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その夜、茉耶のスマホがもう一度震えた。




《李玖》

「次の曲も楽しみにしてる」




たったそれだけの短いメッセージ。




──だけど、どうしてだろう。




たまらなく嬉しくて、胸がじんと熱くなる。




“本当は他に言いたいことがあるんじゃない?”




そんな気がしたのは、




きっと気の所為じゃない。




画面を見つめたまま、




声に出さずに、そっと呟いた




「この曲も

……次の曲も、李玖のことなんだよ」




そう、心の中だけで呟いたあと、




茉耶はそっと、机の上のノートを開いた。




薄く走った鉛筆の線。




まだ未完成のメロディと言葉のかけら。




──それでも、もう始まっていた。




何度も消しては書き直したサビの一節に、




彼の笑顔や、優しい声が滲んでいる気がした。




《君が名前を呼んだ瞬間に、

世界が少しだけ優しくなった》




まだ、誰にも見せていない。




この歌詞の“君”が、




誰なのかも、もちろん言ってない。




でも、自分ではちゃんとわかってる。




書けば書くほど、心の奥に浮かぶのは、




李玖の顔。




ペンを持ち直し、深く息を吸って、




またノートに向き直った。




──少しだけ、素直な自分になってみよう。




この歌がいつか、届く日が来るなら。




今度こそ、ちゃんと気づいてもらえるように。




“特別”になりたいと願ったあの日。




その答えを、私は歌で届けたい。

















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