胸騒ぎの予兆
俺の元に来た連絡は、緊急性が高いが昨日の大型怪魔の物とは状況が違う。今回の物は、とにかく出現する怪魔の数が多い事を知らせる物だった。
質より量を求められ、そこに魔法使いの強さは関係が無く、避難者の救助や治療に、倒壊の危険がある建造物を支えたりと、各々の素質に合わせて活動が求められる。
逃げ遅れた人の発見や、怪魔に襲われそうになる人の囮になったりと、俺でも出来る事は多分にある。デバイスが示す目的地に向かって道なりに進んでいると、空を飛んで同じ場所に向かう生徒達の姿が見えた。
後数分もすれば俺も駆けつけられる距離だが、それでも、走る速さよりも高速で空を飛び、直接向かった方が数段も早く辿り着く。
近付けば近付く程、街の破壊跡や反対方向に逃げる人々の姿が見える。当然管理局の職員も出動して救助活動を行うのだが、その数にも限界がある。
「おお、君は、絆橋高校の生徒か! 避難者の捜索を行うのに人手が足りないんだ!」
「それ程の規模の被害なんですか!? 先に来た俺以外の他の生徒達も捜索に?」
「いや、殆どは昨日のニュースに触発されて、怪魔討伐に行ってしまった! 大した強さの個体では無いが、数の多さが目立つ!」
職員に声を掛けられ、捜索の手伝いを頼まれる。他の生徒達はどうしているのかと尋ねると、昨日の朝丘の活躍に影響されたと返される。
「規格が統一された通常用の武装魔法だと、多数の怪魔を相手にするのは分が悪いんだ!」
携帯している装備を見せられ、デバイスでも検索が容易な広く知られている物だと理解する。基本的に誰かを守る事に適した防衛用の装備であり、数を相手にするのには向いていなかった。
「威力や消耗はともかく、攻撃の範囲だけなら生徒個々人の魔法に分があるから、要請した本隊が到着するまで、時間を稼いで貰う事を頼んである!」
「わかりました! 俺も捜索活動を手伝います! 何処へ向かえば良いですか?」
「協力してくれる民間の魔法使い達と一緒に、西側を担当してくれ! 戦闘能力こそ低いが、人探しに適した魔法なら使えるそうだ!」
年齢や性別、皆それぞれ違う数人の大人達が俺を見て、一緒に頑張ろうと声を掛けて来る。そして、指示された方向へ向かいながら、何の魔法が扱えるのかとスーツ姿の中年の男性に尋ねられる。
身体強化による格闘術と、最近覚えた怪魔の探知が行えると正直に伝えると、直近で戦闘経験があるのは俺だけだったので、人を救助したら一旦引くという話になった。
◆◇◆
逃げ遅れた人を捜索していると、建物の扉が瓦礫で塞がれて、どうにもする事が出来なくなった人達を発見する。
「おーい! 助けてくれぇ! 誰かいるのかー!」
「むっ、あそこだ! 大日向君! 君の身体強化の魔法でどうにか出来そうかね!?」
「あれ位の瓦礫を処理する位なら、怪魔と戦うよりも楽ですよ! 任せて下さい!」
中年男性と一緒に、身体強化の魔法で瓦礫を一つ一つ取り除いていく。派手に魔法で吹き飛ばそうものなら、余計に建物が崩れそうだったので、純粋な体力が役に立った。
瓦礫を取り除き、歪んだ扉を慎重に開いていくと、中から十人程の逃げ遅れた人々が出て来る。
「半径一〇〇メートル以内に、彼等以外の反応は感じないわ。それ以外だと魔力の反応も感じるから、きっと戦ってる学校の生徒達だと思う」
二十代半ば位の黒髪の女性が、周辺の探知を行い、大きく息を吐く程に疲労した中年男性が、それならば急いで職員の所へ戻ろうと判断する。
他の面々は救助者の応急処置や、中年男性の体力の回復に回っていて、これ以上は続けて捜索は無理だと俺もそう考えていた所、背後に嫌な感触がして振り返る。
「ま、まずい! あれは、怪魔の出現反応だ! 皆さん、急いで避難して下さい!」
数メートル離れた崩れかけた建物が並ぶ狭い通路から、徐々に空間がひび割れ始めていく。小さな隙間からは怪魔の鳴き声が聞こえだした。
それを聞いて、救助者達は悲鳴をあげた。俺は大人達に後を任せて囮になるべく亀裂に近付く。
