第14話 反抗の刃
再びアルヴィス達とアングのせめぎ合いが始まる。アングがその醜く変貌した右腕を振るい、一行へと殴りかかる。それをどうにか対処し攻撃を仕掛けるも、彼らの攻撃は物理、魔法問わずその右腕によって封じられてしまう。
その繰り返しが続き、一行の体力は段々と消耗していく一方であった。その戦いの様子をツェーザルとジョナサンが見守る。
「……議長、やはりあのような姿になってしまった彼に勝つ事は厳しいのでは無いでしょうか?やはり、少しでも生き延びる為には従うしか……」
「諦めるのはまだ早い。あの者達が助けに来てくれたという事は、運命はまだ我々を見捨ててはおらぬという事だ。あの者達の勇気、無駄にする訳にはいかない。我々も手を貸さねば……」
弱気な言葉を漏らすジョナサンにそう言うと前に出ようとするツェーザル。だが、老いた体で立ち向かおうとするその姿は傍から見るととても危なっかしく見える。
見ていられなかったジョナサンはツェーザルを制し、必死になってそれを止める。
「無理をなさらないで下さい、議長!分かりました、議長がそう言うのであれば私もあの方達を信じる事にしましょう」
そう言ってアルヴィス達の戦いの様子を見守る二人。アングの戦い方は一目見るだけでもその右腕に頼り切った戦い方をしているのがすぐに分かり、実際それによって底上げされた身体能力はアルヴィス達を圧倒し、優位を取る事には成功している。
一発でも命中を許せばその瞬間、間違いなく終わる。そのようなギリギリの綱渡り状況に追い込まれ、神経を削られている彼らを見てアングはほくそ笑んでいた。
「ククク……あれだけ粋がっていた割には、ちょこまかと逃げ回るしか出来ないようだな。どうだ?今からでも地に手をついて自らが無能な劣等猿だと認めれば、見逃す事も考えてやらない事も無いが?」
防戦一方のアルヴィス達にそう言い放つアングであったが、一行の眼差しから立ち向かう戦意が失われる事は無かった。
「……その猿とやらにまだ翻弄されている時点でお前の進化も大したことはないな。だったら、尚更俺達が諦める理由なんて無い。力を貰っただけで偉ぶっているような奴に頭を下げて媚びへつらう方がよっぽどの恥だからな」
アングからの降伏勧告を真っ向から否定するアルヴィス。挑発混じりの言葉選びが気に障ったのか、先ほどまで余裕に満ちていたアングの表情が一変し、段々と怒りが顔に表れる。
「手加減してもらっていたと取れないのか、これだから無能な猿なんだよお前達は!猿如きがいい加減、立場というものを弁えろ!」
怒りの勢いに身を任せ、アングはアルヴィス達の元へと右腕を振り下ろす。感情の乗りすぎたその動きはとても単調であり、一行はすぐに回避までの道筋を組み立てる事が出来た。
予測通り、振り下ろされてからすぐに回避行動へと移り、その攻撃は地面を叩きつけるだけに留まる。そして、攻撃を避けながらシャルロッテとメロディの二人が詠唱を始める。
「光の鎖よ、その輝きで仇なす者を縛り付けよ!拘束術式『プリズムチェイン』!」
シャルロッテの詠唱が完了すると、アングの周囲に複数の小さな魔法陣が現れ、そこから光の鎖が伸びてアングの体に巻き付き拘束する。
「無駄だと言っているだろう!」
そう吐き捨てながら右腕で乱暴に光の鎖を引き千切るアング。鎖がバラバラになり粒子となって消える中、アルヴィスは剣を構えて疾風の如く相手に迫る。
「馬鹿め!その程度で隙を突いたつもりか!」
アルヴィス目掛け迎え撃つべくその右腕で薙ぎ払おうとするアング。その時、突如巻き起こる突風が彼らの間を吹き抜ける。アルヴィスの体は宙を舞い、アングの右腕は大きく空振りする。
「何だと!?」
想定外の回避、その風の元を辿ればそこにはメロディの姿があった。
「突風術式『ウインドガスト』!さあ今だ、アルヴィス!」
突風によってアングの真上を取ったアルヴィスは剣を上段に構ると、重力に身を任せアング目掛けてその剣を振り下ろす。
「くっ……!」
咄嗟に右腕で防ごうとするアング。だが、大きく振った腕を戻す事は間に合わず、上がり切る前にアルヴィスの刃はアングの顔面へと食い込んでしまう。
「ぐあああああああああああっ!」
その瞬間、アングは悲痛な叫びを遺跡中に響かせながら右腕で乱暴にアルヴィスを振り払うと、左手で顔面を抑える。その指の間から赤い鮮血が滴り落ち、遺跡の地面を汚していく。
「くそっ、おのれぇ……!猿如きがよくも私に傷を……!」
悪態をつきながら言い捨てるアング。出血は多く見えるものの、右腕によってその傷は思ったよりも深くはならなかったようだ。だが、右腕と違い人の身であるその肉体へと受けたそれは彼にとっては掠り傷とはいかない。
「耳長猿め!私の顔に傷をつけたお前だけは絶対に許さない。今すぐにその顔面を何十倍、何百倍にもズタズタに引き裂いてくれる……!」
怒りに身を任せ、喚き散らしながらその右腕を振りかざすアング。だがその時、突如としてその右腕が段々と萎むように小さくなっていく。
「な……何だ……!?」
突然の事にアングだけでなくアルヴィス達も驚く。先程まで猛威を振るった異形の右腕が幻であったかのようにすっかり元の人間の腕へと戻ってしまい、アングは舌打ちをする。
「ちっ、魔力が持たなかったか……!」
「……どうやら、勝負はついたようだな」
アングに剣を向けながら言い放つアルヴィス。悔しそうに唇を噛みしめるアングであったが、これ以上の戦闘の継続は得策でない事は彼自身も嫌でも理解していた。
「おのれ……ここは引くしかあるまいか……だがこれで終わったと思うな!私が完全な魔族へと進化すれば、お前達のような下等な猿など一瞬で捻り潰す事が出来るのだ!次こそは必ず、お前達猿共に自分の愚かしさを知らしめてくれる!」
するとアングの体が黒い霧に包まれていく。それは完全に彼の体を覆い隠したかと思うと、突如として霧が四散し、まるでそこには最初からいなかったかのように姿を消したのであった。
「消えた……!?くそっ、逃げられたか!いや、それよりも……」
そう言ってメロディはツェーザルとジョナサンの元へと駆け寄り、アルヴィスとシャルロッテもその後に続く。
「先生!議長!良かった、ご無事で……」
「メロディこそ、無事で良かったです。ところでその方々は?」
安堵するメロディの後ろに立つアルヴィス達に視線を向け、問いかけるジョナサン。すると、紹介しようとするメロディの前にシャルロッテが口を開く。
「お久しぶりです、ジョナサン先生。私です、シャルロッテです」
シャルロッテからのその言葉にジョナサンは驚く様子を見せる。そして、ツェーザルも何か確信を持ったような深く頷いた。
「……やはり、そうであったか。あの事件で亡くなられたと思っていたが、無事でいらっしゃったとは……本当に、良かった……」
「えっ……?」
二人のその様子を見て一体何事かと混乱するメロディ。そして、次に明らかとなるその真実に彼女は再び驚かされる事となった。
「よくぞご無事で、アストランティア王国第一王女、シャルロッテ=S・アストランティア殿下」
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