うたうたう
詩乃天夢
第1話
『詩の歌』柊花霞
私は高校3年生の夏、不思議な体験をした。
曖昧な記憶だが、それをここに記しておく。
7月の終わり頃、夏休み中の出来事。
吹奏楽部に所属していた私は夏休み中に迎える最後のコンクールに向けて、朝から学校で練習をしていた。
暑苦しさと頭に響く蝉の声に集中が切れる。
同じくサックスパートは皆集中が切れていた。
このまま練習しても上達は見えないため、休憩しようとサックスパート皆に声をかけると、皆はすぐに演奏を辞める。
水筒を持って扇風機の前に集まるといつものように雑談が始まる。
パートリーダーの大夢が夏といえばと、この学校の怪談について話し始めた。
「詩の歌、って知ってるか?」
怪談は苦手で興味もない私は聞いたこともなかった。
ただ、何かが少し引っかかった。
「知ってる。それたしか、1年生のとき自殺した詩ちゃんだよね。」
私の幼馴染である夢花は知っていたらしく、食い気味の反応だった。
阿久津詩。
1年生の夏に学校の屋上から身を投げて亡くなった同級生だ。
「そう、阿久津詩ちゃん。19時頃になると校内を彷徨いてて、誰も知らない歌を歌ってるらしくて。」
「その歌を聞いた人が行方不明になってる、だよね。」
「うん。でもただの作り話だと思うけどね、俺は。事実なら行方不明になってないだろうし。」
「たしかに。本当に行方不明になってたらその話が出るわけないのか。」
2人は楽しそうに話していたが、私は笑えなかった。
その日はの部活は16時までだったが、私たち3年生は最後のコンクールで悔いが残らないように、休憩をとりつつ18時まで居残り練習をした。
片付けや戸締り18時半になってしまい、「お腹がすいた」と言う大夢の提案で3人で夜ご飯を食べて帰ることになった。
駅前のファミレスに着くと、スマホを置いてきてしまったことに気がついた。
「ごめん2人とも、私スマホ置いてきちゃったみたい。」
「マジか。先に取りに戻る?それとも食べてからにする?」
「先に取ってこようかな。すぐ戻るから先食べてて。」
「いや、俺も一緒に戻るよ。早くても戻るの19時過ぎるし、暗くなって女子1人は危ないだろ。」
「じゃあ私も一緒に戻る。みんなでご飯で食べたいし。」
「ありがとう。」
「ひとりでも大丈夫だよ」と言いたいが、頑固な2人は言っても聞かないだろうと、素直に受け入れた。
学校に着いたのは19時。
時間を見た大夢がまたあの話を始めた。
「19時だから詩ちゃん出てくるんじゃない?」
「冗談やめて。笑えないから。」
私はつい怒り気味に言ってしまった。
「そっか、花霞って詩ちゃんと友達だったっけ。ごめん。」
友達、と言っていいのか。
少し考えていると夢花も謝ってきた。
「私もごめん。花霞と詩ちゃんが友達なの知らなくて。知らないにしても、人が死んじゃった話、笑えないのに。」
その言葉に、私の心は少し痛んだ。
謝られるべきは私では無い。
それに、詩は私を友達だと思ってくれてるのだろうか。
つい考え込んでいると、大夢が「早く行こう」と昇降口に向かって歩き出し、私は慌てて追いかけた。
「やっぱり夜の校舎って怪談があろうとなかろうと怖いね、真っ暗だし。」
校舎に入ったばかりの下駄箱で「早く帰りたい」と夢花が怯える。
早く帰りたいのは私も大夢も同じであり、早歩きでスマホが置いてあるであろう視聴覚室に向かった。
階段を上りきり、視聴覚室前に着くと大夢が急に立ち止まった。
「大夢、どうしたの?」
「いや、なんか、足音みたいなの聞こえない?」
「怖いこと言わないでよ、早く取ってきて帰ろう。」
夢花がそう言い切ると同時に、私にも私たち以外の"ペタペタペタ"というような足音が聞こえた。
夢花の方を見ると「私も聞こえた」というような顔で私を見ていた。
大夢の「早くスマホ取って」と言う声で、恐怖で放心状態だった私は正気に返り身体を必死に動かした。
無事に視聴覚室でスマホを回収すると、大夢は「走ろう」と言い昇降口に向かって走り出す。
視聴覚室前の階段を降りきると、昇降口に向かう廊下の先に人影のようなものが見え、その人影の方向から、あの歌が聞こえた。
そこで私の意識は途切れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます