第24話 談話室と控室
折よく、侍女頭ヒルダが、二人がいるフェルマータの自室を訪れた。彼女たちの変装を手伝いに来たのだ。
セフィーヌは令嬢のものと同じ化粧品と道具を駆使し、『鏡化粧』で顔を変えた。さらに髪を結い上げ、令嬢が脱いだばかりの美しいドレスを身に纏った。本物の令嬢にはない、余計なほくろは一つもない。一方、フェルマータは質素な侍女の仕事着に身を包み、髪をまとめ、シニヨンキャップで覆った。
ヒルダの手も加わったことで、見せかけの「令嬢」と「侍女」が完成した。
変装を終えた二人は、ヒルダと共に談話室へ向かった。廊下で事情を知らない使用人たちとすれ違う。彼らは「令嬢」と「侍女」が同じ顔であることには気づかず、即座にセフィーヌが扮する「令嬢」に頭を下げ、道を譲った。その様子は、変装が完璧であることを物語っていた。
談話室は、テーブルや椅子が取り払われ、がらんとしていた。人物のみに注目せよ、という手掛かりを候補者に示すためである。部屋の中央に立つのは、令嬢の影武者であるセフィーヌ。室内には、侍女に扮したフェルマータと共に、ヒルダそして乳母フランセも加わり、証人として控えている。
四人の女性たちを、日光が硝子越しに優しく照らしていた。立会人であるヒルダとフランセの眼差しには、母性愛のような温もりがあった。しかし、いくらその温もりが日光の温かさと共に働きかけようとも、「令嬢」と「侍女」の胸に現れる不安を完全に拭い去ることはできなかった。
これから始まる最終審査。候補者たちが変装を見破れるのか、そして誰が選ばれるのか。様々な思いが去来し、彼女たちの心を締め付けていた。
一方、勝ち残った候補者が集まる控室では、クレメンスが最終審査の説明をしていた。
「これより、お一人ずつ談話室へ入っていただき、貴殿が想いを寄せるご令嬢へ、ありのままの気持ちをお伝えいただきます」
説明を聞いたリカルドは、紳士らしさが崩れたとしても、自分の熱い想いを言葉にすることを考えていた。
(ベルカント公爵家の未来、そしてフェルマータ嬢の幸福のために、私こそが選ばれなければならない。そのためには、技巧に頼り切った表現を手放すことを恐れてはいけない)
オリヴァーは、飾らない、ありのままの自分を令嬢に見てもらおうと心に決めていた。
(余計なことを考えるな。ただ、真っ直ぐに、彼女の目を見て、自分の言葉で話す。それだけだ)
ジョナサンは、執事の言葉がまるで待ち焦がれた船出の合図であるように感じた。公爵家令嬢との縁を求める他の候補者のことなど、彼の頭にはない。
(恐らく彼女は、フェルマータ嬢と共に談話室で俺たちを待ち構えているだろう。この機会を最大限に利用し、彼女の心に俺の想いを伝えよう)
いよいよ、最終審査が始まる。
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