ドワーフ少年の武器屋~鍛冶が優秀な弟ばかりを溺愛し、借金を全て押し付けられた少年ドワーフとその武器屋のお話。その後、美人師匠と先輩弟子と一緒にお店を始める。~
なかそね駿
1.誰もいない店
ドンドンドン!!
ドンドンドン!!
早朝、勢いよく扉を叩く音がして目が覚めた。
こういう対応は、家族からのけ者扱いされている僕の役目だ。
「誰だろう。こんな朝早くに。」
僕は寝ていた床から体を起こし、入口の扉を開ける。
扉を開けると、そこには僕よりもはるかに背の高い屈強な男たちが、高級な服を着て立っていた。
彼らの身長はおそらく僕の二倍くらいあって、一瞬ヒヤッとする。
「おはよう。ドワーフのお坊ちゃん。いい加減、俺たちの身長差になれて欲しいな。ドワーフは少し小さいんだからさ。」
ニヤニヤ笑いながら、男は僕に向かって言う。
そう、僕はドワーフと呼ばれる種族。この世界では、人間の仲間ではあるが、人族と呼ばれる、まあ、人間の中でも純粋な人間と言えばいいのだろうか、その人たちと比べれば、身長差はドワーフの方が低い。
だが、おそらく、僕がヒヤッとした要因はそれだけではない気がした。
こいつ等が威圧的な態度を先ほどからとっているからだ。
「早速だけど、君のパパとママを呼んできてほしいんだよね。」
男はにやにやと笑って、わざとらしく、膝をかがめ、僕の目線よりも、少し上になるような位置で、僕を、明らかに、わざと見下すように言った。
その態度に、僕は恐ろしくなり、すぐに頷いた。
本当は両親を呼びに行きたくないんだけどなぁ。
心のどこかで、そう思うのだが、そうは言っていられない。あの男たちに帰ってもらわないと、今日一日が何も始まらない。
というわけで、怖そうな男たちの態度に頷き、僕は渋々、両親が寝ている部屋へと向かい、両親の起こしに行くのだった。
両親の寝室をノックする僕。
「父さん、母さん。」
僕は渋々声をかける。
そして、この後、その寝室の扉から、出てくるであろう両親の反応を想像して、ヒヤッとしてしまう。
そう、僕は、両親とそして、家族である弟と、あまり仲が良くない。というより、両親はいつも弟ばかりを溺愛し、兄である僕は、両親に虐待されて育ってきた。
それもそのはず、弟の方が僕よりもはるかに優秀だった。
そして、そんな弟を、羨ましく思って見ていたのも事実だった。
この建物は、僕たちの家と同時に、僕の家族が経営する武器屋でもある。
いわゆるドワーフの武器屋だ。父は鍛冶で武器を作り、この店でその武器を販売していた。そして、最近は、弟が、鍛冶で作った武器もこのお店に並べられていた。
しかし、僕が作った武器は、一向にお店に並ぶことはなく、倉庫の奥に、捨てられていた。
両親と弟曰く、出来の悪い、不良品らしい。それもそのはず、僕の目から見ても、僕が作った武器は不良品そのものであった。
そうして、いつしか両親から虐待を受け、弟からも罵声を浴びせられ、いつしか家の中で孤立していたのだった。
そういうわけで、両親を起こしに行きたくなかったのである。
何を言われるかわからないし、それが怖いからだ。
しかし、屈強な男たちがこの場所に来ている今、このお店の営業は始めることができない。
そう思った、僕は、勇気を出して、さっきよりも大きな声で言う。
「父さん、母さん。」
と。
それでも反応が無いので、今度は両親の部屋をノックして、叫ぶが、それでも中からは無反応。
仕方なく、両親の部屋に入り、両親が寝ているベッドの掛け布団をめくった僕。
それをした瞬間に、驚きの顔になった僕。
両親が寝ているはずのベッドはもぬけの殻だった。
父さんも、母さんも居ない‥‥。
僕は、両親の部屋を出て、家じゅうくまなく探したが、両親の姿は無かった。
仕方なく、下で待っている、男たちに両親が居ないことを知らせた。
「あの。すみません。両親が今いないみたいで。」
僕はそう言うと。
「本当だろうな?一応、中に入って確認するが、良いかな?」
男たちの威勢に僕は折れ、男たちを中に案内する。
お店の奥、両親の部屋など、くまなく見せて、両親が居ないことを確認してもらって、早く帰ってもらう。
僕はそうして、この家の隅々を見せた。
「う~む。確かに居ないみたいだなぁ。」
屈強な男たちのリーダーと思われる人物は、僕の案内に同情した表情を見せる。
しかし。
「お頭っ!!」
男たちの一人、おそらく、リーダーの子分だろうか。あるものに気付いたようだった。
「どうした?」
「これっ?」
リーダーの男は反応し、子分の指さす方向を見る。
そこは、お店の武器が販売されている、フロアの奥にある、普段はお金のやり取りをする、カウンターだった。
