出た。ここで、仕留める。
ただ、相手はただの盗賊だ。
あの精霊を売り飛ばすつもりなら、何かと取引をするはず。
その現場まで、後をつけるぞ。
「【クローク】・起動」
闇に紛れる魔法を使って、盗賊たちを追跡した。【イッカクウサギ】の持つ、【忍び足】スキルを応用したものである。
【トクサツ】スーツは、魔石から魔物の持つ【スキル】や【特性】を取り込むことが可能なのだ。
すげえ、頭目の真横にいるのに、気づかれてねえっ!
なんつーもんを開発してしまったんだ、私は!
カゴに閉じ込められている精霊が、こちらに気づく。
私は「しーっ」と、精霊を黙らせた。
精霊も嘔吐しそうなフリをして、こちらにうなずく。
たどり着いたのは、オーギャブの街だった。貧民街側の地下下水道へ、盗賊たちは向かっている。
さて、何がいるのかな?
下水道に、なんか秘密基地みたいな施設が作られていた。
いつの間に、下水道がダンジョンになっていたのか?
小屋に地下室を作っていたとき、変な物音はしなかったが。
そっちは、平民街だったからかな?
黒ずくめの異教徒が、数名現れた。このアジトのボスらしいな。
壁に描かれているのは、魔王の肖像画か。
となるとコイツらは、魔王の配下ってわけだね。
「例のものは手に入れたか?」
「これだぜ」
盗賊の頭目が、カゴを差し出す。
「よろしい! この精霊をイケニエに捧げれば、魔王様の復活はさらに早まることだろう!」
魔王を崇拝する組織が、こんな身近にいたとは。
「聖女に力を貸す、忌まわしきオーロ開発、並びにアルジェント家の奴らめ。我らが魔王の復活、誰にもジャマはさせぬ!」
狂信者が、ナイフを引き抜く。妖精さんに、刃の切っ先が向いた。
「そうはさせん!」
クロスボウで、狂信者のナイフを弾き飛ばす。
「これ以上の狼藉は、許さぬ!」
私は、颯爽と飛び出す。
同時にカゴも、盗賊から奪った。
「妖精が!」
大軍団が相手だけど、どうにかしてやる!
今は、妖精を助け出すことが先だ。
「貴様、何者だ!?」
そう言われても、名乗るわけにはいかない。
「私は……【銀装令嬢:
仮面も銀色だから、ちょうどいいよね。
「なにがミルトだ! おとぎ話の登場人物ではないか!」
「それはどうかな? 【ヴィランバスター】!」
【トクサツ大百科】に載っていた射撃武器名を、叫んだ。
盗賊たちを、一発で戦闘不能にした。
全滅させたが、矢もなくなってしまう。
「矢が尽きたか! ならこれならどうだ!」
狂信者が、魔物の姿に変わる。オークの亜種な見た目だが、ヤギの角まで生えている。
「これは、すごいね。いかにも悪党だ!」
感心している場合じゃない。魔物の太い腕が、私をぶん殴る。
私はとっさに、剛腕を盾で防いだ。
「ごおほお!」
しかし、かすっただけで私はふっとばされる。
「腕が、折れたか」
回復剤は、持ってきていない。
【ヒール】の魔法は持っているが、間に合わなさそうだ。
「思っていたより強いな」
カゴから、妖精が出てきた。
「早く逃げて! ここは私が」
私は妖精に、逃げるように促す。
しかし、妖精は逃げようとしない。だが。
『拙者、魔石を所望するでござる。力を貸すでござる』
「コイツ声、低っく!」
……なんか、私の知っている妖精さんと、イメージと違う。美人さんなのに、ヲタみたいな話し方をしやがる。
解釈不一致ながら、魔石は大量に余っているのでくれてやることにした。
「たんとお食べ!」
『ありがたし! うましっ! 助かるんが如し!』
コーンフレークのにガバーっと、バリボリ魔石を食らう。
『かたじけなしっ! 拙者、力を貸すンゴ!』
私の装備が、光り輝き出す。
折れた腕までは復活しなかったが、他の装備はなんだかパワーアップしたような予感がした。
私の頭に、【トクサツ大百科】の原理が一気に流れ込んでくる。
百科に載っていない情報まで、私の中に入り込んできた。
……この力と知識は、まさしく【銀装令嬢】の!