「俺が囮になります。皆さんは救助者を連れて、職員の元へ逃げて下さい!」
「き、君一人で!? 危険だ、大日向君! 君も一緒に逃げるんだ!」
「一緒に逃げながらだと、標的が分散して俺一人じゃ庇いきれないんだ! 俺だけに集中させた方が戦いやすい!」
怪魔が亀裂から出て来るにはまだ少し時間があった。隙間から見えた特徴から、昨日討伐した種類と同じだと、デバイスで特定する。
「数は多少増えるが、昨日討伐した怪魔と同じ種類だと特定しました。思考も単純なタイプなんで、俺一人の方が向こうも油断します」
「そ、そうなのか……? なら、ここは君に任せる……! 私達の方が歳が上なのに、何もしてやれなくてすまない……!」
中年男性からの言葉に、振り向かず頭一つ頷いて返事をした。少しカッコをつけ過ぎたかと思ったが、大人達も余裕が無いみたいで、それぞれが俺に謝罪の言葉を述べながら一目散に逃げ出す音がした。
怪魔討伐は、魔法科に通う生徒に義務付けられている活動内容の一つである。
しかし、使える魔法の素質や魔力で、向き不向きがあり、全ての生徒が直接怪魔と戦える訳では無い。一緒に捜索した大人達の使っていた魔法の種類を見れば、それが良くわかった。
そして誰よりも素質や魔力で劣る俺は、その不向きな生徒よりも更に討伐に向いていないのだろう。それでも身体を鍛え、無理矢理何とか戦える状態にはなれた。
周囲では俺以上に戦いに向いた魔法を扱える生徒達が、空を飛んで怪魔を見つけようとしているだろう。もしかしたら、その内の誰かが逃げ出した救助者を見つけて、より逃げやすくする為にサポートに回ってくれるかもしれない。
そうなれば彼等の記憶により強く残るのは、その生徒になる筈だ。派手で強く、余裕がある方が印象に残り易い。
それで良いのだと、そこで終わってくれれば良い話なのだと、頭の中で思っていても、胸騒ぎは徐々に強くなっていく。果たしてこの胸のざわめきは、目の前に現れる怪魔達を討伐仕切れば解消されるのだろうか。
怪魔達は不敵な笑みを浮かべて襲い掛かって来る。攻撃を集中して躱し、一体一体を確実に殴り倒していく。
◆◇◆
出て来た怪魔を何とか全部惹き付ける事に成功し、囮になりながら討伐を終える。数分程の時間だっただろうか、皆が逃げた方向に怪魔の反応は感じられず、無事に逃げ切れたと後は祈るしか無かった。
「そう言えば、晶達はどうしたのだろうか……? こんな状況だ、無茶な事は考えずに避難を優先してくれていたら助かるんだが」
俺も引き返して救助者達の無事を確認するべきか迷っていると、デバイスに管理局の職員からの彼等の保護を知らせる連絡が来た。
その知らせに安堵しながらも、もうすぐ本隊が到着するので、生徒達は一刻も早くこの場から引き揚げて欲しいと追加でもう一通届く。
「管理局側からだと、この場一帯の反応が不安定になっているだって……? 大変だ、急いで晶達を探して一緒に避難しないと……」
一か八か、持っていた携帯端末で連絡して、晶の居場所を直接尋ねようとポケットから取り出すが、電波は圏外になっている。デバイスの通信も魔力が乱れているのか、反応がおかしい。
「これは、何かが変だ……! 魔法科の生徒も、きちんとデバイスから情報を受け取れているか、これじゃ不安だ……!」
焦る心を落ち着かせ、怪魔の反応を確かめる。商業地区の中心街に複数の反応を感じ取り、同時に大きな戦闘の音が響く。
「こんな時に一体誰が……!? ここにいたら何もわからないっ! こうなれば、直接行って確かめるしかない!」
怪魔との戦闘で荒れた道路を走りながら、急いで中心街へと向かう。近付けば近付く程戦闘音が近くなり、怪魔の反応が次々と消えていく。
ようやくその場所に辿り着くと、三〇人以上の数の生徒達がまだ残っていた。未だに怪魔と戦おうとしているのか、全員武装状態を解除せずに辺りを見回していた。
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