バイカルにて血を洗う

バイカル湖南岸。

凍てつく大地に、再び戦車の轟音が鳴り響いた。


帝政ロシア第一近衛機械化軍が、シベリア戦域への初進軍を開始したのは、皇帝即位から十日後。

作戦名は《銀河作戦》。

鉄道・ガスパイプライン・水資源を制圧し、バイカル周辺の勢力を「帝政下の秩序」へ引き戻す目的だった。


敵は、一つではない。

バイカル湖を囲むように点在する、四つの軍閥が反帝連合を組み、共闘体制をとっていた。


《バイカル環湖防衛評議会》

《ザバイカル人民戦線》

《バルグジン仏教共和国》

そして、《ユーラシア義勇軍団》――。


その中でも最大の脅威は、最後の“義勇軍団”であった。

元NATO兵、中国の退役特殊部隊、チェチェン過激派、ウクライナから流れてきた傭兵。

彼らは「帝政ロシアの拡張主義に対する国際抵抗勢力」として、明確な殺意を以ってこの地に集まっていた。


「敵部隊、総数1万2千。

うち外人部隊と見られるのが約半数。装備はNATO規格中心、ドローンあり。

地形を熟知しており、地雷原と要塞線で迎撃準備済み」


参謀の声が、作戦司令部に響いた。

プーチンは現地には赴かず、クレムリンの地下司令所から戦況を逐一モニターしていた。


「何も変わらん。外国の連中がまた、我が国の地で遊び始めた」

彼はつぶやいた。

「歴史は繰り返す。だが今回は、我が勝つ」


現地、バイカル湖南岸――


帝政軍の戦車部隊が先陣を切って突入した瞬間、地雷が炸裂。

爆煙と土砂が宙を舞い、後続の歩兵部隊が一時停止を余儀なくされた。


「第五小隊、損害甚大!進路変更不能!」

「右翼に伏兵あり!山肌にミサイル陣!」


空中には敵のドローンが十機以上、爆撃と偵察を繰り返していた。

帝政側も電子妨害を試みたが、相手は一枚上手だった。


戦場が最も激しく燃え上がったのは、リストビャンカ村周辺。

帝政軍の装甲歩兵部隊が村を制圧しようと突入したが、

民兵に偽装した義勇軍団の狙撃兵によって、隊長が狙撃され戦列が崩壊。


「前線、再編成困難です!敵はゲリラ戦に移行!」


だが、その報告を受けたプーチンの顔には、一筋の笑みが浮かんでいた。


「いいぞ。抵抗は強い方がよい。

こちらが“統治する価値”があると、世界に見せねばな」


そして午後三時、空が割れた。

帝政空軍が、カザンから飛来した新型ステルス爆撃機を投入。

一撃でバイカル湖南岸の補給拠点を爆破。

追って降下してきた空挺部隊が、義勇軍団の後方を制圧した。


三日三晩の戦闘の末、反帝連合は壊滅。

義勇軍団の残党は、東へと敗走し、アムールの密林へと消えていった。


戦いが終わったバイカル湖畔に、帝政軍の旗が翻る。


プーチンのもとに、勝利の報が届いたのは、作戦開始からちょうど七十二時間後。

彼は報告書を一瞥し、立ち上がった。


「始まったな。

シベリアは、もう我が掌の中にある」


そう言って、彼は地図の左端――ウラルの麓へと視線を向けた。


まだそこには、もっと巨大で古い、敵がいる。


✅次回(第4話)予告:

「ウラルの牙」

バシコルトスタンとスヴェルドロフスク。

帝政に敵対する最大の勢力、「ウラル・シンジケート」が動き出す。

そして、プーチンに届く、ある亡命元帥からの密書――。

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