ギャルな幼馴染に裏切られた翌日、もう一人のクールボーイッシュな幼馴染が髪を伸ばし始めた
せせら木
第1話 嘘告白とショートヘア
「――
夏の暑さが残る九月。
文化祭が終わった二日後。
俺――
「は……?」
大きい声じゃない。
じゃないのだが、俺の出した疑問符交じりの声は、セミがけたたましく鳴くこの場所でもえらく通ったように思う。
苦笑いを浮かべたまま、申し訳なさげに星羅は続ける。
「何て言うか、本当に単純なんだけど、罰ゲームで誰にでもいいから告白して来て、って話になってさ~。ほら、千佳たちだよ。千佳たち。甚くん、あんま絡みないかもだけど、さすがに誰なのか、くらいはわかるでしょ?」
「……わかる……けど」
言われて、すぐにシルエットが浮かんだ。
星羅が属している友人グループのリーダー格に位置する女子だ。
見た目自体そこまで派手ではないが、放っている雰囲気が陽キャのそれであり、俺のクラスメイト達もよく小山の名前を話に出している。
要するに人気者であり、友人が多い。そんな女子だ。地味な俺とはまるで住む世界が違う。
なるほど、となった。
あいつが星羅にそんな命令をしたのか、と。
けれど、同時に疑問符も浮かぶ。
なぜ、星羅は俺に対して嘘告白なんてものを仕掛けてきたのか。
両想いだった、なんてことは当然言えない。
言えないが、小さい頃からずっと一緒にいて、仲良くしてきて、互いの思いだって推測ながらある程度察していたはずで、友達以上、恋人未満のような、そんな関係だったはずだ。
それなのに、いったいどうして……?
ひどくショックを受けた。
絶望した、という直球の表現も、今は正しいのかもしれない。
中学の頃、二人で一緒に遠出をして、縁結びの神社に行った。
それだって星羅が二人きりで行こうと提案してきたもので、俺もはもう、舞い上がりに舞い上がって、いつか彼女に釣り合う男になろうと心に誓って、あの時の雰囲気は、完全に恋人になる一歩手前くらいのものだったはずで。
今まで変に背伸びをせず、取り繕わず、自分らしく生きることをモットーにしていた俺が、ようやく少しだけ星羅に近付けたのかもしれない、と自らを曲げての成長を実感した矢先にこんなことが起こった。
夢であるならば覚めて欲しい。
そう願うものの、これは紛れもない現実で、俺の喉にはピリピリとした痛みが走っていた。
唇が乾燥して、咳払いをせずにはいられなくなる。
出した声は、少ししゃがれてしまっていた。
ぎこちない佇まいだ。
そうやって動揺し、ぎこちなくなる俺を正面から見つめていた星羅は、未だ浮かべ続けている苦笑のまま、俺に投げかけてきた。
「大丈夫だよね? 甚くん、アタシからの告白、そんな本気として捉えてなかったよね?」
と。
そんなの反則だ。
ズルい。
そう問われたら、こっちとしては頷くことしかできなくなる。
本当はどうしようもないくらい本気になっていて、嬉しくて、死ぬほど喜んだっていうのに。
「……まあ、そうだな。お前からの告白なんて一ミリも本気で捉えてねーよ」
うつむき、唇を噛みながら返してやった。
心臓が抉り取とられるような、そんな思いに駆られる。
星羅「だよね」と笑った。
笑うな、と言いたい。
そんな楽し気に、いつもと変わらない様でいるな、と。そう言ってやりたかった。
でも、それは叶うはずが無くて――
「私も……うん。同じ気持ち。甚くんと恋人なんて……ね? 考えられもしないよ、そんなの」
少しのぎこちなさは俺への配慮のつもりなんだろう。
尊く見えていた星羅の仕草の数々は、途端にどうでもいいものへ変わっていって、俺はそこから先、ただひたすらに薄ら笑いを浮かべながらうつむき続けた。
こんな奴を好きだった自分がバカのように思える。
抱き続けていた十年来の想いは、単純でしょうもない罰ゲームに燃やし尽くされてしまったのだった。
●〇●〇●〇●
そこから先、俺はどうやって道を歩き、家の目の前まで辿り着いたのか、ちゃんとした記憶が無かった。
何もかもがどうでもいい。
自室に入ったら、何も考えずに寝てしまおう。
