vol.13 仕事がイチバーン

 笑い声とグラスの音が重なる夜。倉庫の湿度を気にしていた手が、今はジョッキを握っている。

 それぞれの部署で働く女性たちが集い、ようやく“群れの時間”が訪れた。

 話題は恋愛、仕事、そして――ミツバチ。


◆ 恋をしない蜂たち

 ミツバチの働き蜂の世界では、恋愛というものは存在しません。

 繁殖を担うのは女王蜂ただ一匹。ほかの働き蜂は一生を「仕事」に捧げます。

 花へ飛び立ち、蜜を集め、巣を整え、仲間を守る。その中に競争も嫉妬もない。ただ「群れの調和」だけが価値基準です。


 居酒屋で語る女性たちの姿は、その生き方にどこか似ていました。

 恋をしていないわけではない。けれど、いまは“仕事に恋している”。誰かに尽くすのではなく、群れとともに未来を築く。

 そんな生き方が、自然の秩序にも刻まれているのです。


◆ 社会性昆虫というモデル

 ミツバチは、地球上でもっとも進化した「社会性昆虫」です。

 “個”ではなく“群れ”を単位にして生きるその仕組みは、組織の理想にも似ています。

 分業があり、協力があり、目的を共有する。

 誰かが一人で輝くより、全員で飛ぶほうが遠くまで行ける――それが彼女たちの本能です。


 会社の中でも同じです。

 蓮見めるが掲げた「働き蜂でいましょう」という言葉には、群れとしての誇りがありました。

 恋や私生活の充実よりも、いまは“チームの羽音”を整えること。

 それが、彼女たちの幸福のかたちなのです。


◆ 仕事が恋であるということ

 花守が言った。「恋愛する時間もエネルギーもない」。

 それは嘆きではなく、充実の証でした。

 プロジェクトに夢中になり、同僚の成長を喜び、仲間の頑張りに心を動かされる。

 それは、恋に似た熱の伝わり方です。


 蜂もまた、蜜を集めるとき、同じ花に群れて熱を帯びます。集めた蜜を口移しで渡し合い、巣全体がひとつの鼓動になる。その一体感の中に“愛”がある。

 恋とは、誰かを想うことだけでなく、何かに情熱を注ぐことでもあるのです。


◆ 群れの熱――仕事がイチバーン

 女性たちのジョッキが再びぶつかり合う。

 「仕事がイチバーン!」の掛け声に、店内の空気が少しだけ明るくなった。

 彼女たちの笑顔には、群れの熱が宿っていました。

 恋をしていないようでいて、すでに恋をしている――

 仲間に、仕事に、そして今日という一日に。


◆ 羽音のような笑い声

 恋の代わりに、羽音を響かせて生きている。

 その音が重なれば、巣はあたたかくなる。

 同じ方向を見つめる瞳が、未来を照らす。

 群れの中にある静かな情熱こそ、いちばん甘い蜜なのだ。

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