ようこそ、迷宮コンビニへ! 気付いたらコンビニと一緒に異世界転移していたのでコンビニ商品を売りまくってみたら探索者御用達の万能雑貨店になった件

彩帆

第1章

1.いつもの日常から非日常へ

「いらっしゃいませ! ようこそ、スマイルストアへ!」


 リズミカルな入店音と共に自動ドアが開いたので、僕は条件反射的にお客様を出迎える言葉を口にした。


 僕はしがないコンビニ店員、春夏冬あきない はじめだ。秋がないから春夏冬あきないと読む。小鳥遊たかなしさんみたいな少し珍しい苗字を持つこと以外は至って普通のフリーターだ。


 コンビニバイト歴は実はもう九年と経つ。高校生の時から学費を稼ぐために始めたのがきっかけ。


 大学生になっても同じように学費のために働き続けた。その後は就活がうまくいかず、大学卒業後は結局フリーターになり、そのままコンビニで働き続けてもう二年になる。


 親は何か言わないのかって? 残念ながら僕にはもうそれを言ってくれるような親はいない。


 幼い頃に親が離婚して母親に引き取られたけど、僕の母親は婆ちゃんに僕を預けて何処かに行ってしまった。


 僕を一人育ててくれた婆ちゃんも大学在学中に亡くなり、殆ど孤独の身になってしまった。


 まぁ、こんな身の上だけどわりと日々はそこまで悪くないよ。コンビニで働くのも好きじゃなかったら九年もやってない。


「ありがとうございました〜」


 レジを通して商品をビニール袋に詰めて、お客様に渡す。その時、笑顔を忘れずに。なぜならこのコンビニの名前は【スマイルストア】という店名だから。略してスマストと呼ばれることもある。


 どこぞの有名ハンバーガーショップみたいに、スマイルを大事にしているんだ。

『あなたの日々に笑顔を、スマイルストア』がキャッチコピーだったかな?


 店のロゴもニコニコの笑顔が描かれたマーク。イメージカラーは黄色で、僕が今着ている制服にも黄色が使われている。


「アキくん、店の様子はどうだい?」


 バックヤードから顔を出してきた店長に振り返る。

 春夏冬あきないなのに、略されてなぜか復活したアキという妙なニックネームで、店長や他の店員から僕は呼ばれていた。


「問題ないですよ。お客様がいなくて少し暇なくらいです」


 平日午前、朝のピークを過ぎたくらいだからか、客足が途絶えてきた。店内には一人もお客様がいなくなっていた。


「じゃあ今のうちに入金してくるね。その間一人になるけど任せていいかい?」


「はい、大丈夫です」


 店長は僕の言葉にニコニコ微笑んだ。

 店長はこの店のオーナーでもある。全国展開するスマイルストアとはフランチャイズ契約をして、この店を経営していた。


「そういえば、アキくんはこれからどうするつもりだい?」


 これから、というのはきっと閉店後のことだ。実はもうすぐこの店舗は閉店になる。


 理由は店長の年齢だ。もう定年を過ぎてだいぶ経つ。年も年だからもうやめるのだとか。


 このコンビニで働き続けて十年が経つ前に、店が閉店するのは寂しくもあるけど仕方ないとも思う。


 それより店長は僕のことを心配してくれているみたいだ。


 確かに心配してくれる身内の家族は居ないけど、僕にとってはもう店長が親のような存在になっていた。だから僕はこのコンビニで働き続けていたのもあるんだ。


「もうずっとコンビニで働いてるので……せっかくなので、僕も店長みたいなオーナーになってみようかと思ってますよ」


「おお、そうだったか。ふふ、アキくんならいいオーナーになれると思うよ。頑張ってね〜」


「はい、ありがとうございます」


 店長は安心したように微笑みながら、僕の肩を軽く叩いてから店を出て行った。


 店長は本当にいいオーナーだった。僕もあの人みたいになれるといいなと思いながら、一人で店番をする。


「いらっしゃいませ〜……?」


 聞き慣れた入店音がしたので入口を見てみたが、自動ドアが開いているだけで、誰もいなかった。


 ……いや、というか、入口の向こう側から激しい光が入ってきて、外の景色が見えなくなっていた。


「え、なにっ? なにこれ!?」


 慌てる僕の視界すら見えなくなるくらいに、光は溢れて、すべてを包んだ。


 まるで光の爆発かのような不思議な現象は、数秒したら落ち着いた。


「なんだったんだ、あれ?」


 光にやられた視界が戻るのを待ちながら、周囲を見渡す。見慣れたスマイルストアの店内。商品棚の商品は綺麗に陳列されたままで特に変わりない。


「……えっ?」


 でも店舗の外を見て驚いた。ガラス一枚を隔てた向こう側は、いつもはアスファルトで埋められた駐車場と道路が見える。


 道路を挟んだ向こうは田んぼが広がるという、わりと田舎……いや自然が近い立地がこの店舗がある場所だった。これでも近くに高校とか大学があるから、朝や夕方は学生で混むんだけど……。


「嘘でしょ……」


 その景色が一変して薄暗い真緑の森の中になっていた。アスファルトなんて地面はなく、雑草の絨毯。


 遠くに見える木々は屋久島にある縄文杉みたいなでかい木ばかりで、それが幾つも立ち並んでいた。


 全体的に薄暗いのは生い茂った葉っぱが空を覆い隠していて、陽の光を遮っているからだと思う。


 元々自然が近い場所だったけど、ここまでダイレクトに自然があるような場所ではなかった。


 僕は慌てて外に出てみた。リズミカルな入店音が背後で聞こえる中、自然豊かな森の音も聞こえてくる。


 空気を吸い込めば、空気清浄機なんて負けるほどに綺麗な空気が鼻を通り抜けて肺を満たした。


 どうしていきなりこんなところに来たんだ?


 これは夢かと思ってみたけど、肌に伝わってくるものは何もかもリアルな感触ばかりだった。


 もしかして――。


「……異世界転移でもした?」


 だって、そうとしか思えないような状況じゃないか。

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