第6話 アイリスが魔法を放つ時


私は、蛇の姿をしたケンちゃんの体を鷲掴みにして、その裂け目めがけて雑に放り投げた。


ケンちゃんは、気持ち悪くニョロニョロしながら、空間の裂け目へと吸い込まれていった。


それを見たレイクリスは言った。

「おい、もうちょっと丁寧に入れてやれよぉ」

「だって、蛇なのよ?ニョロニョロなのよ?ぬるぬるしているのよ?……ケンちゃんには悪いけど無理」


はっきり言って蛇は苦手だ。

見るのも嫌。

だけど、今回は世界を救うため、仕方がなかったから握ったのだ。


「それと、これからだけど、どうしようかしら?ケンちゃんの説得に対して、多少の援護が必要だと思うけれど」

「じゃあ、やっぱ暴れるか」

レイクリスはドラゴンの姿で暴れたいみたいだ。


「とにかく、地球の神々に嫌がらせをして、この騒動を引き起こした神様に苦情が行くようにすればいいのよ。だから、攻撃するなら神殿とか、仏像とか、そういった罰当りなことをやってみてね」

そう言って、私はニッコリと笑った。


「ロケットミサイルなどがないか調べてきます。もし、兵器の確保が出来たら、寺社仏閣、教会やモスクなどを叩きつぶしてやりましょう」

アントニオと助手のシルヴィアさんは、武器調達のために自衛隊の基地へ向かうと言う。


「じゃあ私はまず、景気づけに月をぶった切ってやるわ」

私は、空に浮かぶ白い月を見上げた。


「ほんとに斬るのかよ?」

「ええ本当に斬るわよ。さすがの私もこの技だけは、長い詠唱を必要とする。ちょっと集中が必要だから、みんな少し静かにして」


そして、私は詠唱を開始した。


永遠の時を経ても辿り着かぬ、遥か彼方のその果てへ、光の刃で斬り裂かん。その光はいかなるものも斬り裂き、いかなる大きさのものも引き裂く。


「禁断の魔法:第十五階梯・ライトニング・ソード!」


そう呪文を唱えると、私は杖を月へと向けた。

杖に仕込まれた魔石は白く輝き、月に向かって刃を伸ばしていった。

その白い光の刃は、止まることを知らず、その直線上のすべてものを斬り裂いて伸びてゆく。まるで宇宙の果てまで届かんばかりに。


「うおおおお!」


アイリスはたぎり興る魔力の奔流を腕に感じながら、刃が月へ上面へと突き刺さるのを感じていた。


「ええええい!」


私は気合いを入れて、杖を下へと動かし、月を真っ二つに斬り裂いていった。


ゴゴゴゴゴゴ……。


月を斬り裂き始めた時、光の剣を通じて手に土を斬り裂く振動が伝わってきて、腕に力がこもる。

私は、はるか上空にある月の崩壊を感じながら、縦に斬り裂いていった。


ライトニング・ソード魔法の発動が終了した時、月は二つに分裂していた。

私は非常に疲れていたが、満足だった。

「ふぅ。これで、月の女神の怒りも煽れたかしら?」


私はやり遂げた達成感で、自然と笑みがこぼれた。


それを見ていたレイクリスやアントニオ、シルヴィアは唖然として、さすが大賢者スゲーと驚きを隠せないでいた。


「よ、よし、それじゃ、僕たちも暴れに行きましょう!」

アントニオはそう言って、シルヴィアと一緒に車に乗り込んでいった。


「おう、俺もちょっくら神殿とかいろいろ破壊してくるわ」

レイクリスはそう言って、飛び立っていった。


私は、少し疲れたので休憩させてもらおう。

これだけ暴れたら十分だろう。

あとは、ケンちゃんが神様をうまく説得できるか。

それにかかっていた。



気が付くと、ケンちゃんは白い部屋の中にいた。

部屋全体が真っ白で、他にはなにもない空間だった。


「あなたは一体、誰に呼ばれてここに来たのかしら?」


ケンちゃんが顔をあげると、美しい女神様が立っていた。



「ああ、なんてきれいな女神様なんだろう。僕の名前はケンです。勇者レイクリスにいわれてここへきました」


「まあ、なんて素直な子。とりあえず、人間の姿に戻りなさい」

そういって女神が手を振ると、ケンは人間の男の子の姿に戻っていた。

「あっ、戻った」


すると、女神は微笑んで、

「私の名前はアイナ。女神アイナよ。アースガルドの世界を統治する神なの。時折あなたの世界から勇者を召喚して世界を救ってもらっているのだけど、今は、あなたたちの世界がとても困ったことになっているのね」

と言った。


「そうなんです。僕の住む世界が、主神様の神罰で動物に変えられてしまって、僕も蛇の姿になったんです。」


「それは大変だったわね」

女神アイナは小さくため息をついた。


「その後、女神様の世界から、大賢者アイリスさんが転移してこられてました。アイリスさんが、レイクリスさんに頼まれて、僕を魔法でここへ送ったのです」


「え!私の世界の魔法使いが、そっちの世界へ行ってるの?」


「はい。ちなみに勇者レイクリスも動物にされてしまいました。ドラゴンですけど!それに怒ったアイリスさんは神様に声が届かないなら、月を真っ二つにするといってました」


「そーれーは、ちょっと困るんですけど」


女神アイナは眉間に手をやって目を閉じた。

頭が痛い……。


主神の横暴はともかく、地球で暴れまわっているのが私がらみだということになれば、批判の矛先が私にも向いてくるだろう。


「しかも、魔王討伐メンバーの勇者と大賢者が暴れているなんて、笑えない冗談だわ!」

そういうと、女神アイナはケンの腕を取って、


「今からゴッドマザーの所へ行くわよ。マザーに主神の暴走を止めてもらうの。もう、それしかない。あなたもついてきなさい」


そういって、女神アイナは空飛ぶ馬車を召喚した。


女神アイナはその馬車へケンと一緒に乗り込むと、すぐさま馬車を走らせた。

「騒ぎが大きくなる前にゴッドマザーに言って、事態を収拾しなければ。地球の神様たちが騒ぎ出したら大変よ!」


そういって、あっという間に空のかなたへと消えていったのだった。




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