☆第十三話 暴走禁止!☆


 筋肉の巨体をモジモジさせながら、育郎は親友の左掌に、あらためて気付く。

「あ…そういえば、ターさんって、結婚してるんだよね」

「ん? ああ。育ちゃんも知っての通り、学生結婚でしたけどねぇ」

 大学生の頃に結婚をして、正式な結婚式の前に大学の仲間で結婚パーティーをして、育郎も参加した思い出がある。

「俺の知り合いはともかく、ヨメさんの知り合いなんざ『結婚式に鬼が来た』とか、ちょっとした騒ぎやらネタになったねぇ」

「そうだったねぇ…ふふ…」

 などと、今は素直に笑えるようになったのも、亜栖羽の存在があっての事だろう。

 自分に好意を寄せてくれて、こちらの好意も受け入れてくれている。

 そんな女性が、強面青年にとってどれ程の救いとなっているか。

 想いながら、温かくも強面でニタニタしている親友に、三一は確信をする。

「…育ちゃんよ、やっぱりアレだろ? カノジョ 出来たんだろう?」

「えっ…ま、まぁ…♪ ゴメン、その…隠してたワケじゃあ ないんだけど…」

「解ってますよ♪ まあ、すすんで人に話すってぇ事でも ねぇもんな。それで、いったい どんな女性なんだい?」

「えへへ…すごく素敵な女性(ひと)♡ 僕の見てくれとか、全部わかってて…それでもその…お、お付き合い、してくれてるの…♡」

 巨大な肉体が、だらしなく蕩けてモジモジする様は、なにか地獄で予想外の大災害でも起こったかのようだ。

「へぇ、そいつぁ良かったねぇ。育ちゃん 誠実で良い奴だから、相手が見付かって 俺もホっとするよ。で、聞いて良いかな。同い年かい? それとも、少し下かい?」

「女子高校生…一年生です♡」

「へぇ、女子高校せ――って、ぇええっ!?」

 下町ノリで驚いた三一は、しばし呆然と目を見開き、そして驚き停止した思考が再回転をし始める。

「じょ、女子高校生たぁ…またずいぶんと 飛ばしたねぇ」

「天使…♡」

 社会的な危険性を危惧する三一と、ナチュラルに天使を連想した育郎だ。

「っていうか アレだ。よく知り合ったモンだねぇ」

「えへへ…♡」

 育郎は、亜栖羽との出会いや付き合いなどの出来事を話し、流れで出て来た本題を、家庭持ちの親友に問う。

「――そんなワケで、亜栖羽ちゃんの誕生日プレゼントなんだけど…ターさんの意見も参考にしたいって言うか…」

 大切なカノジョへのプレゼントなので、絶対に失敗をしたくないのだ。

「よっしゃまかせとけ。それで、何をプレゼントする気なんだい?」

「うん。やっぱりこう…綺麗な貴金属とか、プレゼントしたいなぁって…♡」

 頭の中では、黄金の指輪とか宝石付きのティアラとかで飾られて、輝く天使な亜栖羽の姿が思い浮かぶ。

 幸せな妄想に浸る育郎が、親友からのGOサインとか、より良いアクセサリーなどのアイディアを期待していると。

「はいアウト。育ちゃんよ、そういったプレゼントは ダメだぜ」

「ぇええっ!? なっ、なんでっ? 亜栖羽ちゃんだってっ、きっとっ、素敵な宝石とかっ――」

「育ちゃんよぉ。俺がいま育ちゃんから聞いた、カノジョの印象ではねぇ、そんな見かけだけの豪華さで喜んでくれような、安っぽい少女じゃあ、ねぇと感じてるぜ」

「う…そ、それは…」

 育郎フィルター込みな話を聞いただけで、亜栖羽という少女の内面をズバり推察が出来る三一は、編集者として確かに優秀だ。

「いいかい、育ちゃんよ。相手は女子高校生で、実家住まいだろう? そんな豪華な貴金属とか、万が一にも親に見付かってみろぃ。どうするんだい?」

「…ぁ…」

 高校一年生の娘が、社会人とはいえ二十九歳の男性と付き合ってるとか知ったら、誠実な関係であっても、親御さんが心配をして当然だろう。

 しかもそんな娘が、年不相応に豪華なアクセサリーを所有しているとしたら。

「そ、そぅだよね…僕はまた…自分ばかりで 暴走して…」

 もう少しで、大切な亜栖羽に迷惑をかけてしまう処だった。

「まあ、そういった貴金属とかは、相手がもっと大人になってから プレゼントしてやる事だ。きっと喜ぶぜ♪」

「そ、それじゃあ、今回は、何を送ろうかな…」

 既婚者へ問いながら、自分でも考える育郎に、三一は応える。

「そうさなぁ…一般的な女子高校生が身に着けるような価格帯アクセサリーで、しかし もチっとだけ大人向けのアクセサリー…とかが、良いんじゃないかい?」

「…少し大人向け…な、なるほどっ! 流石はターさんだよっ!」

 育郎の頭の中で早速、可愛らしいアクセサリーを飾る天使の姿が描かれた。


                    ~第十三話 終わり~

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