第9話

それは混濁…?脳内カオス…?セルフパニック…?


それのどれも微妙に意味違いと自覚済な境ノブアキ、その人、”本人の内面決着”には、彼自身が答えを出すしかなかったのだが…。


彼がマトモを取り戻したその時…。

すでに、県道には上下線もそこそこの交通量が、いつもの光景そのものとして”蘇って”いた…。


つまり…、とりあえずは深夜の日常を取り戻していたと…。


”はっ…⁇車通ってる…!ならば前方の車…、あのオンナが助手席から降りてきた黒い乗用車は…⁉”


ブウーン...。


当該乗用車は、ちょうど境の車前方約5Mから静か?に立ち去ったところであった。


だが…!



***



先ほどまで停車していた位置は、どう見ても感覚的には軽く5Mを越えた地点にあったはずだと…!


そして境は咄嗟に後部ナンバープレートへ目をやり、その車番を口に出して読み上げた。


“練馬3××、あの0948…!”


更に…。


“そもそも、ここの場所自体がさっきまでと違う…!”


そこまで思考が及んで、彼はハンドル脇のデジタル時計に目をやった。

すると、時刻は午前零時18分の表示であった。


”えっ…⁉あそこのドライブインだった廃屋を通過してたった1分強??…あり得ないって‼”


境は遅まきながら、再びその背筋にひんやりとした脂汗を滲みだしていた…。



***



ビューン、ビューン…!


比較的交通量の多い平坦な直線の県道に面したこの辺りは、深夜ではあるがそこそこな交通量が行き交っている…。

そんな平坦な直線の路肩で、ファザードを焚きエンジンをかけたままで停車してある愛車の運転席で、境はハンドルを両の手で握ったままほぼカタマってた。


この間…、停車してわずか1分で実際は何が起こったのか…!

彼は貧乏ゆすりをしながら、必死にアタマを巡らせていたが、どうも、肝心の引き出しがなかなか開かない…。

とりあえず大きく深呼吸をした後、境は車を出し、帰路へ向かうことにした。


その車中…、県道から外れ住宅街の生活道路に入って、一人暮らししているアパートまであと5,6分ということろまで来て、彼のアタマの隅に眠っていた、一つのある記憶がスーッと降り立つかのように現出する。


それは、ずっと以前の…、まさに埃をかぶった忘れていたささいな出来事…?

いや、厳密には出会いであった…。


彼自身、即座にそれが何年前くらいのことだったのか、どこだったのかは思い出せなかったのだが…。

そこで出会ったヒト…、それが要は若い女性であったこと…、加えてそこがどんな”場所”だったのかは即脳裏にフラッシュバックし映ったのだ。


そしてその場面…、シーンのロケーションは概ねさっきの場所…、つまり一時停車していた県道沿いの路肩、という訳であった。


”そんな…‼少なくともずっと前だぞ、あの出来事は…。それがなんで今ごろになって…⁉”


彼は自身に向かって何度も自問自答していたのだが…。

しばしの間を置くと、その答えはぽっと湧き出るように、目の前に広がった。


”何と!…そうか、あの時の些細な出来事んなかへ、アイツが入ってきたんだ‼”


もはや境ノブアキは、不覚?にも”全容”を掌握できてしまったのである。

それは、おぞましき現実?を突き付けられて、失意も内包された望まざる絵柄であったのだ…。


”カンベンしろよ…!あの色情霊…、数十年前にちょっと行き掛かりで接触した若い女性の姿にのり移って誘惑してきたのかよ!”


だが、彼は愕然としながらも、冷静にいられた。

で…、自宅に戻った後、真っ先にシャワーを浴びながら、まずは遠い時を経ても、いまだ記憶の隅で消え失せていなかった”彼女”とのあの日…、その再現作業を試みていた。


そしてその風景は、ほぼ正確に舞い戻る…。










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