父さんや母さんが何を言ってこようと関係ない。
付けられた自分の傷は、自分じゃないと癒せない。
とにかく、誰にも傷付けられない安全圏へ潜り込みたかった。
そうじゃないと、今の俺は途端に足元から崩れ去ってしまいそうだ。廃人になってしまう。
そんな思いで、家の扉を開けようとした矢先だった。
「――甚太」
星羅とは違う、聞き覚えのあるもう一つの声に呼び止められる。
振り返れば、そこには予想した通りの女の子がこっちを見つめて立っていた。
「……
俺が名前を口にすると、その女の子は結んでいた口元を小さく綻ばせる。
黒髪のショートカットで、部活指定のジャージに身を包んだ彼女。
俺のもう一人の幼馴染で、星羅とは違うタイプの美少女。
「星羅とは一緒じゃないんだ? てっきり二人で帰ってるのかと思った」
「……いや、そうはならないよ。別にさ」
正直、このタイミングで夷隅とは会いたくなかった。
傷付いた分、俺はその痛みをすべて優しい彼女へ暴露してしまいそうで、それが止まらなくなりそうで。
クールだけど、俺にだけいつも見せてくれる静かな優しさを、夷隅はこの時も間違いなく発揮してくれるだろうから。
勘弁してくれ、と心の中で思いながら、俺はうつむきにうつむいていた。
出て行く声も小さくてしゃがれている。
もしかすると、今俺が発した言葉はちゃんと夷隅に伝わっていないかもしれない。
そんな風に考えていると、思った通りはっきり声が聞き取れなかったのか、夷隅は俺の方へ接近し、耳を近付けるような仕草をしてきた。
「……? 甚太、今私になんて言ってくれた?」
静かで、落ち着いている夷隅の声音。
その落ち着きと静けさが傷付いた心に一層沁みて、俺は少し泣きそうになってしまった。
でも、ここで正直に泣けるはずもない。
こぼれそうになる涙をどうにかこらえ、首を横に振る。何でもない、と。
だけど、夷隅はそれでも俺から離れるようなことをせず、
「何も無い、なんてことは無いよね? 何かあったからそうやってうつむいてるんでしょ?」
「……いや。ほんと……何も……無くて」
「……うち、来る? 今日、お父さんとお母さん帰り遅いし」
「……いいよ。何も無いんだから、何も話すことも無い……し」
ズビッ、と思わず鼻をすすってしまった。
ダメだ。
この仕草と音で、泣いていることが恐らくバレた。
「星羅と何か……あったんだよね?」
「……っ」
「付き合いたてって、どう考えても一緒に帰ると思うし、それをせずに甚太が苦しそうにしてるってなると、私としても色々推測するよ」
その色々とは、要するに喧嘩的なことを指しているんだろう。
本当のことを教えたら、このもう一人の幼馴染はどんな反応をするのか。
ちゃんと想像ができなかった。
夷隅はどんな顔をするんだろう。
「無理のない程度でいいから、何があったのか、私に教えて? 甚太」
「……夷隅……」
「星羅は……何となく、しばらく帰って来なさそうだし」
言って、夷隅は俺の隣の一軒家へ視線をやる。
俺たち三人の家は、見事なまでに三つ連なって立っていた。
左から、夷隅、俺、星羅という順だ。
こうして家が近いから、幼い時からよく三人で遊んでいた。
今となればそれも嫌な要素でしかない。
俺は、明日から会うかもしれない星羅の前で、どんな顔をしていればいいのか。
あまりにも苦しかった。考えたくもない。
考えたくもないけど、問いかけて来る夷隅を無視することもできない俺は、ゆっくりと顔を上げ、
「……笑える……よな」
そう、最大限の自嘲交じりにポツリと呟く。
俺の呟きに、「何が?」と夷隅は疑問符を浮かべた。
その勢いのまま続ける。
「嘘だったんだと。星羅が俺にくれた『好き』って言葉」
俺の言葉に呼応するように、風が強く吹き抜けていく。
その風は、俺の頬を撫で、冷たさを運び、そして――
「……え?」
ショックを受けたかのようにポカンとする夷隅の短い黒髪をふわふわと揺らしていくのだった。
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