第二部 序章 『法の東漸(とうぜん)――慧(さとり)のことば、海を越えて』
――それは、ただ一人の目覚めた者の足跡から始まった。
一滴の露が大地を潤すように、
一つの言葉が、時を超え、国を越え、人の魂をゆり動かす。
祇園精舎の鐘が鳴り響いてから幾星霜。
釈尊の説いた真理――縁起と慈悲の教えは、
弟子たちの歩みによって南へ、北へと枝葉を広げ、
やがて、天竺(インド)の地を離れて東方へと向かう。
海と砂漠と氷嶺を越え、
バクトリア、パミール、敦煌、長安――
命を賭した者たちがいた。
聖典を背負い、写経し、翻訳し、
異郷の言葉に〈法〉を託した僧たちがいた。
釈尊の「法(ダルマ)」がいかにして東アジアに渡り、
ことに中国という文明世界の中でいかに受容され、翻訳され、
新たな哲学と宗教の形として再構築されていったかを描く物語である。
そこには文化の衝突があり、信仰の模索があり、
そして何よりも、**「真実の言葉を継ごうとする者たち」**の苦闘があった。
唐の時代に至り、三蔵玄奘がインドに渡って命を賭した旅を果たしたとき、
それは単なる旅ではなかった。
それは、世界と言葉の根源に向かう求法の旅であり、
漢語において〈空〉を語るという、かつてない試みに他ならなかった。
光は西方から昇り、
やがて東の地に仏の種を蒔いた。
我らは、今、振り返る。
あの人々がどれほどの誠をもって、
あの教えを継ごうとしたのかを――。
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