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午後の講義が終わって、
教室内は学生たちが帰り支度をしている。
茉耶もバッグに教科書をしまっていたけど、
どこか落ち着かない。
今日一日、心がざわついていた。
原因はわからない。けれど……。
──そのとき、突然、校内アナウンスが鳴った。
「学生の皆さんにお知らせします。
現在、校内に不審な人物の侵入が確認されました。
各自、安全のため教室など施錠可能な場所に避難し、
指示があるまで移動を控えてください」
教室内がざわつき、どよめきが広がる。
「えっ、マジ?」「やばくない?」
ざわつく学生たちの中で、茉耶の身体がピタリと止まった。
鼓動が一気に早くなる。
足元がふわっと浮いたような感覚。
──誰かがドアを「バンッ」と強く閉める音。
その一瞬で、茉耶の意識が一気にあの夜へ引き戻された。
*
「うるさいんだよ、お前は!」
*
記憶の断片がフラッシュバックする。
肩が震え、喉が苦しくなって、呼吸が浅くなる。
そんなとき。スマホが震えた。
ポケットの中で細かく震えるその感覚に、
私は反射的に取り出す。
画面に表示された名前に、息をのんだ。
「李玖」
慌ててスライドして通話ボタンを押す。
「……茉耶!?」
焦ったような、
でも何とか落ち着こうとしている李玖の声が、
耳に飛び込んできた。
「……っ、李玖……」
自分でも気づかなかった。
どれだけ心細かったのか、
その声を聞いた瞬間に分かった。
「どこにいる?大丈夫?」
「2号館……214講義室。…外出れなくて」
「わかった。動かないで。
……今すぐ行く。すぐだから」
その声に、胸の奥の恐怖が少しずつ溶けていく。
「……怖い」
「大丈夫。俺が行く。絶対に、迎えに行くから」
その言葉が、心にじんわりと染みて、
震える指でスマホを強く握りしめた。
「……待ってる」
通話が切れると同時に、
外のざわめきが一瞬遠くに感じた。
私の世界の中には今、李玖の声だけが残っている。
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