第33話 マネジメントミーティング
「無茶ぶりは分かりました。で、もうやるしかないなら、俺からもリクエストがあります。」
「そうだな。よく話し合っておこう。」
未来が、監督して交渉を始め、イレさんが応じる。マネジメントミーティングの開始だ。
「まず、選手を増やしてください。今のままでは、とても天皇杯とリーグ戦を闘い抜くことは無理ですね。」
「そりゃ、その通りだ。で、何人いれば天皇杯勝てる?」
「走れる人が5人。」
「走れるって、どれくらいだ?」
「少なくとも、一試合に12キロは走れる人じゃないと話にならないですね。さかつくだと、芦沢さんくらいじゃないですか?芦沢さんは、平均で13キロ近く走ってるんじゃないかな。」
芦沢と言えば、もんちゃんのことだ。確かによく走る。
「もんだけかよ………。勇気は?」
「勇気は、10キロ台ですよ………。他の人も10キロがせいぜいですね。」
さかつくの試合を誰かが計測してくれてる筈がないので、未来の肌感覚なんだろう。
「そりゃ、走れるチームがいいに決まってるが、12キロも走れるやつ5人なんて、どうやったら集まる?」
「金さえあれば、集まるんじゃないっすか?」
「ねぇな………。」
イレさんが即答する。
「そりゃ、お金があったら高校生に監督やらせないですね。まぁ、ユースで気になるやつが何人かいますんで、そいつら連れてきますか。」
「きますかって、簡単に言うな~。」
「セレクションも通らず、大学とか社会人からも声がかからないやつの中に、何人かすごいのいるんすよ。勇気だって、社長以外に誰も才能に気づいてなかったでしょ?」
「そりゃすごいな。金は弾めないが、飯はいっぱい食わせてやるぞ!」
イレさんにも、ユース選手の獲得は予想外だったようだ。けっこう食いついている。
「でも若造だらけのチームなんで、活きのいい先輩達が欲しいですね。やっぱり、選ばれなかったやつらなんで、それなりに課題がたくさんあるんすよ。
仲地さん達は、確かにいい先輩だろうけど、年が離れすぎてる。うまくいってないチームって、ほとんどが世代交代の失敗が原因になってますからね。
芦沢さんくらいの世代で、頼れる人がもっと欲しいですね。」
「もん世代で活きのいいやつか………。真(もん弟)か?他に誰かいるかな………。AOの連中は、何人か欲しいな。」
「イレさん、ゲームじゃないんで………そんなに簡単に入ってもらえません。真(もん弟)だって、J1に仮内定してるんですよ。それに、金がなくなります………。」
ヨウがたまらず口を挟む。
「中堅選手の獲得は、ヨウさんの宿題ですね。」
「マジっすか………。」
未来の新体制、末恐ろしい。
「あとは、練習時間増やして下さい。天皇杯獲るチームが、仕事の合間にサッカーやってちゃダメでしょう。」
「そこは、賛否両論だと思う。あいつらは、仕事を通して深いつながりを持っている。それがサッカーに良い影響を与えている側面もある。それに、引退後も仕事があるから安心してサッカーに集中できてる。」
「安心してサッカーやって、全国トップに立てますか?正直、いまのさかつくは、高校チームよりハングリーさがないし、全国クラスの高校チームに予選で当たったら、負ける可能性も十分にありますよ。」
「おい、中村君。」
ヨウが言い過ぎだぞと、注意する。
「すみません。言い過ぎました。あと、ヨウさん、俺のことは未来と呼んで下さい。監督という立場ですが、一番下っぱでもあります。」
「ヨウ、こいつに監督を任せる意味はお前にもわかるだろ。なるべく自由にできるようサポートしてやれ。未来、お前は好きなように行動して、好きなように発言しろ!」
「「分かりました。」」
「あ、ヨウさん、これからヨウさんをびしばし鍛えるんで。よろしく。」
うへ~。
このちっこい高校生に、恐怖を感じる42歳だった。
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