第5話 嶋津タエ4
「この一連の流れを【異界流し】と言う…… さて、早速実践しようか……タエちゃん……タエちゃん?」
「は、はいっ!お師匠様すみません……色んな気持ちが……こう……入り混じって……」
サッと頭を下げたタエの頭を一之瀬は優しく撫でた。
「さっきも言ったが君は嶋津家直系だ、必ず出来る様になる。さぁ、訓練をしようか。 先ずは【力を取る】事を覚えよう!」
「はい! お師匠様!」
この日からタエは毎晩一之瀬と猛特訓。たった半年程で異界流しの基礎を習得。一之瀬は渦を同時に2つまでしか作れないが、タエは最高で5つ作れる様になった。力を撃つ時に、野球で変化球を投げる様に軌道を変化させる事ができ、的に使った丸太は膜に覆われて自動で渦に入って行く為、力を還す動作が非常に迅速になった。また、同時に近接戦闘、銃やナイフの取り扱いも完璧に覚えた。
今いる町に拠点を移して3年後。一之瀬はカツラなしで、姫カットが似合う12歳になったタエに、夜の屋上で訓練後にいつもの笑顔で話し掛けた。
「タエちゃん……もうとっくにだけど、僕が教える事は何もない……後は身に付けた事を人間相手に使うかどうかだけど……」
遠慮がちに言う一之瀬に、タエは笑顔で返した。
「ふふ……今更ですよ、お師匠様。習得した暗殺術で復讐の側面もあるのでしょうが、世の中にはどうしようもない悪党がいる事は知っています。一生懸命に日々を生きる人達の為に私達が手を汚す……私の両親も、そうやっていたのでしょう?」
最早、自分の娘と言っても過言ではない 少女が、笑顔で殺し屋稼業をやりましょうと言っている状況……一之瀬は複雑な心境に一瞬なったが、厳かった訓練に一切の泣き言を言わず、お師匠と慕ってくれたタエに死ぬまで付き合う決心をした。
「よし!やろう!……手始めに僕達を探しに来た連中がこの町にいる……消しに行こうか!」
「はいっ!」
こうして、タエは暗殺者として生きて行く事になった。親代わりだった女性達を殺した人間や両親を殺した暴力団関係者や政治家を次々と暗殺して復讐を完遂。その後も一之瀬と共に全国を回り、不当な暴力や権力に悩む人々を助けた。
時は流れて、タエが50歳の時に親であり、師匠であり、恋人だった一之瀬が77歳で亡くなった。それを機に、加齢や時代の流れもあったかもしれないが、タエの存在がバレ始め、命を狙われる様になった。
そして現在。少女時代を走馬灯の様に思い出していたタエは自分の座るベンチの後ろにいる男にとっくに撃たれたと思った。
(ん? 撃たれていない……ふふ……死ぬ覚悟をして思い出に浸ってしまった……何にしろ暗殺稼業はこれでおしまいだね……あの世で……一之瀬さんに会えるかなぁ……)
タエは拳銃を構えて、カチャカチャと震えた音を出している男に穏やかに話し掛けた。
「撃ちなさい」
「ぐ……う……ッ……!」
覚悟の決まっていない男にイラッとした。
「撃てぇっ!」
「う……うわぁぁぁッ!」
パァン! と乾いた音が鳴り、弾丸はタエの頭に命中。男は錯乱状態で走り去った。元々、人の出入りが少ない公園の為、遺体発見は3時間後だった。一之瀬に見せていた様な穏やかな笑顔で、タエはこの世を去った。
意識が戻った時に、タエの目の前にはスーツ姿の美男美女がいた。
「君達は地球で死んだ。今は魂の状態だ……第2の人生を歩むつもりはないか?」
自分の左右にいる者達からは尋常ではない気配がする、恐らく同業の人間だと感じた。どうやら一之瀬には会えそうになかったが、老いた肉体を捨てて、精神が軽くなったタエは好奇心に溢れ、目の前の美男美女の話を聞く事にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます