第14話 当たり前のようにいるやつ

 事件解決に伴い、学校は報奨金を支払ってくれた。

 かなり困っていたこともあって、当分はどうにかなりそうな金額。

 素直にありがたい。


 のだが。


 テーブルに座って食事をする俺たち。

 その目線は、ある人物に向けられていた。


「……で、なんで普通にいるんだ? ユキノ?」

「あむあむ。まぁ、これはボクらの運命だろうね! アハハッ!」


 そう、なぜかあの日以来、ユキノが家にいる。

 事件を解決したから学校を出ようとすると、なんか普通についてきていた。

 どこかで別れるのかと思っていたが、六尺様やハナさんと楽しそうに会話していたらツッコめず。

 そのままズルズルと、家にまで上がってきていたわけだ。


 ユキノは一度箸を置き、なぞにドヤ顔をする。


「六尺ちゃんと色々話が弾んでね。そうしているうちに『家に来れば』と言ってくれたのさ!」

「六尺様……本当?」

「……うん。行くところ……ないって言ってたから」


 思えばハナさんのときも家に招いたのは六尺様だったな。

 猫を拾うときでも、もうちょっと悩んだりしそうなもんだが……。


 美味しそうに卵焼きを食べるハナさんが、適当なことを言い出した。


「んまぁ、いいんじゃねぇの~? んまんまんま……。三人でも四人でも、んな変わんねぇだろ~」

「いやいや、変わるから! 家計が火の車なんだよ!」


 三人でも暮らせているのが不思議なぐらい、お金に余裕がない。

 お金以外だけでなく、スペース的にも限界を感じる。

 一人用の部屋に、四人がひしめき合ってるんだぞ!


 すると、ユキノはうんうんと頷く。


「なら、ボクが家計に役立つところを見せればいいわけだ。そうだろう? 蓮斗れんとくん」

「んー……でもアレだぞ、もう家事は分担してるんだ。任せられるものが……」

「フッフッフ、心配ご無用さ。では、ボクの力をお見せしよう……」


 そう言うと、ユキノは目を閉じた。

 その瞬間――。


「うわっ!? なんだこれ……涼しい」

「うん……いい感じの……かぜ

「へぇ。器用なこと、できんじゃねぇかよ」

「フフッ、だろう? ボクがいる限り、あのクーラーはお役御免さ! 冬は逆に陽抱ひだきで最高にポカポカできる温度を提供しよう! この家における電気やガスのたぐいは、ボクがかなりサポートできるはずさ!」


