第11話シャンパンファイト

承知いたしました。泥酔討ち入りがエスカレートし、ついにシャンパンファイト(という名の店内破壊)へと発展する第11話です。菜々美の絶叫にご期待ください。


第11話:シャンパンファイト(江戸風)勃発! ~破壊される松の廊下とチーママの悲鳴~


キャバクラ「松の廊下」での赤穂浪士たちの「泥酔討ち入り大作戦」は、当初の目的であった「飲み尽くし、食い尽くし、店の売上を根こそぎ奪う」という目標をほぼ達成しつつあった。店の酒蔵は空っぽ、厨房も壊滅状態。チーママの佐藤菜々美は、目の前の惨状に頭を抱えていた。


しかし、酔いが回り、箍が外れた浪士たちの行動は、これで終わりではなかった。

一人の若い浪士が、どこからか見つけてきた(おそらく菜々美が「お祝い用」として隠し持っていた)異国の泡立つ酒…そう、「しゃんぱん」なるものを数本、高々と掲げた。


若い浪士:「皆の者!これぞ、異国の祝い酒『しゃんぱん』なるもの!我らの今宵の勝利を、これで祝おうではないか!」

その声に、泥酔していた他の浪士たちも、最後の力を振り絞るように鬨の声を上げる。


「おおー!」「しゃんぱん!」「聞いたことあるぞ!」


そして、若い浪士は、おもむろに「しゃんぱん」の栓を抜き放った!

ポンッ!という小気味よい音と共に、白い泡が勢いよく噴き出す。

若い浪士:「うおおお!これが『しゃんぱんふぁいと』というやつか!」

彼は、その泡立つ酒を、こともあろうに周囲の浪士たちや、あろうことか店の調度品に向かって撒き散らし始めたのだ!


それを見た他の浪士たちも、まるで子供が悪戯を思いついたかのように目を輝かせ、次々と「しゃんぱん」の栓を抜き、泡を撒き散らし始める。

「ええい、ままよ!」「祭りじゃ祭りじゃ!」「吉良のじじいへの鬱憤、晴らしてやるわ!」


あっという間に、「松の廊下」は白い泡と酒の匂いに包まれた。

金色の屏風は酒浸しになり、高価そうな掛け軸には泡が飛び散り、赤い絨毯はビショビショに。

浪士たちは、互いに酒をかけ合い、笑い転げ、中には障子を破り始める者まで現れた。

それはもはや宴会ではなく、統制の取れない大乱痴気騒ぎ、いや、破壊活動そのものだった。


佐藤菜々美は、この光景を目の当たりにして、ついに我慢の限界を超えた。

最初は、まだどこか「面白いネタになるかも」という脚本家としての冷静さを保とうとしていたが、自分の店が、自分の築き上げた(つもりの)城が、目の前で無残に破壊されていく様に、彼女の何かがブチ切れた。


菜々美:「ちょっ…!や、やめなさーーーーーーいっ!!!」


菜々美の甲高い絶叫が、狂乱の宴に響き渡る。

しかし、酔っ払った浪士たちに、その声は届かない。

それどころか、一人の浪士が、菜々美に向かって「しゃんぱん」の泡を浴びせかけた!


菜々美:「ひゃっ…!つ、冷たいじゃないの!この…この酔っ払いどもがああああ!私の店を!私の『松の廊下』を、よくも!よくもーーーーっ!!」

髪も着物も酒浸しになりながら、菜々美は怒り狂って叫び続ける。

その形相は、もはやチーママではなく、鬼のようだった。


「弁償よ!あんたたち、全員、この店の損害、一文残らず弁償してもらうわよ!」

「クラウドファンディングで集めた金じゃ、到底足りないわよ!家財道具一切売り払ってもらうから!」

「覚えてらっしゃい!この佐藤菜々美を敵に回したこと、後悔させてやるんだから!」


しかし、浪士たちはそんな菜々美の怒声すらも、宴のBGMくらいにしか思っていない。

「おお、チーママ殿もご機嫌麗しいのう!」「もっと酒を!酒を持ってこい!」


大石内蔵助も、さすがにこの状況はまずいと思ったのか、

大石:「(呂律の回らない声で)み、皆の者…そ、そこまでに…」

と言おうとしたが、彼自身も足元がおぼつかず、近くのテーブルに突っ伏してしまった。もはや、誰もこのカオスを止められない。


「しゃんぱんふぁいと」はエスカレートし、浪士たちは店の物を手当たり次第に投げ飛ばし始めた。

高価な壺が割れ、襖が倒れ、行灯が転がる。

キャバクラ「松の廊下」は、もはや戦場のような有様だった。


佐藤菜々美は、その惨状の中心で、ただただ絶叫し続けるしかなかった。

彼女の脳内では、もはや「面白い脚本」などという思考は消え去り、「どうやってこの損害を取り戻すか」「どうやってこいつらに復讐するか」という、より現実的で、より怨念に満ちた計算だけが渦巻いていた。


この前代未聞の「江戸風シャンパンファイト」は、江戸城の警備の者たちが駆けつけ、泥酔して動けなくなった浪士たちを一人、また一人と捕縛し始めるまで続いた。

キャバクラ「松の廊下」は、文字通り廃墟と化し、佐藤菜々美のチーママとしてのキャリアも、ここで大きな岐路に立たされることになる。


そして、この事件は、吉良上野介への直接的な打撃にはならなかったものの、江戸の民衆に「赤穂浪士、恐るべし。そして、何かしでかすぞ」という強烈な印象を植え付けることになった。

菜々美の絶叫は、新たな波乱の幕開けを告げるゴングだったのかもしれない…。

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