鬼灯

宥めても泣き止まない。

どうしたものかしら。

ねえ、そこの貴方。

赤ん坊の抱き方を知っていらして?

ここには泣き止まない赤ん坊が沢山のいるのよ。


ねえ、そこの貴方。

この子を泣き止ませて頂戴。

あたしはあの子を泣き止ませるから。


ねんねんころり。

知っている?子守唄よ。

でも眠らせるのはいけないの。眠らせてはいけないの。

赤ん坊は起きていなければいけないの。


あら、貴方とても上手なのね。

抱き方がいいのかしら。ああ、眠ってしまう。

ほら、頬を抓って、起こして。

ああ、また。

泣いてしまった。


なあに?あたしのことを聞きたい?

変な人ね。あたしはここで子守をしている。

泣かせないようにしている。

この赤ん坊は皆、血が同じなの。

けれど高貴ではないの。


母親?いないわよ。

そんなもの必要がないから。

どうして?って変わったことを言うのね。

この屋敷では赤ん坊が生まれたら母親なんていらないの。


あたしが母親の代わりですって?

そんなわけないじゃない。バカなことを言うのね。


ではどうやって乳飲み子は成長するのか?

本当に変わったことを聞くのね。


教えてあげてもいい。でもその前にその赤ん坊を泣き止ませて。

ほら、まだ泣いているわ。


ふふ、泣き止んだわね。そのまま起こしておいて。

貴方のために教えてあげるわ。


屋敷では沢山の赤ん坊が生まれるの。

父親が誰か、母親が誰かなんてどうでもいいことなのよ。

誰かが太って、また痩せるだけ。

それだけのことよ。


赤ん坊はすぐにバスケットに入れられる。

どれも美しい花の入ったバスケット。香り付けのためよ。

ほら、貴方の腕の中にいる赤ん坊を香ってごらんなさい。

その子は甘い香りがするでしょう?


香りはそれぞれ高貴な方がお好きな香りなの。

それぞれお食事はなさらないけど、バスケットが運ばれれば

皆様、美しい顔がもっと輝いて見えるわ。


食べるのか?さあ。あたしは知らないわ。

あたしはただ、赤ん坊をあやしているだけ。

でもどなたかは遊んでいたわね。

お手玉が好きな方だったかしらね。


なあに、難しいことではないでしょう?

どうしてそんなに難しく考えるのかしら。

高貴な方たちのすることを、理解しようなんて思うのがおこがましいの。

あたしたちはただ、ここにいて、そうしているだけ。

貴方もそうでしょう?


わざわざ話を聞いて、何になるのかしら。

最後の質問、いいわよ。なあに?

恋人?あたしは知らないわ。

それがどういうものかも、どういう意味かもね。


さようなら、貴方、赤ん坊をあやしてくれてありがとう。



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