第13章③





 


営業が終わる頃

私は裏口で悠を待ってた


スタッフが次々と帰っていく中

少し遅れて悠が出てきた


「…待たせた」


「ううん」


夜の街は静かで

さっきまでの店の喧騒が嘘みたいだった


 


並んで歩き始める


最初はお互いに無言だった


でも、ずっと胸の奥に溜めてたものが

もう抑えきれなくなってた


 


「…ねえ」


「ん」


「やっぱり…苦しいよ」


足を止めずに

ぽつりと呟く


「今日もさ…普通に他の人と楽しそうに話してたの見たら…」


声が震えそうになるのを必死に抑えた


「仕事ってわかってるけど…」


「……」


悠は何も言わず、ゆっくり歩き続けた


 


「私だけだよね?」


とうとう立ち止まってしまった


「お客さんじゃなくて…恋人は私だけだよね?」


 


悠も立ち止まり

ゆっくり振り返った


 


「玲那──」


その声が思った以上に優しくて

涙が溢れそうになる


 


悠は無言のまま私の手を取って

ゆっくりと自分の胸元まで引き寄せた


「お前だけだよ」


低い声で

はっきりと言ってくれた


「仕事だから、ああいう対応はするけど──

恋人はお前しかいない」


 


胸がじわっと熱くなる


「……ほんとに?」


「ほんとだ」


「嘘だったら許さないから…」


小さく笑いながら

私はそっと顔を埋めた


悠の手が優しく私の頭を撫でてくれる


「玲那は…ほんと可愛いよな」


「……可愛くなんてない」


「十分すぎるくらい」


 


この瞬間だけは

仕事も年齢差も全部忘れて

ただ私だけの悠だった

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