第2話 幼女との出会い
アインシュタイナー。
どこかの科学者に似たこの名前を聞いた時の俺は、7歳だった。
そう、25歳だった物寂しい日本人は、7歳の孤児として生まれ変わったのである。
初めてこの世界に来た時の寒さを、俺は未だに覚えている。
異世界の木枯らしは容赦なく肌をすり減らし、何日もろくな食事ができなかった俺は路上で倒れてしまった。
このまま、また死んでしまうのかと観念して、もう楽になりたいと願っていたけれ
ど。
次に目が覚めた時の俺は、何故か高級感溢れる寝室の中にいた。
『っ……!?は、早く公爵様に伝えろ!予言の子供が目を覚ましたと!』
『は、はい!!』
『……予言の子供?』
そこから訪れた公爵家の騎士団長に、俺は色々な説明を受けた。
ここは男女の性比が1:10の逆転世界であり、男は基本的に魔力がなくて魔法を使えないこと。
なのに、俺の体の中には一目でも分かるような魔力が渦巻いていたこと。
そして、倒れている俺を見つけた騎士団の一人が、俺をここまで連れてきたことまで。
長時間の説明を続けた騎士団長は、最後にこう締めくくった。
『これよりあなたは、ルクレイン家の嫡男として生きていただくことになります。たった7歳にしてその魔力だなんて……!!あなたは間違いなく、予言の子供です!』
『……』
その翌日、俺はあっさりと公爵家の養子として引き取られ、ルクレインの性を授かった。
だけど、誰も予想だにしなかったのだろう。体内に魔力が溢れかえっていると言われていた俺が。
まさか、なんの魔法も使えないおちこぼれだってことを、誰も想像してなかったはずだ。
ーーーーーーー
「一から学べる炎魔法、魔力性質概論、水色魔法の構築法……違う、違う、違う!!違うぅううう!!」
図書館の中で頭を抱えたまま叫び出すと、周りの人たちがびくっとしながら俺をチラチラと見てくる。
失礼しましたと頭を下げると、さっき俺を見た人がかえって驚いて土下座をかましてきた。
あ、そういえばまだ公爵家の嫡男だったよね。でも、でも……!
そんなに大事な息子を48の年増に売り飛ばす母親がいるなんて、あり得ないだろ!?
いや、あの女は普通に狂ってるけど……はぁ。
「くっそぉ………あぁあ……万策尽きた……俺はもう終わりだぁ……」
そもそも、王国の
分かっている、分かっているさ。そもそも、この図書館の本はほとんど読み終わってるし!
「どうしよう……どこをどう探しても、灰色の魔力なんて見当たらないんだけど」
魔力は6つの性質を代表する色で区切られる。
炎は赤、水は青、土や風は緑、錬金術は金、神聖は白。
他には黒魔法使いたちが持つ黒色の魔力もあるけれど、とにかく俺が探した限りでは、魔力の色の種類は6つしかない。灰色なんて、存在しない。
そして、どうやら俺の中には灰色の魔力が渦巻いているという。
「…………ふぅ」
この灰色の魔力を見極めるために、公爵家も様々な努力を重ねてきた。
何にせよ、魔力量だけは同年代トップクラスなのに魔法を一切使えないから、彼女たちにとっても気が気じゃなかっただろう。
でも、6階位の魔法使いすら知らない秘密を、彼女たちが突き止められるわけもなく。
結局、俺は死刑宣告を受けたのである。
「あぁ……なんでまたこんな人生なんだよ。本当に……」
前世でも妹を亡くして大変だったから、せめて転生してからは幸せに暮らしたいと思ったのに。
なんでまたこうなるんだ……病弱な妹を守れなかった罰なのか?
「…………ふぅ」
あれこれ考えても仕方がない。俺は本を閉じて立ち上がって、司書さんがいるカウンターに向かった。
もう10年も顔を合わせて俺の存在にすっかり慣れている司書さんは、柔らかい笑みを浮かべる。
「あら、アインシュタイナー様。何かお困りごとでも?」
「あの、一つ聞きたいんだけどさ。ルキフェル侯爵って知ってる?」
「もちろん、存じておりますとも。ここ最近、魔道具の商売で莫大な財産を築き上げた富豪ではありませんか。それにしても、どうして急にルキフェル侯爵を?」
「……あの、もう一つ聞きたいんだけど、ルキフェル侯爵って本当に48なの?」
「はい、確かそれくらいの歳だったはずです。なんと、傍に男たちを10人も侍らせていると噂になってますよ~?」
俺は両手で顔を覆ってから、もう一度質問した。
「……男が10人もいるってことは、美人さんってことだよね!?」
「いえ?私の友達曰く、侯爵の腰回りは出産間近の妊婦に近いと――――ど、どどどうされたのですか!?アインシュタイナー様!?!?」
俺はショックに耐えきれず、そのまま後ろに倒れ込んでしまった。
殺して……!!俺をもう殺してくれよ!!さてはこのクソ公爵、魔道具の流通のために俺を利用したんだな!?この人間もどきが……!!!
「だ、大丈夫ですか、アインシュタイナー様!?気を確かに……!!」
「うええええん~~俺の人生終わったよぉ。これから俺はどうやって生きて行けばいいんだよ~~」
「どうやって生きるって、お顔はぶっちぎりでいいですのでそこをなんとか生かせば……!」
「慰めるなら最後まで慰めろよ!!おい!!」
そうやって泣き叫んでいた時、突然図書館の門が開かれる。
入ってきたのは小さな少女―――すなわち、幼女だった。
銀髪に緑色の瞳をしていて、涙で潤んだ視界でもその美貌が申し分なく伝わってくる。
ああ、侯爵があんな幼女だったら……!!48歳の手も足もぶっとい年増じゃなくてあの天使のような幼女だったら、24時間付き添いながらため息も寝息も鼻息も吸い込めるのに!!
「うぅ、うぅう……どうすればいいんだよ、俺は」
「えっ……え、えぇえええええええ!?!?」
「うわっ!?ちょっ、なに――――」
そうやって嗚咽を漏らしていた瞬間、幼女は瞬く間に俺の前に差し迫ってきて、叫び出した。
「み、見つけた……!!」
「ふぇ?」
「見つけた!!!!!灰色ぉおお!!!!!!」
……わ~お。
エウレカと叫んだアルキメデスを連想させる姿に、俺はポカンと口を開けてしまった。
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お読みいただきありがとうございます!
2025/7/19に少し内容を修正いたしました!
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