イケメン吸血鬼王子、ぽっちゃり系男爵令嬢にたぶらかされる

伊藤 拓

第1話 吸血鬼王子の婚約破棄

 私、ニュートリシオン公爵の令嬢カトリーヌは、3歳年上で第2王子であるフィリップ様と婚約していた。


 この国は、吸血鬼の一族によって治められている。ひと昔前は、吸血鬼と人族との間で争いが絶えなかった。しかし、王子の3世代前。吸血鬼一族は、人族との和解の道を探り、この国の民達を悪魔達から守るようになる。そうして信頼を得た吸血鬼一族は、貴族達の長、つまり、王として迎えられた。もちろん、フィリップ様にも吸血鬼の血が流れている。


 見目麗しいフィリップ様は、吸血鬼には珍しく、金色の長髪と碧眼をお持ちだった。婚約は、政治的に決められたものだったけれど、フィリップ様は仕事熱心な一方、少し抜けていて子供っぽいところがあって可愛く、私はフィリップ様を愛していた。フィリップ様も私を大切にしてくださり、この婚約には満足していた。


 そんなある日、事件は起こった。



 社交パーティーの会場、私は、フィリップ様を見つけると、はやる気持ちを抑えつつ、フィリップ様のもとへ向かう。


 しかし、いつもと様子が違う。


 そこには、明らかに怒りの表情をしたフィリップ様がいた。


 そして、その隣には泣いているぽっちゃりとした女性が……



「カトリーヌ、俺はお前に心底失望したぞ!」



 隣にいた女性が顔を見せる。


 ああ、この人を知っている。





 男爵家の『コレステロール嬢』





 貧乏貴族出身らしからぬ、お太りなすったその身体をフィリップ様に近づけ、



「フィリップさまぁ~、カトリーヌ様が、私のことを『デブファット』と言ってイジメるんです」



 どこから出るのかと感心するぐらいの猫撫で声で話す。


 私は、以前、彼女から相談を受けた。


 吸血鬼一族の一人と婚約が決まりそうだということで、私に話しかけてきたのだ。


 吸血鬼一族と婚約した人族の者は、数日に一度、血を提供するのが一般的である。


 血の提供者は、婚約者でなくてはならないというわけではないのだが、愛する者の血を欲するというのは、吸血鬼にとって、自然の理。


 コレステロール嬢も、婚約すると血を提供することになる。


 しかし、体形と、本人から聞いた日頃の食生活から、彼女の血は、恐らくドロドロで、健康に悪い。


 私は、フィリップ様を愛するが故、健康に気を遣っているし、健康に悪い血は吸血鬼の親族からも受けが悪い。


 そこで、私は、「あなたの血は『脂質ファット』まみれだろうから、生活改善しなさい」と助言したんだけど……



「他にも、色々と彼女のことを傷つけたと聞いている」



 ああ、そのあと、彼女の健康のことを思って、いろいろきつめにアドバイスをしたかも。



 赤茶毛でロール髪のコレステロール嬢は、フィリップ様の腕に抱きつき、泣き顔をフィリップ様に見せた後、ニィィと、痩せていたらモテていただろうと思われる小悪魔的な笑顔を私に向ける。


「フィリップさまぁ、カトリーヌ様に注意してくれて嬉しいです。これで、十分です。少しでもカトリーヌ様が反省してくれば……フィリップ様は本当に素敵な方です」


 彼女はフィリップ様に、うるうるの目で羨望の眼差しを向ける。


 そして、フィリップ様は、照れ顔をコレステロール嬢に向けた。


 まさか、この二人!



「フィリップさまぁ~、お礼に、このコレステロールの血をまたお飲みになっていいですよ」




 ああーーーーーーーーーっ!!!




「フィリップ様!! 婚約者である私以外の血は飲まないと、あれほど、約束したではないですか!!!」


 私は出せる限りの大声で彼を怒った。


 周りの話し声が静まり返り、視線がこちらに集まる。


「うるさい、うるさい、うるさぁーーーーーい!!! 俺は、コレステロールの方が好きなんだ! もう、お前との婚約を破棄するっ!!!」



 婚約破棄ィィーーーー!?!?!?



 いともこんなに簡単に……


 私が、いままで、どれほどフィリップ様を愛し、どれほど尽くしてきたのか、わからないの???


 怒りと絶望で、心臓のバクバクが止まらない。


 あぁ、なぜ、こんなことになってしまったのだろう……


 あのとき……から……かな……

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