こんばんは.7

道端にアザミが生えていました。

変わったアザミ。

なんだか大きくて堂々としています。

頭も葉っぱもトゲトゲしていて、

上から見ると口を大きく開いたお化けみたい。


ワタシの知っているアザミは、トゲがあるにしてももう少し全体的に華奢でした。

このアザミはゴテゴテしていて素敵じゃない。


それにしても、どうしてアザミはトゲトゲしているのかな。

どうしてそんな服を選んだんだろう。

ワタシはアザミさんに聞いてみました。


“アザミさんはどうしてそんな服を着ているの?”


アザミさんは答えてくれました。

“俺はこれしか着る服を持っていないんだ。”

アザミさんは悲しそうに言いました。


“ワタシが、何か作ってあげよっか?”


アザミさんはまた悲しそうな顔をして言いました。

“どんな服を着ても、トゲが生えてくるんだ。”


ワタシは困ってしまいました。

ゆっくりアザミさんを下から上へ眺めて、また下を見ました。


“なぁ、お願いを聞いてくれないか?”


ワタシは見上げました。

“いいよ?どんなお願い?”


アザミさんは変わらず悲しそうに言いました。

“俺はもう花を咲かすことが出来ない。

ただのトゲだらけの暗い草だ。

あの美しい赤紫色の花を咲かせることだけが俺の生き甲斐だった。

あの花だけが俺の誇りだった。

この醜い姿のまま、中から外から虫に食われて、立ち枯れていくのは嫌なんだ。

だから、俺を引き抜いてどこか静かなところに放ってくれないか?”


ワタシは、少し考えてから答えました。

“トゲトゲじゃなくなったら抜いてあげてもいいよ。

今のあなたに触れたら、ワタシ、怪我しちゃうもの。”


アザミさんは少しムッとした顔で答えました。

“トゲを無くすのは出来ないと言っただろう。

何を着てもトゲは生えてくるんだ。”


ワタシは面倒くさいので適当に返事をしました。

“じゃ、ムリ。”



アザミさんは怒った顔で言いました。

“俺の一生の頼みを、指が少し傷付く程度の理由で断るのか!!手袋でもすればいいじゃないか!!

考え無しの馬鹿者め!!”


ワタシ、笑っちゃった。

動けもしない癖にワタシに怒るんだもの。

不思議な草。


“ワタシ、もう行くね。

アザミの花が見たくなってきたわ。”


アザミさんは怒った顔から途端に困った顔になりました。

“俺を置いていくのか。

話だけ聞いて、同情もせずに、行ってしまうのか。”


ワタシはまた少し笑ってしまいました。

“アザミさん、またね。”


ワタシは、その場から離れました。

アザミさんは悲しそうな顔をしていました。


帰りにまたアザミさんの前を通ったけれど、

アザミさんは話せなくなっていました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る