豚公爵と蔑まれた悪役貴族、痩せたら世界一の美少年で槍術の天才だった ~ゲーム知識と現代理論で破滅フラグをへし折り、最強の魔槍使いとして王立学園に乗り込みます~

🔥SOU🍨🔥12月15日より新作投稿開始

第一部 豚公と魔神を操る星

第一章 豚公と森王猪

第1話 デブで傲慢な悪役貴族に転生した


「うぐっ……体が、重い?……」


 微睡から意識が浮上すると同時に、全身を不快な圧迫感が襲う。

まるで分厚い肉の鎧を無理やり着せられているかのようだ。


 のそりと上体を起こし、ぼやける視界で周囲を見渡す。

キングサイズもかくやと言う巨大なベッド、しかも天蓋付き!

金の刺繍が施された見るからに高そうなカーテン。

毛足の高いカーペットに磨き上げられた大理石の床。


どう見ても俺が住んでいた安アパートの一室ではない。


「坊っちゃま? お目覚めでございますか」


 控えめなノックの後、部屋に入ってきた清楚なメイド服に身を包んだ少女の顔を見て、俺は全てを思い出した。


(そうだ、俺は『ドラゴンファンタジー百花繚乱』の悪役アレクサンダー・フォン・アルゲアスだ!)


 プレイヤーは、ミズガルズと呼ばれるセミオープンワールド世界を冒険する。


 豊富な探索やり込み要素、多種多様な戦闘スタイル。

挙句の果てには本編と同等かそれ以上のデータ量のDLC、PC版では外第三者が製作した完成度の高いMODによる追加イベントの数々。


 『シナリオ120点、道徳0点』とファンから形容されたシナリオが特徴のゲーム世界。

 

 その中で最も不遇で、最もプレイヤーから嘲笑された“デブの悪役貴族”に転生してしまったのだ。


 アレクサンダーは魔法優位で更には女性優遇ゲーである『DF百花繚乱』において、不遇である物理・魔法の両刀型の男性キャラクターなのだ。


「……ああ、おはよう。よく眠れたよ」


 思わず、前世の癖で丁寧な言葉が口から滑り出る。

その瞬間、メイドの少女が、ビクリと肩を震わせ、無意識に額を庇うように身をすくめた。


 彼女の怯えた目に、俺は自分が何者であるかを改めて突きつけられる。


「ぼ、坊っちゃまが……わたくしめに「お、おはよう」と挨拶をするなんて?」


 彼女は小動物のように怯えた目で俺を見つめ、じりじりと後ずさる。まずい。原作のアレクは、使用人など人間とすら思っていない。こんな反応はあり得ない。


「……っ、ごほん! 勘違いするな! 俺がいつ起きて、どう眠ろうが貴様の知ったことではない! さっさと朝食の準備をしろ、愚図が!」


 慌てて原作のアレクを演じる。


 途端にメイドは「は、はいぃっ! 申し訳ございません!」と顔を真っ青にして部屋を飛び出していった。


(危なかった……。しばらくは道化を演じるしかなさそうだ)


 軋む体を無理やり起こし、部屋の隅にある姿見の前に立つ。

そこに映っていたのは、醜くたるんだ腹と二重顎を持つ紛れもないデブの少年。


 だが、その肉に埋もれた顔立ちは奇妙なほどに整っていた。

陶器のように白い肌、大きな黒い瞳、薄く形の良い唇。

 

 これが痩せていれば、誰もが振り返るほどの美少年になっただろう。


「それにしても、ひどい体だな……」


 最早つまむことさえ出来ない程に育った樽のような腹を擦る。だが、その埋もれた肉体の奥で、何かが燻っているのを感じた。

体型の割に動ける体。そして、魔力の微かな疼き……。


(そうだ、俺にはまだ、逆転の目がある)


