第11話 襲撃
既に数人の覆面したものたちに囲まれてしまった。救援や援護はない。
彼らは既に短剣を抜いている。こちらも銅の剣を抜いてもいいのだが、神域を血で穢したくないのでできるだけ剣は使わないつもりである。
ここから近いのは神殿の裏門である。神殿を抜けることができれば剣を使えるだろうし魔法も使える。もしかすると護衛部隊の誰かが待機している可能性もある。
目標は裏門への到達である。
その間にも襲撃者たちはジリジリと間合いを詰めてくる。
僕は左手でリア姫を抱えるようにして守り、右手と足で襲撃者を撃退することにした。相手が短剣なので靴底で相手の短剣を弾き飛ばして右手の手刀で相手を倒すのである。
「お前らここは神域だぞ。神域で武器を抜くとは何ごとだ。」
そう言って僕は敵の短剣を蹴り飛ばしてゆく。
幸いにも敵の練度はあまり高くなかったようで、僕の蹴りで武器を弾き飛ばされて呆然としている隙に首筋に手刀を叩き込んだら簡単に倒れてくれた。
そうしてやっとのことで短剣の襲撃者を撃退したのだが、向こうからやはり覆面の抜刀した集団がこちらに駆けてくるのが見えた。
神域で武器を抜く罰当たりどもである。
「姫様、新手が来ましたがきちんとお守りしますので。」
リア姫は「うん」と頷いて僕の胸元に顔を埋めた。
長剣で来られると脚では間合いが足りなくなる。それで僕も銅剣を抜かざるを得なかった。
僕もできるだけ裏門に近づこうとしたが彼らの方が足が速い。回り込んで僕を包囲しようとしてくる。
包囲されるのを防ぐために僕は相手の剣を跳ね飛ばそうと剣を振るった。うまく跳ね飛ばせずに相手の腕や手に当たって傷つけることも多かったがこちらも姫君を傷つけないためにわざと相手の剣を受けたりしているので少しずつ手傷が増えてきている。村男に扮するための衣服は分厚いフェルトの布でできており、結構剣の攻撃をかわしてくれていたのだが、何度も攻撃を受けていると布が切れて奥まで攻撃が届くことも増えてきた。
それでもなんとか完全に包囲されないようにしながらジリジリと裏門の方に近寄っていく。
剣戟の音は隠しようもないのですでに結構な騒ぎになっているはずなのだが神殿の方からはなんの音沙汰もない。大体、これらの襲撃者たちは神殿の中から来ているのでこの襲撃には神殿も一枚噛んでいる可能性が高い。
幸いなことはそれ以上の増援はなさそうなところである。剣の襲撃者も次第に数を減らしてきたが、残った三人が正騎士レベルの手練れであった。
もう結構、裏門の近くまではたどり着いたのだがその三人により包囲されてしまったのでそれ以上は門に近づけなくなってしまった。そもそも僕の方が姫君を守らなければならない分、不利である。
こちらが全力で防御に徹していたためか、三人ともなかなかこちらに打ち込めずにいたようだった。けれども焦れたのか、どこかに隙を見出したのか、その中の一人が打ち込んできた。
(南無三!)
