第46話 後悔は先に立たず
この世界はまだ、謎を抱えている。
当たり前か。
人生、何度やっても簡単に行かないもんだ。
俺は気を引き締め直す。
「IVG技術って、あれだろ?
体細胞とIPS細胞を使って、
同性間でも受精卵を作るやつだ。
男が少ない。
いや、極端な話、
男がいなくても問題ないように思えるがな。」
「当初は皆そう考えていた。
結果的に、遺伝子的多様性を保てなかった。
簡単に言えば、近親婚と同じ状態だ。
何故かどうしても遺伝子の組み合わせパターンが固定された。
産まれた子にCRISPを施しても、
次世代には必ず劣性部分が継がれてしまう。」
思わず俺は大きなため息が出た。
前世ではまだ研究中の技術だが、
未来の世界でもまだまだ改良の余地ありか。
「私がこの席に着いた時点で、
『男』を知る者はろくにいなかった。
私は『円卓』に入って一番最初に君のいた施設を作り、
受精卵のすり替えを始めた。
搾精方法については、私の案ではないが。
その、すまなかった。
誰の著書にも、
医学書レベルでも『男』についての情報がなかったんだ。
そのときに私は気付いた。
何者かがこの女尊男卑の世界を意図的に作ったと。」
彼女は天をあおいで、笑う。
「私は私の人生が誰かの書いた戯曲だと知って、
しばらく寝込んだよ。
偽りの記憶と知り、
それでも私と交渉した君には分からないかもしれないが。
それこそ作り物の人生だと宣言された気分だった。」
バネロは大きなため息をついた。
「リトスの報告を含めても、
数日の活動日数でここまでたどり着く洞察力。
驚嘆に値するね。
君は本当に欲しい人材だ。」
俺はバネロを見つめ返した。
「バネロ。
貴女はいつからこの『円卓』とやらに?」
「この席に着いたのは二十年くらい前だよ。
少し身の上話をすれば、
私は世界政府が発足した頃にここで産まれた。
逃げ込んだ者たちの次、
第二世代と呼ばれる最後の一人だ。
男の隔離決定時は、
丁度私が政府機関で働き始めたくらいだった。」
バネロは頭を抱えて続ける。
「そんな私でも本当に分からないんだよ。
誰にもその自覚も意識もなく、
とっくに『君が言う男を拒絶する社会』ができあがっていた。
当時の私も男をこの世の悪のように思っていた。」
もう懺悔のように語り出すバネロ。
「私自身、男と実際に会ったことはある。
幼少期のわずかな回数。
しかも、数分の短い時間での経験しかないが。
それが悪い体験だった訳じゃない。
変なこともされなかった。
今思えばむしろ、私に良くしてくれた。
貧しく何もない時期に、
貴重な食べ物を分けてくれた記憶だ。
……なのに、
気がつけば私も皆と一緒に男を否定していた。」
生き証人の独白を、
誰も遮ることはできない。
「私は当時の統治者、
この円卓の前身にあたる組織。
彼女ら全員、もしくはその内の誰かが、
男を否定するよう思考を誘導していたと見ている。
既に当事者たちは皆亡くなっているので、
もう確認のしようもないが。」
バネロの話しを聞きつつも、
俺は必死に考える。
このまま、この提案をしていいのか?
自問自答しても、答えはなく。
他の案はまだ仮説の域を出ない。
希望はあれど、情報が足りない。
「さて、君の話は聞く価値がありそうだ。
次は君の番と行こう。」
バネロは指を鳴らすと、
俺を連行してきた軍服の三人が銃を構えて俺に向けた。
「君が期待させたんだ。
良い話を聞かせて欲しい。」
虚ろな笑顔でバネロは言った。
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