オパールとレム睡眠

第41話

 楕円形をした小さなケーキは、ミルク色の表面に七色の光を散りばめていて、可愛らしく清楚な趣を持っていた。

「とても綺麗ね。この艶、まるで本物みたい」

 莉子さんは、そんな風に褒めてくれた。

「オパール、大好きなの」

 莉子さんの誕生石は何なんだろうと、ふと思った。そういえば、初めてプチフールを試食した時、彼女はダイヤのケーキをエンゲージリングに見立てたっけ。

──私は、やっぱりダイヤモンドがいいな。

 言葉から推察するに、莉子さんの誕生石はダイヤではなさそうだ。尋ねてみればいいだけの事だが、「どうして?」と訊かれたら答えに詰まるだろう。どうにも、何かにつけて臆病になっているような気がする。

 フォークで切った半分を口に入れ、莉子さんは目を丸くした。

「柑橘系なのね。意外だわ」

 白く滑らかな見た目からミルクタイプと思いきや、実はレモン果汁とキュラソーが効かせてある。シュガーコーティングされたレモンケーキから着想を得たのだそうだ。

「とっても美味しい。合格」

 柑橘風味だと分かるように、お皿にカットオレンジを置いたらどうかしら、と莉子さんはアドバイスをくれた。

「たしかになあ。前にお客さんからタコ焼きの形したお菓子をもろた事あるけど、分かっててもビックリしたもんなあ」

 銀二さんが言った。柚彦も一つ貰って食べたが、あれは確かに脳がバグる。

「ハロウィン向けに、そういうのも面白いね」

 守さんが言うのを、銀二さんは大げさに手を振って止めた。

「守、もうめといてくれ。これ以上になるとホンマにケーキ屋に業種変更する申請書出さんといかんようになる」

 莉子さんが吹き出し、守さんも声を立てて笑った。

 この時間を大切にしたいと思った。硝子細工のように繊細な幸福感を、そっと掌に包むような気持で、柚彦は店内に響く笑い声を聞いていた。



 暫く無人だったカエルの席には、ハロウィンのメニューがパステルで描かれたスケッチブックが置かれた。目玉の入ったカクテルと、去年バズったハートパイに加え、怪しい形のクッキーも色を添えている。ちなみに絵を描いたのは銀二さんだが、なかなかに見事な腕前である。

上手うまいもんやろ」

 銀二さんが悦に入っている。

──でも上手過ぎてちょっと気持ち悪い。

「リアルすぎて気持ちが悪いね」

 守さんが言った。

──あなたが作った料理のイラストだということを、忘れてはいませんか?


 ハロウィンには沙羅ちゃんと早瀬と、そして何故か山田までが客として来てくれた。

「俺たち、小杉くんの友達です」

「元カノです」

 余計なことを言う沙羅ちゃんは、小悪魔の仮装をしている。最近のキャラクターとしては黒猫より合っているようで、柚彦は少々複雑な心境になるのだが、矢印やじるし型の尻尾はちょっと可愛い。

「俺たちは、趣向を変えて妖怪にしてみた」

 頭に目玉おやじを乗せた早瀬は鬼太郎で、山田は、ねずみ男。二人とも、なかなかの出来栄えである。正確には幽霊族と半妖怪なのだと山田が蘊蓄うんちくを傾けていたが、細かい事はさておき、小悪魔と妖怪二人は奥のテーブル席に落ち着いた。

「銀狐、格好良いなあ。俺、来年あれにしようかな」

 守さんの姿を眺め、長い髭を生やした山田が身の程知らずな事をほざく。

「やめとけって。お前には、ねずみ男がぴったりだ」

 早瀬の言葉に柚彦が大きく頷くと、

「何でやねん」

 山田の順手ツッコミが柚彦のカエルの帽子を弾いた。

「カクテル三種類と、ハートパイください」

 男たちのじゃれ合いに見向きもせず、真剣な表情でメニューを見ていた沙羅ちゃんが顔を上げ、眼をキラキラさせながら注文した。

 ハートパイ食べるんだ。さすが沙羅ちゃん、勇気がある。

「かしこまりました。少々お待ちください」

 少しして、守さんから怪しいカクテルとリアルな心臓を渡された柚彦は、内心にやにやしながらトレイをテーブルへと運んだ。

「…………」

「…………」

「…………」

 そ~ら見ろ。

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