警視庁のクイーンと麻取のシャーロック

あしわらん

第1話


 背中を這うような冷気に身震いして、僕は目を覚ました。まだどろんとした眠気が頭の中に残っている。寝不足が続いていたところに酒なんか入れたせいか、飲んでいる間に寝落ちしてしまったらしい。頭を振って体を起こし、相手が既に帰ってしまったことを知る。壁掛け時計は十一時前を指している。随分寝たな。


 いくつもの空のグラスがちゃぶ台の端に寄せてある。一つだけ目の前に置かれた水のグラス。僕が起きた時のために用意してくれたんだ。なんだか余計世話をかけてしまった。


 何やってんだろうな、僕は――


 ため息を吐いたら、ポケットの中でスマホが震えた。電話に出ると、聞きなれた声。いつもはウザいと思うのに、なんだかほっとした。僕なんかのことを、いつも気に掛けてくれる人がいる。それがどんなに恵まれたことか思い知る。少し話しているうちに気付いたら泣いていた。


 何泣いてるんだろうな、僕は――

 何を謝ってるんだろうな、僕は――


 いや。僕は謝らなきゃいけないけど、本当に謝らなきゃいけないことは他にある。


 電話を切って涙をぬぐう。喉が渇いた。酒を飲んで水分を取らないと脱水状態になって脳みそが縮むらしい。泣いたし、今まさに脳が縮んでる実感が湧くくらいに喉がカラカラだ。


 グラスを手に取り、がぶっと一気に中身の水を煽る。

 口の中に残る金属の味。気付いた時にはもう遅かった。

 グラスが手から滑り落ち、床に砕け散る。


「っぐ……! がはっ……! があああっ……!」


 ガラス片の上に倒れ込み、喘ぎながら両手で喉元をつかむ。そんなことをしても息はできるようにならなくて、意識が朦朧としてくる。


 悔しいな……

 結局僕は、何もできずに死ぬのか。

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