 原作でのアレクの運命は悲惨だ。

その怠惰と傲慢さゆえに誰からも見捨てられ、やがて勃発する戦争で、その醜い脂肪を揺らしながら逃げ惑い、敵兵にオークと間違われて槍で刺し殺される。


 ファンからは『介護必須のダメンズ』『アレ臭いンダー』『ポークピッツ(笑)』などと散々な言われようだった。


「冗談じゃない……! 誰がそんな無様な死に方、受け入れるか!」


 幸い俺には原作知識がある。

このデブの肉体の奥底には、原作でも頑張れば『槍術』と『魔術』の才能が眠っていることも知っている。


 どうして死んだとか、なんでここに居るのか? なんて考えたって仕方のない話。


 幸い俺は『DF百花繚乱』のガチ勢。

 これから何が起きるのか? 地理や武器の入手場所、魔物に至るまでほぼ全ての情報を網羅している。


 前世では努力を怠ったから、頑張る場所を間違えたらニートになったんだ。


 この世界のルールを、具体的な努力のやり方を知っている。


「目標は一つ。破滅の運命を回避し、生き延びる。

そのためには……まず、この脂肪という名の監獄を破壊すること……最高率で最強に成り上がってやる!」


 そして、そのためにはあの男の力が必要不可欠だ。

このアルゲアス家に雇われながら、アレクのあまりの怠惰さに匙を投げ、今や俺を「歩く豚」と公言して憚らないあの男。


「待ってろよ、ヴァレリウス。アンタを俺の最初の駒にしてやる」


 俺は姿見に映る醜い自分を睨みつけ、不敵な笑みを浮かべた。





 朝食を終えた俺は、メイドの案内で屋敷の訓練場へと向かっていた。

 原作のアレクなら、食後は昼寝と決まっている。

俺が自ら訓練場へ向かうと告げた時の、メイドや執事たちの驚愕と困惑に満ちた顔は衝撃的だった。


「着きました、坊っちゃま。こちらが第三訓練場でございます」


「うむ。貴様は下がっていい」


 メイドを下がらせ重い扉を押し開ける。

広い訓練場の中心で、一人の男が槍の手入れをしていた。

 

 引き締まった鋼のような肉体。鋭い鷲のような眼光。

顔に刻まれた古い傷跡が、彼の歴戦の経歴を物語っている。


 元王国騎士団の槍術師団長にして、現アルゲアス家筆頭師範ヴァレリウス・アークライト。俺の破滅回避計画における最重要人物だ。


「……何の御用ですかな、アレクサンダー坊っちゃま。

ここは豚が来るような場所ではありませぬぞ」


 俺に気づいたヴァレリウスは、隠そうともしない侮蔑を込めた声で言った。


「貴様に稽古をつけてもらおうと思ってな、ヴァレリウス」


「稽古、でございますか? 面白い冗談ですな。

どうせ走り込みを数歩で音を上げるのが関の山。

お互いに時間の無駄というものです」


「口答えか? これは命令だ。俺に槍を教えろ」


 俺は原作アレクの傲慢さを最大限に装い、顎で彼をしゃくってみせる。ヴァレリウスは心底面倒くさそうにため息をつくと、壁に立てかけてあった訓練用の木槍を一本、俺に放り投げた。


「よろしいでしょう。では、まずは準備運動から。

この訓練場の周りを10周ほど走ってきてくだされ。

もっとも、その体では一周もできずに泣き言を垂れるでしょうがな」


「……ふん、見ていろ」


 俺は木槍を肩に担ぎ、ヴァレリウスに背を向けて走り始めた。肉の鎧が揺れ、すぐに息が上がる。心臓が張り裂けそうだ。

視界が霞み、足が鉛のように重くなる。

自重によって膝と足裏が悲鳴をあげた。


(クソ……! これが怠惰の代償か……!)


 一周、二周。原作のアレクなら、とっくに地面に突っ伏していただろう。だが、俺は止まらない。止まれない。


 あの画面越しに何度も見た無様な死に様が脳裏をよぎり、今にも止まりそうな足を前へ、前へと無理やり動かす。


「はぁっ……はぁっ……ぜぇっ……!」


 五周を過ぎたあたりで、意識が朦朧としてきた。

だがその時、背後から聞こえてきたヴァレリウスの呆れたような声が、俺の意識を覚醒させた。


「ちっ……まだ走るか。見苦しい。さっさと諦めて菓子でも食って寝ていればよろしいものを……」


(……ああ、そうか。アンタはそうやって、俺を……アレクを見限ったんだな)


 怒りが、悔しさが、体の底から湧き上がってくる。

 俺は歯を食いしばり最後の力と気力を振り絞って速度を上げた。


 七周


 八周


 九周


 ……そして十周。

 ついに走り終えた俺は、その場に崩れ落ちるように倒れ込み、

 荒い息を繰り返した。


「……ほう。これは驚いた。あの豚が、まさか本当に走り切るとは」


 ヴァレリウスの声には、初めて侮蔑以外の色――純粋な『驚き』が混じっていた。俺はぜえぜえと喘ぎながらも、顔を上げて彼を睨みつける。


「どうした、終わりか? ヴァレリウス。

俺はまだ、槍を教えてもらっていないぞ」


「……面白い。よろしいでしょう。

ならば、この基本の構えを真似てみなされ」


 ヴァレリウスはそう言うと、流れるような動作で槍を構えた。


一切の無駄がない、完璧な型。


 型から繰り出される流れるような連撃の数々に俺は思わず目を奪われる。


(美しい……)