銀装令嬢は、おとぎ話ではない。やはり、どこかの世界で実在していたんだ。
この妖精が、その担い手なのかもしれない。
「なにをしても、魔王の力を分けていただいたこの――」
「【ダイナモ・スラッシュ】!」
相手の名乗りを遮って、私はオーク型魔物を切り捨てる。
カウンターで足に棍棒を食らったが、まあいい。足くらい、くれてやる!
「名乗りなんて、お前にはぜいたくなんよ」
私は、剣を収めた。
同時に、オークの魔物は消滅する。
勝ててよかったー。五体満足ではないけど。
「助かった。ありがとう。私は、ルクレツィア・アルジェント。レツと呼んでね」
『拙者は、ペスカと申します。レツ殿と契約いたしますぞ。その前に』
ドドドッ! と、なにかがこちらに向かってくる。
新手かと思ったが、足音は妙に軽い。
少女たちが、ワラワラとアジト跡から出てくるではないか。ここに、幽閉されていたのか。どうやら知らないうちに、この子たちを助け出していたようだ。
「ありゃあ」
私は、装備を解除する。
さっきので、パワーの大半を失ってしまった。身動きが取れない。
服も、ボロボロだ。
さらに服を汚水でべショベショにして、私は「盗賊に連れ去られた」ように設定する。
『どういたそうか? 拙者、また捕まってしまうでござるよ』
「任せて。これを」
私は、ペスカに小さいカギをよこす。
「地上を出て貧民街を抜けた先に、私の小屋があるんだ。そこへ行っておいて。このキーがあれば、アンタでも開けられるよ」
少しの力でも簡単に開くように、あそこの扉は細工をしてある。このカギは、いわゆる認識票だ。
『レツ殿はどうなさって?』
「顔パスだから、平気だよ」
『ではなくて、早くお逃げくださらなければ』
「いいって。ささ、早く」
私は、ペスカを追い払う。
すぐに私は、騎士団に救出された。
「おお、ルクレツィア! こんなボロボロになって!」
「すぐに手当を! それと、お風呂に入れて上げてちょうだい!」
両親が、真っ先に駆けつけてくれる。
「ありがとう、お父様お母様。でもその前に。ひとまず、チーズバーガーをちょうだい。さっきのカフェで、食べそびれちゃって」
その後、私は回復魔法を施されて腕が直った。
フロにも入れてもらい、チーズバーガーで腹を満たす。
騎士たちや両親から質問攻めに遭ったが、「盗賊に捕まった」の一点張りで通した。
どうやって助かったのかは、教えない。
「知らない」と言えば、信じてもらえた。「怖い体験をしているから、思い出したくないのだろう」と、親は解釈したみたい。
騙しているようで、心苦しいけど。
盗賊団が謎の死を遂げたことで、私の行動を知っている証人はいない。私とペスカを覗いては。
捕まっていた娘たちの証言から、謎の一派が動いているのが広まった。大々的な調査が、始まったらしい。
世間では、「謎の無登録冒険者が、気まぐれで救ったようだ」とのウワサが、流れているという。
「だからあれだけ、危ないことはするなと言っただろうが!」
「私たちは、あなたを心配しているのですよ」
両親が気にかけてくれていることには、感謝している。
それも、実際はどうなのか。
本心から心配してくれているのは、もちろんわかる。
とはいえ、政治的なパイプがほしいのも事実だろう。
この辺は、ちょっと割り切れない。
「そんなことより、大変なんだよ。魔王が」
「今は、自分の心配をなさい。あまり出歩いては、ダメだよ」
このままでは、謹慎を食らいそうだな。
今後は、より高度な変装が必要かも。
といっても、今日も今日とてナチュラルに脱走するわけだが。
「さてさて、妖精は元気にやってるかな?」
満を持して、秘密の小屋へ
そこは、明らかに妖精の棲家とかしている……はずもなく。
「なんじゃこりゃあ!?」
私の小屋は、祭壇付きのオタク書斎状態になっていた。
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