教室での何気無い授業風景
◆◇◆
日付は変わり、俺の通う魔法科一年F組では、教壇に立つ飛鳥先生が人類が魔法を扱うようになり、それが当たり前になるまでの時代の流れを説明していた。
「お前達も小、中と大まかな今の歴史を授業で学んで来たと思うが、魔法について何か知っている事を挙げていけ」
「はーい、今は魔法競技が大人気ですよね。俺の素質も、ああいうスポーツ系に特化してればなぁ」
「そう言うな、ここF組は確かに素質の区分分けが難しい生徒が集められているが、魔法が使えるだけでも胸を張って誇るべきだ」
「でも、私は魔法競技向けの素質じゃなくて良かったなって思うなー。だって、中には過激な内容もあるでしょ?」
生徒達が手を挙げて、思い思いの意見を述べていく。そしてそれを聞いて先生が反応する。
魔法使いでなくても、魔法競技は今では誰でも知っている。魔法を扱い色んなスポーツを行う物だと広く認識されていた。
多種多様な種目があり、ルールに応じて参加する人数も変わり、競う内容もそれぞれだ。
「では、まずは魔法競技の話をしようか。お前達が望む部分はスポーツ等のエンタメ的要素だろうが、これが出来た当初の目的は別にあったのだ」
飛鳥先生がそう話し始めると、今では娯楽として親しんで来ている物の本来の目的と聞いて、周囲の空気は緊張し始める。
怪魔討伐は魔法使いの義務ではあるが、全員が全員、怪魔と戦える手段の魔法を使える訳では無い。
戦闘方面に才能がある魔法使いを見つける手段の一つとして、魔法競技と呼ばれる、魔法を使ったスポーツや格闘技の延長線があると先生は説明する。
「という訳だ。怪魔の情報が集まり、調査技術も格段に上がった今では、競技専門で一生を終える者もいるだろう」
「先生、そんなに怪魔って恐ろしい存在なんですかー? そりゃ昨日のニュースで出て来たヤツばかりなら、ヤバいですけど」
「数十年も昔だと、あの規模の怪魔は今とそう出現頻度は変わらなかったそうだが、発見が遅れる事が多く、初動の対処が間に合わずに相当な被害が出た」
「うえぇ……マ、マジかよ……ニュースに出てた朝丘はあんな簡単に瞬殺してたのに」
先生が教壇に備え付けられた機械を操作し、当時の映像写真を立体表示させる。怪魔が現れる前の時代でも、創作物として街を破壊する怪獣の映像は作られていたそうだが、それとは質感が違って見えた。
婆ちゃんも昔は苦労したと、そんな事を言っていた気がする。皆、朝丘の凄さを口にするが、どうやって怪魔を発見すれば良いのかと頭を悩ませる。
ざわめきが少し続いた後、飛鳥先生が一つ大きく咳払いをする。教室が静かになった所で話が続く。
「落ち着けお前達、被害が出たのは昔の話だ。今は技術も進歩し怪魔の発見方法も確立された為、朝丘も大活躍出来た訳だ」
「あっ、確か、怪魔の探索専門の部署が管理局にもあるって、聞いた事ありますよ! この学校でも、そこに就職する生徒もいるとか」
「そうだ、昔いた偉大な魔法使いが、元となった探知方法を編み出し、それを応用し部署を一つ設立したという」
「その方法って、私達でも練習すれば覚えられる物なんですか? 戦えなくてもそれが出来るなら、避難の為の時間が作れるし」
先生の口から出た偉大な魔法使いという単語に俺は、少しだけ身体が反応してしまう。
あんな方法で本来探知の腕を上げるならば、朝丘位強く無いと命の保証が無い。
「俺達も、どの分野が一番素質があるのかが判別出来無いってだけで、雑魚の怪魔位なら倒した経験もあるけどなぁ」
「そうそう、中学から魔法が使えてりゃ、一週間もあれば一通りは履修出来ちまうし、空を飛べないなんてF組でも大日向だけだし」
俺以外にも怪魔討伐を行う者は、クラスメイトの中にもいる。彼等は出現した怪魔の数が多い時に、複数人でチームを組んで効率良く討伐していた。
調査頻度は俺より少ないが、討伐数は遥かに多い。そんな彼等は朝丘程では無いが、教室内でも何かあれば頼りにされる立場にいた。いずれは自分達もニュースに出ていた怪魔を倒してみせると、朝に話している姿も見ていた。
「俺達だって、いずれBランク以上の判定を貰って、朝丘よりも速攻で倒してやりますよ!」
「その朝丘が簡単に怪魔を倒せたのは、ウチの学校の誰かが管理局よりも早期かつ正確に、出現位置を特定してくれたお陰でもあるんだぞ」
意気込んで見せるクラスメイトに対して、飛鳥先生が昨日の舞台裏を知っているのかの如く話し出す。教室中はその誰かに注目が集まり始めた所で、先生はニヤリとした顔で俺を見た。
