第38話 新成人の入場
いよいよ、今年の社交界の幕開けを告げる、新成人を祝う宴が催される当日となった。その会場は荘厳で煌びやかに設えられ、人々を出迎えている。天井を見上げればシャンデリアが輝き、目線を戻せば、テーブル、壁際、そして床にも、国内各所から献上された植物が飾られている。ベルカント公爵家が誇る虹霞草も、一際華やかに会場を彩っていた。
招待客は、社交界に披露される新成人貴族とその家族だけではない。ポラリス王国の成人王族をはじめ、外国の要人や各界の著名人も集い、厳かかつ華やかな雰囲気に包まれている。王宮騎士団に所属する三等騎士たちや、彼らを指揮する二等騎士たちが厳重な警備にあたり、その威容が宴の格式を一層高めていた。
新成人の女性貴族は白いドレスを着用する慣習に従い、チュモー伯爵家令嬢セフィーヌも、純白のドレスに身を包んだ。このドレスは、亡き父ダルセルの遺言で指定されていた服飾職人によって誂えられたものだ。繊細なレースと見事な刺繍が施され、美しさが光る。ドレスと同じ純白のハイヒールは、帰郷中に履き慣らしておいたものだ。
親族等の後見人に付き添われて新成人が入場することも慣習の一つである。ただし、新成人に年上の伴侶がいる場合は、その伴侶が優先して付き添うことになっている。
セフィーヌが、正装したモントリエ伯爵家令息ジョナサンと共に会場へ入ると、大きな拍手が彼女たちを迎えた。彼の優雅な先導により会場の中央に進むと、上座にいる国王サミュエルと王妃ナターリアに向かって膝を屈め、淑女の礼をとった。セフィーヌの一歩後ろで紳士の礼をとるジョナサンの気配を感じ、彼女も自然と背筋が伸びる。
国王夫妻の傍らには、一等騎士であるダツミン侯爵スペンサーと、彼が率いる近衛騎士団の二等騎士たちが控えており、隙のない警備体制を敷いている。国王夫妻はセフィーヌたちに、温かい笑顔を向けた。
セフィーヌたちのすぐ後に、マーメイ伯爵家令息ロミリオが入場した。彼は婚約者選抜の時と比べるとどこか凛とした空気を纏っており、紳士として一皮剥けたようだった。
彼と共に入場したのは、姉のマーメイ伯爵ディアナである。彼女こそ、王国内で初めて貴族家当主に就任した女性として、その名を広く知らしめている人物だ。もちろん、これを可能にしたのは前国王ラングホーンによる画期的な勅令に他ならない。フェルマータがこれから歩む道を先んじて切り拓いた、まさに素晴らしき貴婦人である。セフィーヌはディアナに深い尊敬の念を抱かずにはいられなかった。
芸術産業の未来を背負う姉弟は、揃って優美に着飾り、会場の注目を集めた。その堂々たる姿には、かつて向けられた悪意の影さえ感じさせなかった。
新成人の入場はそれからも続いた。
セフィーヌが会場内を見渡すと、先に到着した貴族の中には、スメリー伯爵家令息シルバの姿があった。カーティスの従弟で、新しいスメリー本家の後継者として社交界に披露される貴公子だ。シルバの後見人として、スメリー伯爵トーマスが付き添っている。
彼らはかつての栄華を失ったせいか、少しばかり肩身が狭そうに見えた。しかしセフィーヌは、スメリー家が再興の道を着実に進んでいることを推察し、密かに胸を撫で下ろした。
最後に一際大きな歓声と拍手が響いた。最高位の新成人として、ベルカント公爵家令嬢フェルマータが入場したのだ。
彼女自身の美しさは言うに及ばず、身に纏うドレスも大変見事なものであった。純白の生地に施された刺繍は歩くたびに光を反射して輝きを放つ。幾重にも重なる裾の布地はベルカント公爵家を象徴する絹薔薇を模し、令嬢の魅力を一層引き立てる。
実は、フェルマータとセフィーヌの衣装には共通点がある。フェルマータは髪飾りに、セフィーヌは胸元の飾りに、それぞれ小さな金環柑の花を象ったものを付けている。それは彼女たちの関係を知る人にしか分からない、お互いの絆の証である。
ダツミン侯爵家令息オリヴァーと共に粛々かつ晴れやかに歩を進め、淑女の礼をとるフェルマータ。彼女はまるで、社交界に新たに咲いた花の化身のようであった。その初々しくも麗しい淑女は、会場にいるすべての人の視線を奪った。令嬢のあまりの美しさに、拍手の手を止めて恍惚の表情を浮かべる者もいた。
スメリー家の行状によって一時的に損なわれたベルカント家の名誉は、婚約者選抜の成功によって完全に回復していた。それどころか、その権勢はこれまで以上に輝きを増していた。栞の星図によって示されていた将来像が、現実になったかのように。
やがてセフィーヌの耳には、フェルマータを賛美する声に混ざる、噂話が聞こえてきた。オリヴァーが胸を張って付き添い役を務める姿に感心したであろう人々の声である。
「昔は領地に引っ込んでばかりだった令息が、立派になったものだ」
「彼はあのフェルマータ様の心を射止めた御仁です。何か秘策をお持ちだったのでしょうね」
「オリヴァー様は三等騎士に昇格なさったらしいわよ」
「第三等といえば、団長や副団長として各領地の騎士団を率いることができる等級だ。いずれベルカント領の騎士団長になられてもおかしくないな」
オリヴァーが社交界で高く評価されていることを知り、セフィーヌは心から嬉しく思った。フェルマータの婚約者として彼が相応しい人物であると、誰もが認めているような雰囲気であった。
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