Σ1:ベクトルと時間薬

第40話

【入江side:Σ1:ベクトルと時間薬】




“あたしを見て下さい。”


“蒼井じゃなく、あたしを。”


“あたしもやっぱり一歩進みます。”


“先生が蒼井に出会う前から、ずっと・・・入江先生のことが好きでした。”


“入江先生のベクトルの向きは・・変えられないんですか?”




こんなにも自分の気持ちをはっきりと示した高島を見たのは初めてだったかもしれない




彼女のことは高校生の頃から知っている


彼女はいつでも明朗活発なイメージ

後輩の面倒見もよくて、誰からも慕われる存在

蒼井のことに対しては妹のように可愛がっていたぐらいだ


それは、教師になった今でも変わらない

同じ数学教師として、俺自身も頼りにしているところもある



先日、伶菜さんのウエディングドレス選びに付き合って貰ったのも

俺の中で高島なら相談しやすい

そう思ったから



そんな中、高島が蒼井の存在を気にしていることを知った俺


俺の中での蒼井が気になる存在であるということが、高島に見抜かれていたということも



“腕時計、外さないで下さい。”


“忘れてくるぐらいなら、外さないで。”


“偶然通りかかって、見ちゃいました。”


“でも、あたしには関係ない・・・”




今朝の真里さんとのやり取りも見られていたことも知った。


真里さんが届けてくれた腕時計。


それは日曜日の朝、伶菜さんを浜松から名古屋へ送り届けた際に、彼女と真里さんと福本さんという看護師さんと一緒に昼食を食べた際に外して、忘れて来てしまったものだ。


それを届けてくれた真里さんと俺との関係を誤解されているらしかった。




そして、真里さんと俺とのやりとりを見たと言いながらも自分とは関係ないと言われて

高島の言動に対して違和感を感じずにはいられなかった。



この違和感はおそらく

高島という人間に

誤解されたくない

関係のない人にされたくない


そんな想いから来ているんだろう



蒼井のことだって

高島に誤解されたままでいたくない



彼女達がまだ高校生だった頃、蒼井の存在が気になり始めたのは彼女の中に放ってはおけないような危うさを感じたから



彼女が俺達の前からいなくなっても

その存在が気になり続けていたのは

怪我した彼女を助けてやれなかったという想いが強くて

彼女を忘れられなかったから



それが誤解されるような恋というのか

誤解されるような恋と言っていいのか


自分でもわからなかった


教師という立場で

そういう感情を抱くのはあり得ないのに




そんな中途半端な俺ができること

それは彼女をただ想い続けること


それを続けることで自分を許してあげられるような気になっていたのかもしれない

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