「大日向、朝丘と共に管理局から感謝文が述べられているぞ? ウチの魔法科の制服を着た、白い髪に青い目の大柄の生徒なんて、お前しかいないだろう」
「ええっ!? ま、マジかよ! あの怪魔見つけたのお前だったのかよ!」
「当然管理局も探知までは行っていた。しかし、正確な位置までは特定出来なかった所に、大日向の通報で一致させる事が出来たらしい」
俺にそんな事が出来たのかと騒ぐクラスメイト達、すかさず立ち上がり、自分に出来た事だけを正確に伝えようと、頭を働かして行動を思い出す。
「ま、待ってくれ、俺は怪魔の反応のある場所に近付き、自分の手には負えない位異常だと感じたから報告しただけだ!」
「まあそうだな、事実、結界を張り怪魔を足止めしたのは、後を引き継いだ管理局の職員で、討伐を行ったのは朝丘なのは変わらないな」
結局自分では倒せない存在を誰かに代わって貰い、俺はそのまま逃げただけになる。しかし、先生の話はまだ終わらなかった。
「表彰されるのは朝丘だけになるが、だが、大日向、お前の探知方法はかなり特殊だぞ? その方法は高いリスクも伴う」
飛鳥先生の目線が俺を離さず、ずっと見つめられてしまう。隠していても仕方が無いので、慌てて自分のやり方を伝える事にした。
「俺は、その、皆と違って空も飛べませんから、直接反応が予想された付近まで近づく必要があるんです……」
クラスメイト達は静かに俺の話す内容を聞き始め、先生も何かを探るよう俺を見ている。情けないような恥ずかしいような、特殊な事情を語らなければならないが、少し緊張しながらも、ゆっくりと話していく。
「情けない事に、反応のある場所まで直接近づかない事には、確認も戦闘も出来ませんから俺は……」
「ふむ、それは仕方が無い事だな。当然それの危険性も十分知った上で行っているのだろう?」
「は、はい……最初の内は、肌がヒリヒリする感覚程度しかわからなかったんですが、次第に反応の大小までわかって来まして……」
そして、大きさがわかると、その中に対応出来ない物があると理解もしてしまった。昨日の反応等は、特に危険な物と感じた。
先生は俺の話を聞いた後、またもや機械を操作して映像を表示させる。そこに映るのは、魔法史において誰からも知られている一人の少女の後ろ姿だった。
「先生、その子ってあの伝説の魔法少女ですよね? それが大日向君と何か関係があるんですか?」
「そう、彼女はルミナスと呼ばれた伝説の光の魔法使いだ。大日向が普段からやっているその方法は、実は彼女も行っていたという」
後ろ姿からでも良くわかるその映像が映し出している光景は、昔現れた超大型怪魔相手に、たった一人で街を守り抜いた際の物だった。
神々しい程に全身に光を纏いながら怪魔を浄化していき、白とピンクの可愛らしい衣装が良く似合う幼い見た目で、人々に愛され続けた魔法使いの女の子。それが魔法少女ルミナスだった。
「今見ても可愛いなぁ……この子が魔法少女って呼ばれ始めてから、今でも魔法競技でもそう名乗る子もいるよね」
「うむ、怪魔討伐に多大な貢献をもたらしただけでなく、その後、仲間達と共に災厄に立ち向かったりと有名な話は事欠かないな」
「大日向の奴は独学で、ルミナスと同じ方法に辿り着いたって訳なんですか。でも、実力とか見た目とかかなり差があるな……」
その誰かの呟きによって、視線が立ち上がっていた俺に集まる。比較対象が対象なだけに、途端に気まずくなってしまう。
「だ、誰の行動に似た結果になろうとも、それが偉大な先人なら、俺は誇りに思いたい! 先人の志に憧れがあるのは悪い事じゃない筈だ……!」
「そうだ、よく言った大日向。例え実力が劣ろうとも、それを行い引き際も弁える勇気は立派だと私は思うぞ」
「なんだ! じゃあ、大日向もルミナスのファンだったのか! 俺も、いつか後継者が現れないかなって、期待してんだ!」
「もし、そんな子が現れたら一体どんな感じの子なんだろうね? きっととっても可愛い子なんだろうなぁー」
まさか意外な人物と同じ事をしていたのを知ってしまい、顔が熱くなりながらもありのままの感情を伝えた。すると、俺は彼女のファンだという結果に丸く収まった。
そして、話は彼女の後継者はどんな子なのかの流れになり、想像と間反対に位置するであろう見た目の俺はあっという間に空気になった。
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