第39話
リリの宿に到着する。
リリにはすでに飛び級の試験に合格したこと、卒業後には領地に向かうことを知らせていた。リリが今後どうするかの返事は卒業式までお願いしていたが、どうやら今日その返事をくれるようだ。
リリが真剣に私と目を合わせると、ゆっくりと口を開いた。
「私ではお役に立てないと思います。ですが、オリビア様の新しい門出と今後のご活躍を側で共にできれば……いえ、側に私を置いてください。なんでもします」
「リリ、ありがとう! うれしい!」
リリに抱き着く。正直、断られたら寂しいなと思っていた。
リリには出発まで今の宿に泊まるようにお願いする。お金が掛かるからと断ろうとするリリの言葉を遮る。
「追加分は数日だけよ。新しい宿を探す手間を考えると安いから。それよりも、準備金としてこれを受け取って」
リリに金貨二十枚を渡す。二十枚もあれば、身の回りの春夏秋冬の服や日常品を揃えることができると思う。
「こんなに――」
「リリには今、何もないでしょ? きちんと揃えて頂戴。足りなかったら、後で教えてね」
「……はい。ありがとうございます」
それから寮に戻ると、元父親の公爵から手紙が届いていると寮母に渡される。
「またですか……ありがとうございます」
「それから、卒業式の数日後には寮を退去するとの申請を受理しました。聞くところによると、早期に卒業されること、子爵位を叙爵されたとのこと。誠におめでとうございます」
「ありがとうございます」
いつも笑わない寮母が満面の笑みを向ける。珍しいこともある。その後、退去の詳細が記された資料を手渡しすると、去って行った。
部屋に入り、公爵から受け取った手紙を読みながら笑う。
カルが手紙を覗きながら尋ねる。
「公爵、今度はなんの用だ?」
「卒業式のパーティに参加するから、王城の件を明らかにしろだって」
「しつこいな」
「ね」
卒業には卒業生のみの参加が許されている、その後のパーティは家族も同伴する。元兄も卒業するので、元父も参加資格はある。私が飛び級で卒業することも、領地の譲渡関係で知ったのだろう。
でも、私は卒業パーティに参加の予定はない。うん、この手紙は無視しよ――あ、その翌日にシュヴァイツァー公爵の狩りイベントがあるんだった。敵対勢力でも社交界なので元父もいるはずだ。
「めんどくさいなぁ。狩りに参加するのをやめようかな」
「家庭教師はどうすんだ?」
「それね……」
元父親の公爵が私なんて気にする余裕のないほどのイベントでも起きれば……ああ、うん、何か起こせそう。口角を上げると、カルが苦笑いをした。
「また悪い顔になっているぞ」
◆
それからダンの芋ほりの前日までに、私はとある短い物語を書き上げた。
カルが私の物語をひと通り読み、呆れた顔をする。
「本当にこれを世に出すのか?」
「これで公爵は、しばらく婦人方とかに囲まれて忙しくなると思わない?」
自分の書いた短い物語のタイトルを見ながら薄笑いをする。
『全裸紳士』
これは裸族になった美丈夫な紳士の話だ。登場人物の紳士の容姿は完全に元父の公爵だ。若干、腐の部分も加えておいたソーセージが盛りだくさん登場する一冊になった。これで特定の貴婦人だけではなく、刺さる紳士たちかも大人気間違いなしだろう。
本当はタイトルを『全裸公爵』にしたかったが……他の公爵家からも恨みを買い、犯人捜しをされそうだったのでやめた。
早速、シナリオで読んだ下町にいる何でも屋に頼み、匿名で『全裸紳士』の手書きコピーを特定の貴族婦人方に送りつけた。全員が匿名の手紙を受け取るかは分からないけど、大きな高級フラワーアレジメントと共に送ったので目立つことこの上ないだろう。公爵ガンバ。
さて、芋ほりの日になった。
ダンは昨晩からソワソワしているので、相当芋ほりを楽しみにしているのだろう。
(オリビアどん、もう準備はできたじゃろ! はよ、行こう!)
(分かったから、押さないで。今、行くから)
まだ暗い中、カルと共に部屋を出発してダンの芋畑へと向かう。
芋畑に到着するとダンが激しく辺りの匂いを嗅ぎ始めた。
(ダン、どうしたの?)
(誰かがワシの芋畑を触ったようじゃ)
(え? 芋が盗まれたの?)
(いや、そしたらワシが何か感じていた。葉の先端を少し削がれただけじゃ)
ダンは、特殊能力の芋の監視レーダーがあるの?
薄暗い中、地面に目を凝らす。確かに私たちの物ではない新しい足跡が二つある。
足跡を見下ろしながらカルに伝える。
「誰かにここが見つかったみたいね」
「それは、大丈夫なのか?」
「芋を全て収穫してしまえば、問題はないでしょ」
早速、芋掘りを開始する……と言っても、重労働はほぼダンがする。私もだけど、カルもこの芋は自力では抜けない。どうせオリビアの体力はまだ赤子レベルなので、肉体労働がないことに越したことはない。
(それじゃ、最初の芋を抜くぞ!)
ダンが声を弾ませながら言うと、ズズッと地面が重たく擦れる音がした。これは芋を掘る音ではない。ゆっくりと巨大な黒い影が見え始めた。想像していたより大きい……。
(どうじゃ! どうじゃ! 大物じゃろ!)
「凄い……こんなに大きな芋を見たのは始めて……」
「俺も……」
(ディーネも……)
その後、芋は八個収穫することができた。
ディーネの水魔法で芋の土を綺麗に落とすと、朝日に照らされた大きな黄色と紫の宝石のような芋が出てきた。もしかして、これは甘い芋かもしれない。
芋に手を回してみるが、オリビアの手が回らないほどの大きさだ。こんなデカブツ、今は調理とかできないからけど美味しいのだろうか? それよりも、大きな不安がある……。
「カル……これ闇収納に全部入りそう?」
「入れてみないと分からないな」
カルが闇収納に芋を入れ始めるが、途中で限界が来たようで止まる。
「待ってくれ。今、収納場所を整理する」
「どう? 厳しそう?」
少しして尋ねた。
(芋が全部入らないのか? それは許さんぞ!)
ダンも不安な顔をしながらカルの回りを飛ぶ。
「まだ入れられる場所はある。でも、あのアランってやつがいる場所になる」
「え? ああ! うん」
「オリビア……もしかしてあの男のことを忘れていた?」
「うん。ちょっとだけね」
いや、完全にアランの存在を忘れていた。領地に向かう前にどこかに捨てないと。
結局、芋はアランが気絶している部屋に全て収納することができたようだ。
ホクホク顔のダンと共に芋を抜いた跡地を綺麗に土で埋めると、誰にも見られないように部屋まで戻った。
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