主人公の恋愛が成就したあとのこと
主人公と好きな相手が結ばれたあと、筆が止まってしまうことはありませんか?
私は止まります。毎回。
その後の構想もちゃんと出来上がっているし、結末も、なんならラストシーンまで頭の中では練り上がっています。
な の に 止 ま り ま す 。
なぜでしょう? おそらく最初から、そこをクライマックスに設定していたからでしょうね。
例えるなら風船でしょうか。風船は最初なかなか膨らみません。風船のゴムがまだ固く、注入する空気量が伸張に追いついていない。しかし、がんばって空気を入れ続けていると段々ゴムが柔らかくなり、やがて膨らみはじめます。膨らみはじめるとそこからは早い。あれよあれよという間に膨らみ出し、艶々とした立派な風船が完成するんですね。
「主人公と好きな相手が結ばれる」というのもこれに似ている気がします。
よくある恋愛パターンに当てはめるとしたら、こんな感じでしょうか。
はじめはただの友達→次第に互いを意識し合う→ライバル出現→次々と障害が二人に襲いかかる→乗り越える→互いの想いを確かめ合う→一気に盛り上がり成就。
恋愛成就でハッピーエンド、めでたしめでたし。
ではありません。ここで終わってしまっては物語としてはつまらない。このあとふたたび一波乱巻き起こる、もしくは二人が結ばれたことによって周囲に起こった変化などを描かなくては、物語の完成度としては不十分でしょう。
先ほどの風船だってそうです。野球の試合で飛ばされるジェット風船は、7回の攻撃前に飛ばします。わぁ楽しい。
戦いはこれから~GO!GO!吠えろ~ライオン……♪と大声で歌い終わったあと、高々と飛んでいくジェット風船を見上げる瞬間は感無量。
ではありません。戦いはこれからです。
そう、言わずもがな野球は9回まであります。ここで終わりではないのです。戦いはこれからなんです。
そしてもう一つ、大事なことを忘れてはいけません。
実はジェット風船を飛ばすチャンスがあと一度だけあるんです。
しかし、そのチャンスは必ず与えられるものではありません。両チーム平等に与えられるものではないのです。
もうおわかりですね。ジェット風船を飛ばせるチャンス、それは勝利の瞬間です。勝利しなければ飛ばせないのですよ。今季何回飛ばせたかは聞かないで。
さて、主人公の恋が成就した場面を7回裏とします。
小説で全9回(話or章)のうちの7回(話or章)なら、ちょうどクライマックスにあたります。ホームゲーム(主人公)は後攻なので、(恋敵に)負けていても裏で逆転すれば勝ち越しに成功。
ですが、そこで勝ち越しても安心できません。8、9回で逆転される可能性無きにしも非ずだからです。まだまだ物語は終わりませんよ。
この8、9回が執筆の一番しんどいところ。だって、ここが面白くなければそれまでの主人公と相手役の紆余曲折が全部パーになってしまうのですから。
ところがどすこい。
ジェット風船を飛ばし、勝ち越しを見届けた私は、イニングが変わり8回に移ったところでトイレへと立ちました。これは、主人公の恋が成就したところで感無量となり、一旦筆を止めてしまったようなもの。
なぜ? それは勝利を確信したがゆえの「ゆ・だ・ん」。結末はすでに頭の中にあるがゆえの油断です。
しかし現実はそうはいきません。残りはたったの2回、勝ちパターンのクローザー(抑えのピッチャー)が登板すれば楽勝。と思いきや、ですよ。トイレから戻ってきた私を待ち構えていたのは悪夢の光景でした。
なんと再逆転されていたのです。いやいやあきらめるのはまだ早い。この裏で逆転すれば再度勝ち越せる。しかし貧打線は8回裏の攻撃でも得点できず、試合は9回へ突入してしまいました。
さぁ、あなたがこの小説の作者ならどんな結末を描くでしょう?
自チーム(裏の攻撃)=主人公、敵チーム(表の攻撃)=恋のライバル、としてお考えください。
①9回表、頼みのクロ―ザーが打たれ、敵に追加点を挙げられ戦意喪失。9回の裏でも得点できず敗戦。ジェット風船飛ばず。
②9回表、なんとか0点に抑えたものの、裏の攻撃で逆転できずに敗戦。ジェット風船飛ばず。
③9回表、なんとかしのぎ、裏で逆転、サヨナラ勝ち。勝利の瞬間、大歓声とともにジェット風船飛び交う。
このほか、9回裏に同点に追いつくものの逆転できずに延長戦突入というパターンもあります。延長12回引き分けで帰宅の途に着いたことがあるのですが、なんかね、疲労感ハンパなくて消化不良って感じ。勝てばいいけど、引き分けならばこのパターンはあまりお勧めしません。
まぁ、読み手さんが喜ぶのは③でしょう。主人公と好きな人が結ばれるハッピーエンドは読後感も爽やかです。
①②をドラマチックに描く挑戦もしてみたいけどね。
あれ、なんの話だっけ? ああ、続きを書かなくちゃ。
【蛇足】
私は蛇足癖があるので、観客のいなくなった球場でジェット風船を掃除するスタッフの姿まで書いちゃうかも。小説だと後日譚。入れるのも良し悪しで、難しいです。
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