 なるほど、その手があったか。

 ちょうどクーラーの電気代とか気になってたところだし、これはいい。

 暖かさに関しても、俺は肌で実感済みだ。

 あれはすごいぞ。


 しかし、家のことをやってくれるのは助かるが、お金がないという点が解決していない。


 ただ、ユキノには汎用性の高い能力がある。

 つまり、仕事に同行してもらえれば大きな手助けになるかもしれないな。

 今回みたいに報酬額の高い大きめの事件に手を出していければ、割となんとかなる……のかもしれない。


「……わかった。ユキノ、今日からここが君の家だ」

「おぉ! 本当かい!? あぁ、よかった。ボクにも家が……フフフッ」


 それに……メリットどうこう抜きにしても、家にいてほしいって思ってしまった。

 俺も大概だな。


「そういうわけで、よろしくな。ユキノ」

「あぁ! こちらこそっ」


 こうして、俺と六尺様とハナさんに加え、ユキノもシェアハウスの住人となった。


 しかし、このときはまだ知らなかったんだ。

 ユキノのヤバさに。


 一緒に住もうと提案してからしばらくして。

 トイレに入っていったハナさんが、青筋立てて飛び出してくる。


「おい! 便座がクソあちぃーぞ!! ユキノ! テメェの仕業だろ!?」

「ん? あぁ、それか。ハナちゃん、キミはよくお尻を丸出しにしているからね。便座、温めておいたよ」

「ざけんな! 余計なことすんじゃねぇ! ケツがやけどするだろうが!」

「ハッハッハ! これまた冗談を。蓮斗くん、座ってみてくれるかな?」

「お、俺が?」


 なんでいきなりこっちに話を振ってくるんだ、と思いつつトイレに入る。

 そして尻を便座につけた瞬間、俺は飛び上がった。


「どぅあっちぃいいっ!?」


 ドアを開け、ユキノに訴える。


「ユキノ……あれはダメだ。尻が燃えるかと思ったぞ……」

「おや、そうかい。すまない! もう少し温度を下げておくよっ」


 ニッと王子様のようなスマイルを見せるユキノ。

 そんな顔をされては、許すしかない。


 そう思っていると、今度は冷蔵庫を開けた六尺様が声を上げる。


「あ……私の……プリン……カチカチ……ううっ」


 俺たちはその半泣きな声に呼び寄せられ、覗き込む。


「うわっ! 冷凍プリンになって……っていうか、待った! 冷蔵に入れてるのが全部カッチンコッチンになってるぞ!?」

「ユキノォ! テメェ!! こんだけ凍らせたら解凍すんのにクソほど暇かかんだろうがァ!!」

「解凍の必要はないよ。ボクの冷凍方法は特殊でね。鮮度そのままさっ! プリンもそのまま食べてみてくれ、美味しいはずだよ」


 半信半疑で六尺様は木のスプーンでプリンをすくおうとする。

 すると……。


 バキッ!


「あ……折れちゃった……」

「あ、あれ? 凍らす加減を間違えたかな? すまない! 今温めるから!」


 陽抱を使い、プリンを温めるユキノ。

 それはうまくいって、六尺様は満足そうにプリンを食べる。


「あむっ……うむうむ……おいしい」

「ハハッ……! 美味しいのなら……セーフ、だよね?」

「アウトだ」


 そう、ユキノは恐ろしいほどに不器用だったのだ。


 予感がしなかったわけじゃない。

 呪縛が原因とはいえ、寒がる女子高生を暖めまくるという強硬手段に出ていたんだから。


 でも不器用なだけで悪気がないからな……。


 そうしてバタバタと動き回っていると暑くなってきた。

 そんな中、ユキノの服装が気になる。


「ユキノ、家の中でもそのコート着てるけど……暑くないのか?」

「大丈夫さ! 体温調整はお手の物だからねっ。単純にこのファッションが好きで羽織っているだけだよ」

「そっか。ま、リラックスできる格好になってくれれば」


 俺はパーカーにジーパン、六尺様は白いワンピース、ハナさんは赤い吊りスカート。

 そしてユキノは白いダッフルコート。

 ……季節感がなさすぎだろ。


「いつも着ていたいのは山々なんだけど、リラックスできるかどうかを考えると……ちょっとイマイチかな。なかなかに重いしね」

「なら抜いでいいよ。ハンガーは脱衣所のところにあるから」

「ありがとう、それじゃあ……」


 そう言って、ユキノはダッフルコートを脱ぐ。


 すると、とんでもないものが俺たちの目に映った。


「なっ、なんだその格好!?」

「何って……ビキニさ!」


 ダッフルコートの下に現れたのは、まさかの白いビキニ。

 巨大な双丘を、はち切れそうになっている紐が支えていた。


 思えばダッフルコートを着ていた段階から、デカいのはわかっていた。

 しかし……これほどまでとは。

 ハナさんと同じぐらいか?


「なんて格好してやがんだよ! 風紀が乱れるじゃねぇか!」


 それをハナさんが言う?


「……私も……あぁいうの……着てみたい……」


 冗談抜きで紐が千切れると思う。

 でも……見てみたいのはそう。


「ダッフルコートかビキニって……極端すぎでしょ。もっとこう、春物はるものみたいな……」

「アハハッ! 春なんて夏みたいなものさ! それより、ボクの肉体美に惚れ惚れしたのかい? いいよ、もっと見てくれて。誰かに見せるのは初めてだが、自信だけはあるのさっ!」


 だめだこりゃ。


 やっぱり、妖怪っていうのは羞恥が著しく欠けているらしい……。


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【あとがき】

雪女のユキノも加わり、もうめちゃくちゃ!

次回、初夏の訪れ。

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