第24話 やましいことはございません

 突然、俺の家に来るといい出した、義妹いもうと伊織いおり

 俺一人の独断では決められないため、みんなに聞いてみた。


「……って、言ってるんだけど、どうする?」

「招くしかねぇだろ? あいつ、意地でも乗り込んでやるって感じだぜ?」

「そうだよなぁ……」

「また一人……ルームシェア……するの? お布団……用意しなくちゃ……」

「いやいや、それはマズいって! ついこのあいだユキノを迎えたばかりだぞ!?」

「ボクはかまわないけどねっ! 直接会話ができないのが残念だけど、とっておきの通訳さんがいるじゃないか、アハハッ!」

「いや、そういう話じゃなくてさ……」


 彼女らは家に招くこと自体は賛成しているようだ。

 俺がついている限り、伊織には祓うようなマネはさせない。

 そんな気はもうなさそうな感じもしなくもないが……。


蓮兄れんにい。私、妖怪がなんて言ってても行くから……!」

「来ていいってさ」

「……え、本当に? だって、私は敵みたいなものでしょ?」

「敵だなんて思ってないって。大目に見てくれてる」

「そっか……」


 てっきり反対されると思っていたようで、拍子抜けといった表情をする伊織。

 ここまで妖怪側が無抵抗だと、張り合いもないわな。


 ということで、アパートの前までやってきたわけだが……。


「ここが……蓮兄の家?」

「そう」

「表に女子寮って書いてたけど……?」

「元はそういう目的で建てたところだったんだと。んで、ここにさっき言った六尺様って妖怪がいて、俺がそれを祓った……というか、問題を解決したんだ。それから住まわせてもらってるってわけ」

「あれ? 前までいた家は? 借りてなかったっけ?」

「燃えた」

「……ええええぇ!?」


 伊織は仰天し、口を押さえる。


「そ、その話……本当なんだよね?」

「マジだ。俺の体質は知ってるだろ?」

「めちゃくちゃツイてないって……アレ?」

「あぁ、それが最悪な形で出たって感じだな……」

「事情はわかった。……けど、家がなくなっちゃったんなら、帰ってこればよかったじゃん!」

「どのツラ下げて帰るんだよ~。ほら、中に入るぞ」

「もう、はぐらかさないでよー!」


 納得のいっていない伊織に、とりあえず部屋に上がってもらう。


 テーブルにつくと、ハナさんがお茶を入れてくれた。


「ほらよ」

「お、ありがとうハナさん」

「うわぁああっ!? コ、コップが浮いてるっ!?」

「あぁ……そういうふうに見えるんだな」


 妖怪である彼女らがいるときに、こうして人間と接したことってなかったな。

 物は見えるから、勝手に動いているように映るらしい。


「で……まぁ、こういう家に住んでるわけだけど、どうすれば信用されるんだ?」

「蓮兄と妖怪の関係って、変なのじゃないよね!? 女の子ばっかりらしいけど」

「へ、変なのじゃ……なぁ?」


 なんかめちゃくちゃくつろいで、せんべいをボリボリと食う御三方に聞く。


「一緒に……寝る……関係?」

「ションベンしてるのに覗いてくるような関係だな? そうだろ、あぁ?」

「そうだねぇ……ボクを熱くさせてくれる関係、かなっ? フフッ……」


 俺は眉間にシワを寄せてしまう。


「蓮兄……なんて?」

「え? あぁ……まぁまぁ仲良くしてるよ、ってさ」


 そう言うと、妖怪たちが抗議の声を上げる。


「ちがう……嘘はダメ……。おっぱいに抱っこされて……寝る関係……でしょ?」

「おいおい! オレのパンツいっつもガン見してくるクセに、清楚ぶってんじゃねぇぞ!!」

「蓮斗くん、これはいけない。ボクのビキニをあれほど愛してくれていたのに……」


 聞こえていないのをいいことに、好き勝手……。

 いや、全部事実だけど。


 俺は恥を忍んで、オブラートに包みながらも正直に話す。


「まぁ……仲が良いっていうのは本当だ。ただ、さっきも言ったように、俺にとって人間も妖怪も大差ないと思ってる。つまり……ひとつ屋根の下で異性と一緒に、って状態だ。そりゃ、意識してしまうことの一つや二つあるってもんだろ?」

「どういうこと? 意味がわからないんだけど。だって蓮兄も私と一緒に暮らしてたじゃん。お義母さんはいたけど、そんなこと考えなかったでしょ?」

「いや、それはお前が妹で――」

「幼馴染でもあるんですけどっ!!」


 伊織は頬をフグみたいに膨らませる。


「お義母さんの目があったから大人しかっただけで、こうやって一人になったら、自制がきかないんじゃん! やっぱりダメ! こんなの認めらんない!」


 それってさりげなく、母さんがいなかったら伊織を異性として見てるはず、って言ってる?

 母さんがいてもいなくても、そういうふうに思ってたけどな……俺。


 だって最初は幼馴染で、そこから家族になったんだぞ。

 そりゃ……意識はするだろう、普通に。

 それを俺は義妹になったからダメだって、表に出さなかっただけだ。


「俺は20歳はたち越えてるから、色恋は許されるだろ!? ていうか、そういう伊織はどうなんだよ? お前だって19だろ? いちおうは大人なんだから、気持ちはわかるだろ」

「わかんないけど、全然」

「……え? いや、大学生ならそれぐらい――」

「女子大だから男子いないし、ていうか興味ない」

「友だちとそういう話しないのか?」

「蓮兄の義妹だよ? 友だちがいると思う?」

「え、えらく鋭利な返し方するな……」


 別に俺も伊織も内向的、ってわけじゃない気がするんだよな。

 他人に興味がないわけでもない。

 関わろうとはするものの、気づけば一人になってしまうだけで。


 義妹は不幸体質ではないと思うが、友だちができないのは似てしまったらしい。

 ある意味、俺は伊織を友人でもあると思っているが……向こうはどう思っているのやら。


「……もうちょっと、これは調査が必要だと思う!」

「これ以上、何を調べるんだ? 妖怪は目に見えないのにさ」

「私、気配だけは感じられるの知ってるでしょ? だから、ここで監視を続けて、蓮兄の生活がただれたものじゃないかを見極めるんだから!」

「見極めてどうすんの……」

「それは……えーっと、私が公認をあげる!」

「その公認ってのがあれば、堂々とここに住んでもいい、ってか?」

「そう!」


 俺は頭を抱えた。

 絶対に認めるつもりないだろ、これ……。


「でも帰ったほうがいいんじゃないか? 母さんも心配するだろ?」

「許可は取ってるから大丈夫。着替えだけ取りに帰るけど」

「なんだよそれ……最初から来る気満々だったんかい」

「あ、当たり前でしょう? まさか妖怪と住んでるなんて知らなかったけど、だらしない暮らしをしてるのは目に見えてたから。ビシッと言ってやらないと、って」


 伊織は腕を組み、鼻息を荒くした。


 俺は肩をすくめ、みんなのほうを見る。


「お泊り会……だね……フフフ」

「トイレの使い方だけは、よ~く言い聞かせておけよ? それ以外は自由にしろっ」

「またもやレディを連れ込むなんて。蓮斗くんは罪な男だねっ、フフッ!」


 なんかこっちはこっちでウキウキしてるんだよなぁ……。


 とりあえず、一泊。

 伊織が満足してくるのかはわからんが、凌ぐしかなさそうだ。

 ————————————————————————————

【あとがき】

なぜかお泊りに……!

次回、伊織が女の勘を働かせる……?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る