テレビ見てる時はCMの間に急いでトイレ行くよね

 その日の昼下がり。

 リオの家の居間に、ミレーヌとユリナ、ナディアが集まっていた。


 空気はどこか緊張していた。

 リオが自ら切り出したのだ。「自分の正体と力について話す」と。


 スープの湯気が静かに立ち上るなか、リオはゆっくりと語り始めた。


「……俺は、“リオ”という名前でこの村に住んでる。だが本当の名前は、“カルナディス”。

 前の世界では、“災厄を止めた存在”とか、“世界を滅ぼす者”とか、そんなふうに呼ばれていた」


 ミレーヌが目を見開く。


「……え?」


「この世界に転生したとき、記憶も力もすべて封じられていた。

 でも最近になって、少しずつ戻り始めてる。おそらく“何か”が動き出したせいだ」


 ユリナが唇を噛みしめながら、言った。


「……リオさん、じゃあ、これまで隠してたの?」


「ああ。お前たちに、関わってほしくなかった。俺の過去に巻き込みたくなかったからな」


「でも……隠してても、私たち、もう巻き込まれてるよ」


 ユリナの言葉は、はっきりとした拒絶でも非難でもなく、“一緒にいたい”という意志だった。


「それに、力があろうと何だろうと──私にとってリオさんは、スープのうまい人だもん」


「……それ、褒めてるのか?」


「褒めてる! 大事だよ、スープ!」


 ミレーヌも静かに言葉を続けた。


「……正直、驚いてます。でも……リオさんが誰だったとしても、私は信じます。

 力があってもなくても、リオさんは“助けてくれた人”だから」


 ナディアがうんうんと深く頷く。


「お二人とも、すごいですね~! やっぱり現場の信頼関係って、強いなあ……!」


「……研究対象を見る目で頷くな」


「違いますって! 尊敬の目ですよ!」


 リオは、少しだけ笑った。


(……こんなふうに、誰かと向き合うのは……いつ以来だろうな)


 やがて、話は今後の行動に移った。


「ペンダントの声が言っていた。“次の鍵は、南の沼地にある”と」


「……行くんですか? そこに」


「ああ。多分、“力を取り戻す儀式”の一部なんだろう。行かなきゃ、この村を守れない」


「行くなら私も行きます!」


「私も! リオさんが一人で危ないとこ行くなんて、絶対いや!」


「はいはい私も! しかも沼地ですよ? サンプル取り放題!」


「……お前は相変わらずブレないな」


 こうして、リオたちは“沼地への調査旅”を決意した。


 それは、かつて封じた力と向き合う旅。

 そして──村に忍び寄る影の正体を暴く鍵となる。


 *


 その夜。

 村の外れ、黒く枯れた木の影に、人影がひとつ。


 黒いフードを深くかぶったその人物は、リオたちの家をじっと見つめていた。


「──カルナディスが、目覚め始めている……」


 その声は、低く、歪んでいた。


「ならば、第二の“封印者”もまた、動かさねばなるまい」


 闇の中、かすかに紅い瞳が揺れた。

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