第9話 ミハイル・オイゲン4
バーベキューの翌日。正午に差し掛かる頃、山中でエーリッヒの部下の兵士達は眉間、又は心臓の位置にペイント弾を全員受けて唖然としていた。状況をモニターしていたエーリッヒは無線を取った。
「皆、お疲れさん。ミハイルはよぉ、何つーか……超人で怪物だ。負けたからと言って、無駄に自信喪失すんなよ? ミハイル、例の力があるからと言って過信してなかったな。気配の消し方、狙撃位置共に完璧だった。見事合格だ。森の入り口にあるトラックに乗って、皆と帰って来い」
「了解です社長。皆さんとまたバーベキューできる様に獲物を狩って戻ります」
賑やかな夕食時を過ごした翌日。ミハイルは朝からエーリッヒのオフィスにいた。
「……一応聞くぜ、ウチで働くつもりはねぇか? 自慢じゃねぇが、悪どい仕事は請け負ってねぇ。民間の要人警護やプラント警備なんかをやっている」
「お誘いありがとうございます。鍛えて下さった社長の恩義には報いたいですが、先ずはやらなければならない事があります」
「母国の現状確認と打開だな? 最終試験に合格と言っといて何だが……お前、人を殺せるか?」
「両親を死に追いやった原因が、自分の目から見ても人に害悪を与え続ける存在ならば間違いなく」
エーリッヒから見て、いわゆる良いツラ構えで返事したミハイルは既に一端の戦士だった。
「ハハッ! これ以上引き留めん。ただ、お前は俺の教え子だ。色々と融通してやるから、いつでも連絡して来い。下らん事で死ぬなよ?」
ミハイルは敬礼。エーリッヒも応えた。
「ハッ! 1年半の間、御指導ありがとうございました!」
「おう! 楽しかったぜミハイル!」
外に出て、リュックを背負い母国から乗って来た自転車にミハイルが跨ると、兵士達から暖かい見送りを受けてエーリッヒの会社を後にした。
夕方前に母国の数キロ手前まで戻ったミハイルは自転車を乗り捨て、森から迂回して町中へ入った。建物は所々が壊れ、銃弾の跡があり、人々の顔は暗かった。
(予想はしていたけど、想像以上に酷いな…… 行動あるのみだ……!)
両親が亡くなったデパート跡に祈りを捧げたのち、夜中に大統領府に潜入。身体能力向上とエーリッヒとの訓練で身に付けたスキルで、簡単に電子資料室まで到着した。
隣の大国の外務大臣一派はこの国の大統領の娘を誘拐して、併合を迫った。真相を知らされず、降って湧いた話に国民は分断され今の惨状に至る。ミハイルはPCを閉じた。
(これが真相……やる事は決まった……!)
大統領府を脱出後、輸送トラックの荷台に忍び込み大国の首都へ。顔をバンダナで半分隠して関係各所に忍び込み、外務大臣のスケジュールを把握後に超遠距離から眉間を撃ち抜いた。パニックになっている間に母国の大統領の娘を救出。車を盗み、安全な場所まで送り届けた。高架下で、目隠ししたままの彼女から問われた。
「あの、貴方は……?」
「理不尽な暴力や支配を是正して、少しでも世の中を面白くしたいと思っている者です。この国をよろしくお願いします」
ミハイルは目隠しを外すと、同時に電光石火の速さで彼女の目の前から消えた。
20年後、某国の路地裏。ミハイルは胸を押さえて仰向けに倒れていた。大統領の娘を救出後に圧政を敷く為政者や麻薬王、武器を国に流し込んで憎悪を煽る商人を始末した後、胸の感覚に違和感を覚えてエーリッヒに連絡を取り、医者を紹介して貰い診断を受けた。癌がミハイルの心臓周辺を蝕んでいた。
地球上の少ない魔素を体内に取り込む時、同時に未知の有害物質を多量に吸収していた。医者は原因が分からなかったが、ミハイルは本能的に理解した。
(……ちょっとは世の中を面白く出来たかなぁ……父さん……母さんに……思ったより……早く会う事に……ごめん……な……さい………──)
ミハイルは、37歳でこの世を去った。
目を開けると両親、ではなくスーツ姿の美男美女、天国の天使か何かと理解した。横には肌感覚で超人と分かる女性2人が座っていた。胸の痛みがなくなったミハイルは、新しい何かが始まる事を予感した。
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