僕は後の先で相手の攻撃を掻い潜って相手の腹を切り裂いた。
結構な手応えがあったので深傷になったはずである。
僕はそのまま釣られて攻撃してこようとした別の襲撃者に剣を突き入れてその鳩尾から深く突き刺した。
本当なら斬り合いはしたくなかったのだがこちらにも手加減する余裕などなかった。
鳩尾をついた方は意識なく崩れ落ちているし、腹を切った方は傷口を押さえながら倒れ込んだままである。
立っている残りの一人はあからさまに剣先が震えているので随分と動揺しているのがわかる。
本当はそのまま撤退してくれればよかったのであるが、なかなかそんな都合の良いことは起こらない。そいつは大声をあげると無謀にも僕に切り掛かってきたのである。
そんな攻撃であったので攻撃自体は隙だらけのヘロヘロなものだった。僕は相手の剣を跳ね上げて吹っ飛ばし、そのまま剣の柄で相手のぼんのくぼを強打したのである。
さすがに相手もくらっときたみたいで動きが止まった。
僕が剣を引き戻そうとした時に覆面の布が僕の剣に引っ掛かって外れてしまった。覆面の奥には若い男の顔があった。どこかで見たことがある。
「アーディン?お前はグローランド騎士団のアーディンじゃないか。」
アーディンはグローランド騎士団の優秀な騎士で、僕が父親に廃嫡される前には一緒に剣術の練習をすることも多かったのでよく知っていたのである。
彼は最初何を言われたのか分からなかったみたいだけれど、覆面がはずされていることに気がつくと、「知らない!誰のことだ!」と叫んで一目散に裏門から逃げ出していってしまった。
どうにかこうにか敵を排除することができたが、また敵の増援が来ないとも限らない。ケガした敵には悪いが救助している余裕はない。
「姫様、歩けますか?」
「ええ、あなたの隣なら。」
若干意味がわからないが、歩けるのはいいことだ。とにかく裏門から脱出しよう。
残念ながら裏門には王家の護衛はいなかった。
「失礼。」
僕は上着を脱ぐとリア姫の頭から被せた。彼女の黒髪は目立つのである。
「きゃっ」と驚いた様子のリア姫様に髪色を隠すために僕の上着を被って欲しいと頼むと彼女は「むしろご褒美だわ」と快諾してくれた。女の子の言葉は男とは随分違うようでよくわからないけれど、とにかく拒否されなくてよかった。
♢♢♢
城の謁見室では国王陛下とグローランド侯爵が面会していた。
グローランド侯爵はリアンノン王女をライオットの婚約者にしろと直談判しにきたのである。
「国王陛下、かねてよりリアンノン王女を我が息子と婚約させるというお話であったはず。そのお約束を果たしていただきたく参上した次第です。」
「ああ、その話か。王女は確かにそう言っていたのだが、その相手はライオットではないようでなあ。」
「国王陛下、我が息子はライオット以外にはおりませぬぞ。グローランドとの婚約ならばライオットと結んでもらわねば困るのです。」
「じゃからリアンノン王女をグローランドに差し向けたではないか。そこで婚約を断られたのがその息子殿ではないか。わしも王女に嫌がっている相手と無理矢理結婚させるつもりはない。」
言葉の応酬はだんだんエスカレートしていった。
その時、グローランド侯爵の後ろに控えていたギルマン伯爵がいきなり立ち上がって叫んだ。
「王のくせに何をほざく!ライオットより優れた男はおらぬ。お前のバカ王女はライオットの前に跪かせればいいのだ!貴族のいうことに王は従えばいい!」
ギルマン伯爵は隠し持っていた短剣で王の胸を刺し、王は声もなく崩れ落ちるように倒れたのである。
顔色を真っ青にしたグローランド侯爵に一緒に来ていたグローランドの大司教は「侯爵様、もう事はなったのです。今さら一人だけいい子ちゃんはできませんぞ。一蓮托生です。さあ、侯爵領の騎士団にお命じなさい。王位はすぐそこですぞ。」と太々しく言った。
グローランド侯爵はこくこくと頷くだけである。
「王都の騎士団さえ制圧すれば反抗するものはないでしょう。リアンノン王女は今頃神殿で保護されてライオット様との婚姻を心待ちにしている事でしょう。他の王族は見つけ次第殺してしまえばいいのです。神殿は我らの味方ですぞ。」
大司教がそういうとギルマン伯爵は「さあ今こそ兵を動かす時だ。皆勇猛を示す時だ。手柄を立てたものには褒美を惜しみなく与えるぞ。」と笑い、隠れていた部下に命令を下したのである。
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