2-2 ●
深夜。
プリンターが動き出し書類が作成される。
完成した書類は誰もいない司法庁の書記課に、ひとつのファイルが置かれた。
中身は、通常なら数ヶ月かかるはずの刑事裁判に必要なすべての手続書類。
印鑑も捺され、日付も正確。
だが、その処理を行った人間の名前は、存在しなかった。
最後の1枚に裁判長の名前が記載されていたが、どうやら俺の力で消えたようだ。
「怒りの力はこんなにすげぇのか…」と、暗闇の中呟く。
開廷当日、被告人席に座る彼女と目を合わせた裁判長が、一瞬ピクリと震える。
法廷の空気が変わる。
その目に映るのは、冷静さではなく、どこか空虚な“別の何か”。
弁護士が異議を唱える前に、裁判長が言う。
「異例ではありますが、本件、特例手続により即日審理を開始します」
誰もが違和感を覚えるが、それを言葉にすることができない。
裁判はまるで筋書き通りに進行する。
証拠も、証言も、驚くほど整っていた。
誰が用意したのか?
いつ準備されたのか?
それを問う者はいなかった。
なぜなら、
裁判長はすでに、“俺だった”のだから。
裁判長の口が動くよりも早く、俺は静かに言った。
「主文、被告人ヲ無罪トスル……」
場内にざわめきが走る。
彼女は“なぜ?”とでも言いたげな目で、裁判長を見た。
その瞳には、恐怖と、ほんの少しの希望が入り混じっていた。
彼女は涙をこらえながら、ただ静かに頷いた。
「本日ハ、これニてヘイテイとする」
俺は彼女に背を向け、そのまま法廷をあとにした。
背後では弁護士が感情をむき出しにして叫んでいる。
だがもう、俺には関係のないことだった。
遠ざかる怒号だけが、いつまでも場内にこだましていた。
***
俺は裁判長をずっと見つめていた。
裁判長が目を覚ましたのは、3日後。
記憶は――ごっそり抜けていたらしい。
“誰が判決を読んだのか”さえ、覚えていないと。
弁護士たちは首を傾げたが、やがて黙り込んだ。
“疲労”と“混乱”のせいにして、何も追及しなかった。
関係者には守秘義務が課されていた。
……まあ、それでいい。
あの日、あの場で、本当は何が起きたのか。
知っているのは――俺だけでいい。
……本来の司法じゃ、彼女を救えなかった。
だから、**“俺の法廷”**が必要だった。
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