 俺は倒れたまま、その動きを網膜に焼き付ける。

原作知識とこの体に眠る才能が、彼の動きの意図と構造を瞬時に解析していく。


(なるほど。重心はやや後ろ、先端のブレを利用して、最小の動きで最大の威力を……。だが初動にコンマ数秒のラグがあるな……)


「やってみなさい」


 俺は木槍を杖のようにしてふらつきながらも立ち上がる。

 ヴァレリウスのように腰を落とすと左前を半身にして、穂先を相手の喉元に向け中段構えを再現してみせた。


「なっ……!?」


 ヴァレリウスが、今日一番の驚愕に目をカッと見開いた。


「どうした? ヴァレリウス殿。驚くことなど何もあるまい。この程度できて当然だ」


 俺は傲慢な笑みを浮かべ、内心でほくそ笑む。


「……坊っちゃま。失礼ながらもう一度、構えていただけますかな?」

「何度でもやってやる」


 俺は再び型を披露する。


 正直に言ってヴァレリウスが披露したような演舞は今の俺には出来ない。


筋肉や体幹、指先や目線と言った軽視されがちな枝葉のような操法。

 

その全てを意識してようやく、構えとしてそれっぽいものを再現するのが精一杯だ。


 ヴァレリウスはゴクリと喉を鳴らし、その鷲のような目で俺の全身を舐めるように観察していた。その瞳から、先ほどまでの侮蔑の色は完全に消え失せていた。


「……豚は、死んだようですな」


 ぽつりと彼が呟いた。


「ああ?」


「いえ、こちらの話です。……よろしい。明日より貴方様を『槍術士』として鍛え上げましょう。覚悟してください」


 その声には、先ほどまでの冷たさとは打って変わって、確かな熱がこもっていた。



 その日の夜、私は自室で業務日誌を付けていた。

長年の習慣だ。


『本日、アレクサンダー坊っちゃまが訓練場に来訪。

十周の走り込みを完遂。槍術の基本型を一度で模倣。

才の片鱗あり、底未だ知れず』


 そこまで書いて、俺はペンを置いた。

 日誌に書いたことなど、今日の衝撃の百分の一も伝えられていない。


 あの豚が走った。


 俺が知るアレクサンダーは、暇さえあれば菓子を食み三歩歩けば息を切らし、侍女や侍従に肩を担がせる。

そして何かを注意されれば逆上する。


 暴食で怠惰で傲慢なクズそのものだったはずだ。

その豚が、血反吐を吐くような形相で、最後まで足を止めなかった。


 そして、極めつけはあの『構え』だ。

 

 見様見真似ではない。あれは、俺が長年かけて練り上げた型の『本質』を、初見で見抜いた者の動きだった。


(豚は、死んだ。いや、元から死んでいたのかもしれん。

あの分厚い脂肪の下で、本物の獅子は眠っていただけだったのだ。あの眼、あの槍の構え……あれは、ただの才能ではない。天賦の才だ……しかしその才覚が『槍術』である事には同情する……)


 下らない政争に敗れて以来死んだように生きて来た心は、久方ぶりに燃え上がっていた。


 腐りきった豚の世話係として、このまま老いぼれていくはずだった。


 その俺が、生涯を賭して磨き上げるに値する『本物』を、この手で見出すことになろうとは。


「……面白い」


 口から、今日坊っちゃまが私に言ったのと同じ言葉が漏れる。


「面白い、面白いぞ! アレクサンダー・フォン・アルゲアス!!」


 明日からではない。今この瞬間からだ。

 俺の持つ全てを、あの器に叩き込んでやる。

 あの怠惰だった獅子を、百獣の王へと育て上げてみせる。


 そして日誌の最後に、書き殴るように書き加えた。


『本日、真の主君を見つけたかもしれない。

我が槍を捧げるに足るお方であることを願う』






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【読者の皆様へのお願い】


始めましての方は初めまして、お久しぶりの方はお久しぶりです。SOUです。

本日から完全新作の投稿を開始しました。

初めて言語化し公表させていただいた「創作論」に従って書いております。


8話目(四日目)まで読んで下さい。絶対に後悔させません。私の作品史上一番テンポ良く「面白い」を提供できると確信しています。



破滅確定のデブな悪役貴族アレクサンダーの運命は、まだ始まったばかりです。


「このデブが、どうやって破滅フラグをへし折るのか気になる!」

「俺は、悪役貴族の逆転劇を応援したい!」


ほんの少しでもそう思ってくださった方は、


・本作のフォロー

・★で称えるを3回押す


この二つで、主人公アレクサンダーの再起への努力を応援していただけませんか?


皆様の★とブックマークが、作者の執筆モチベーションとなり、物語の破滅回避成功率を劇的に引き上げます!


面白い!と感じていただけたら、ぜひ正直な評価をお願いいたします。


↓最新話と概要ページの下部に【☆で称える】欄があります!

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