第9話桐山の思惑

 過去の話を続ける桜苺に引き込まれていた冬渡は、途中で話が途切れるのを見計らって質問をする。

「それで、ウェズさんはいま」

 桜苺は視線を落として事実だけを告げた。

「目をさました弟に殺されたわ」

 その言葉を口にした瞬間、彼女の目が酷く冷たく光るのを見た。

 ーー憎悪。

 桜苺の目的がなんとなくわかったような気がした。

「な、なあ。なんでこいつはここで眠ってるんだ? 目を覚ましたんだろ? 俺は昔こいつに襲われて、桐山に助けられてさ……まさか、あの時に、ウェズが?」

 桜苺が軽く頷く。

 やはり、冬渡がレイスに襲われた夜、姉のウェズが絶命していた。

 レイスを見据え、さらに質問を投げる。

「死んでるのか、こいつ」

 それについて桜苺は首を横に振った。

「こいつは不死の存在。正確にはレイスに宿っている存在が、不死」

「ふ、ふし?」

 なんだか話がオカルト的になってきた。思えば桜苺は宗教団体の責任者なのだ。

 微妙な顔つきになった冬渡を見て、桜苺は小馬鹿にしたようにころころ笑う。

 流石にむっとして口を尖らせる。

「なんだよ」

「だって、貴方、自分がどうなってしまったのか分かってるでしょ」

「……あ」

 そうだった。自分はあれだけの銃撃を受けても死なない人間になってしまったのだ。

 ーー人間?

 そう自分を呼ぶことに違和感を覚えた。

 両手を眼前に広げて声を震わせる。

「俺は、もう人間じゃ、ないのか」

 その疑問にシンプルな回答が耳に届く。

「当たり前じゃない。そもそも、あんな奴に手駒にされた事が運のつきよ」

 桐山のことを言っているようだ。

「レイスが不死存在だとウェズから聞き出して、あいつは、レイスから血を抜いて人間に試した」

「どんな連中に?」

「手駒よ」

 桜苺の目が冬渡へ向けられて、背筋が凍る。

 まさかという予感は的中した。

「俺はレイスの血を飲まされてたのか?」

「あいつから飲み物を貰った記憶ない? どういう訳かあなたには何の反応もでなかったみたいだけど」

「ま、まて、俺はお前にも血を飲まされたんだぞ」

「あれは、ウェズの血よ」

「え、じゃあ」

「そう、桐山は私が貴方にレイスの血を飲ませたって思ってるけど、貴方だけにはウェズの血を飲ませたの」

 ウェズは普通の人間なんだろうか。その質問に桜苺は首を縦にはふらない。

「不死存在に唯一対等に戦える力を持つ一族の末裔」

「……なあ」

「なによ」

「レイスの血に適合した人間っているのか」

「いないわ。みんな死んだわ」

「桐山はなんでレイスみたいな危ない奴の血を、人間に」

「なにも知らないのね。改革よ。日本もしくは人間の改造。まあ、失敗したけどね」

 まだ諦めてはいないでしょうけど。と、どうでも良さそうに呟いた。


 それにしてもすっかり身体が冷えてしまった。身震いした冬渡は桜苺にそろそろ帰ろうと声をかけた。

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