再び一つに

ばかわたし-bakawatasi

沈黙の雪の下で

風が鳴いている。


 灰色の空から、雪が舞い落ちる。かつて人々が「終末の日」と呼んだあの爆発から、三ヶ月が経った。


 ウラル地方の外れにある廃村。その中心に、倒壊しかけた家がある。瓦礫の下で、毛布にくるまった小さな影が震えていた。十二歳の少女――エレーナ。頬は痩せこけ、手には霜焼けの痕。けれどその目だけは、凍りついたこの世界に抗うように強く光っていた。


 


 今日も、父の帰りはない。


 戦争が始まってから、父はどこかの研究施設に召集され、そのまま行方不明になった。母は爆撃の日に崩れた家屋の下。泣く時間もなかった。気づけば生き延びるための時間しか、残されていなかった。


 


 空腹と寒さの中、エレーナは一つの希望にすがっていた。


 父が残した言葉。


 「もしもの時は、地下室に降りなさい。そこに“世界を守るもの”がある」


 信じられるのは、それだけだった。


 


 その日、雪をかき分けて納屋の裏へ回った彼女は、石板に覆われた小さな入口を見つけた。力を込めて鉄扉を開くと、古い金属の階段が地下へと続いていた。


 埃の匂い。凍てついた空気。だがそこには、確かに父の残した“何か”があった。


 


 部屋の中央に置かれていたのは、古びたノートパソコン。ボロボロのバッテリー、割れた画面の隅に貼られたステッカー。「Лаборатория Связи ― 通信研究所」と読める。


 傍らには、父の筆跡で書かれたノート。


 《この端末は、旧ロシア軍の通信衛星と接続可能な最終プロトコルを内蔵している。信号は弱いが、空に残された衛星群の一部はまだ応答するはずだ》


 エレーナは目を見開いた。


 


 電源を入れようと試みる。通電しない。周囲を見回すと、小さなソーラーパネルがケーブルと共に壁に貼り付けられていた。


 日が沈む前、彼女は雪をかき分けてパネルを屋根に設置した。陽光は弱い。それでも、希望がほんの少し、バッテリーに蓄えられた。


 そして夜。彼女は震える手でノートPCの電源を押す。


 


 数秒後、画面がかすかに明るくなる。


 ピピッ。電子音。


 「システム再起動中...」

 「接続試行中...」

 「最後のアップリンク記録:西暦2029年12月24日」


 エレーナは息を飲んだ。


 ――繋がるかもしれない。世界のどこかと。


 


 その瞬間、屋根の外で、何かが反応した。微かに“ビー”という信号音。


 ノートPCに表示が追加される。


 「人工衛星番号:RUSNET-03 応答中」


 誰もいないはずの空の上で、何かが応えている。父が遺した希望は、まだ生きていたのだ。


 


 雪明かりに照らされた地下室で、少女は画面を見つめ続ける。


 ――世界は、まだ完全には死んでいない。


 


(つづく)

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