サムライ・イン・U.S.A.:MAKE "異世界"アメリカ SLASH AGAIN(字幕版)
杉林重工
第1話 アバウト・ザ・ゴースト・サンディエゴ
『この物語は
著者は本物のアメリカ合衆国に行ったことがない。これをお読みになっているあなたもそうだろう。
ご存知の通り、今のアメリカ大陸は、全土に渡ってゾンビが闊歩し、政府はエイリアンに支配され、地底人と戦争を行っているからである。まさに異世界だ。メディアは操作されている。これは、そんな中でも、実際に今のアメリカ合衆国へ潜入取材を行った友人の証言を元に執筆されたノンフィクションである。メディアは信用してはならない。ユニバーサルとパラマウントを信じろ。ディズニーのことを応援しよう。でもディズニープラスについては相談したいことがある。
重金属で汚染された、生臭い腐った海。大腸菌を始めとしたバクテリアと、数十年前に散布された消毒剤の影響で、高濃度の発癌性物質が含まれたそれは、七色に輝く死のスープだった。あんなものの中を泳げるのは、メガ・シャークぐらいだろう。
世界最強の国、アメリカ合衆国。その勢力はかつて、宇宙にまで広がっていた――そんな彼らの始まりの場所、アメリカ大陸。その西海岸の一部にゴースト・サンディエゴと呼ばれる地域がある。かつての繁栄を思わせる大量の廃墟と、放棄された護岸工事跡が残る灰色の町。潮風のお陰でゾンビこそ寄り付かないが、毎日有毒物質の吹きつけるそこに住んでいるのは、ホームレスやヒッピー紛いの麻薬中毒者ぐらいである。
その果てに、灯台を改造した物見台がある。ケイティ・ピザハウスは、そこに作られた『管制室』の中で椅子に座り、流行りの雑誌『Day LIVE vol.66』のページを捲った。パープルやピンク、グリーンに彩られた、自分と同世代の女たちが、眩い光を放ちながらファッションやネイル、ヘアスタイルを見せびらかしている。ケイティは顔を上げない。この曇り空で正面を見れば、ガラスに自分の顔が映って惨めになる。とはいえ、この雑誌の見出しに踊っている『“こう”しろ』『消費せよ』『考えるな』『従え』などと云うメッセージに、おいそれと頷くこともできなかった。彼女は無意識の内にジーンズのポケットを握り潰した。
『サイトコントロール! アイム・ワーカーツー! エマージェンシー! 大変なことになった! オーバー!』
その時、無線機のスピーカーが彼女を呼んだ。無線機は目の前のデスクに直接組み込まれている。彼女はデスクのスイッチを押すと共に、マイクを根元から捻って口元に寄せた。
「アイム・ケイティ。どうしたの、ポール」
そう声を掛けてしばらく待ってみたが、相手から返事がない。ケイティは当然、すでに話し終えていて、無線機のスイッチからも指が離れている。無線機が故障したのかと首をひねっていると、後ろからイタリア系の大男、トマト・ポテトが手を伸ばし、無線機のスイッチを入れた。
「こちらサイトコントロール。ワーカーツー、説明を。オーバー」
トマト・ポテトは無感情にマイクへ言う。内心ケイティは溜息をついた。
『アイム・ワーカーツー。凄いモノがトラクタービームに引っかかった。見てほしい! 四番倉庫だ。オーバー』
「わかった。すぐにそっちに行く。オーバー……」
「オール・オーバー」
ケイティの言葉を遮って、トマト・ポテトは通信を切った。
「……ギークってこういう時、最悪。ポールとは長い付き合いなのに」
ケイティの言葉にトマト・ポテトは眉一つ動かさない。その代わり、黙ってこの『管制室』のドアを開け、外に出るように促した。トマト・ポテトはケイティの護衛だ。この薄汚い管制室にも、外のガラクタだらけの海岸にも似合わない、窮屈そうな白いスーツを着ている。それが、周囲への『威嚇』だとケイティは理解しているが、それ以前にまず、きちんとコミュニケーションをとってほしいと内心思っている。
出る前に、管制室の窓から外を眺める。腐った海はいつものように黒々とうねり、廃墟郡は風に怯えている。
いつもの光景が広がっている。メガ・シャークや対立するファミリー、或いはエイリアンが暴れた痕跡はない。エマージェンシーとはいえ、誰かの襲撃があったわけではないのは確かだった。
「まったく、何があったっていうの」
ケイティは一人、文句を言った。
だが、ポールが生半可なことでエマージェンシーなどということはあり得ない。一体何がトラクタービームに引っかかったのか。ケイティの胸が静かに高鳴った。
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