そのカウンターの上には、手紙のようなものが置かれていた。
子分の一人は、僕よりも、カウンターの近くにいたため、案の定、運悪く、僕よりも早く、その手紙を取ってしまった。
封筒を開け、中身を確認する子分の一人。読み進める度に表情がニヤニヤとしているのがわかる。
「なんだ?何が書いてあるのか?」
リーダーと思われる人物が子分の表情に気付く。
「面白れぇですぜ、お頭っ!!」
子分は手紙を、屈強な男たちのリーダーに手渡す。
子分から受け取り、彼は手紙に目を通す。そして、彼も、手紙を読み進める度に、口元がにやりと緩むのだった。
そして。
「おめでとう!!ラルフ=オリハルコン君!!」
リーダーの男は、僕の名前を盛大にコールして、お祝いの言葉を言った。
「なんで、ぼ、僕の名前を。」
僕は男に聞いてみる。
「なんでって、手紙に書いてあるからだよ。そして、俺様から、君に嬉しい報告をしよう。ズバリ、今日からキミがこの店の店長だよ。店長就任、本当に、おめでとう!!」
男は、僕に向かってにやにやと笑いながら拍手をする。
そして、一緒に居た子分たちもニヤニヤと笑って拍手をした。
一体何が起きているのか、わからない。店長って‥‥。
「あの、店長って、それは一体どういう‥‥。」
僕は男たちに質問する。
「ハハハッ。これが証拠だ、読んでみな。」
男は僕に、手紙を手渡す。カウンターに置かれていた、手紙を。
手紙の内容に目を通す僕。
『親愛なる皆様。
この度、私、パット=オリハルコンと、妻、イライザ=オリハルコン、そして、次男のライナー=オリハルコンは、遠くの街へ、隠居することを決意しました。
つきましては、この店の所有権と私の全財産に関しては、ここに残っております、長男ラルフ=オリハルコンにすべて相続を行わせていただきましたことをご報告申し上げます。
勿論、この店の店長も本日をもって、長男ラルフ=オリハルコンが責任をもって、務めさせていただきますので、よろしくお願いいたします。
今後とも、当武器屋を、ご高配を賜りますよう、よろしくお願いいたします。』
手紙を読み、目を見開く僕。一体何が起きているんだろう。と、ものすごく不安になる。
「えっと、これは‥‥。」
僕は男たちに目を向ける。
「おおっ、可愛そうなドワーフ君だ。自分に置かれた状況も判っていないなんて。」
男たちの、子分のうちの一人が、僕に憐みの表情をする。
「まあ、分かり易く言うとだ。どうやら、君のご家族は、昨夜、君がすやすや寝ている間に、この家と、君を置いて逃げてしまったようだなぁ。」
リーダーの男はニヤニヤしながら、僕に向かって言う。
「‥‥っ。」
僕は、置かれた状況を理解した。
「そんな。そんなことって。」
なんと、両親は僕を置いて、どこかに消えてしまった。
「おおっ、ようやく状況を理解したか。」
男はうんうんと頷き、ガタガタと震えて、不安になって動かなくなっている僕を尻目に、店の中を見回し、子分の男たちとともに色々とこの家の中を動き回る。
「ほう。昨日もここに来たんだが、どうやら、今日は、武器の在庫もなさそうだな。残念ながら、ご家族は、在庫の武器、つまり、財産もすべて持って、逃げてしまったようだな。」
男たちの言葉に、僕は店の中を見回す。
確かに商品棚には、昨日まで置かれていた、武器屋の商品が存在しない。
僕はその光景に呆然とする。そして。
「お頭ぁ。どうやら、倉庫にも、在庫はなさそうっすよ。あるとしたら、このガキが作った、雑魚そうな装備くらいっすかねぇ。」
子分の一人が、店の奥の倉庫、つまり、武器の在庫を確認しに行って、様子を報告しに戻って来たようだった。
「まさかっ。」
僕は、店の倉庫に駆け出す。
そして。
「そんなっ‥‥。」
案の定、倉庫も、もぬけの殻だった。唯一倉庫に残りとして存在したのは、僕が作った、“ギザギザの錆びた剣”が置かれているだけだった。
そして、当たり前だが、武器を作る材料も一切消えていた。
これで確信した、両親と弟は、僕を置いて、この家の財産をすべて持って逃げてしまった。
残ったのは、僕と、僕が作った、武器と、僕の身の回りの生活の品のみだ。
「ハハハっ。その様子だと、倉庫にも何もなかったようだなぁ。あったのは、その、カッコ悪い、雑魚そうな剣か。あれはお前が作ったのか?」
リーダーの男にそう聞かれ、僕は頷く。
「ふんっ。あれじゃあ、売り物にもならねぇな。」
男はニヤニヤ笑いながら、僕の肩をポンポンとたたく。
「まあ、いいじゃねえか。今日からお前がこの店の、オーナーなのだろう?思う存分一人で、修業すればいいじゃねえか。」
さらに男の口元がニヤニヤと緩む。震える僕をよそに、男はさらに続ける。
「まっ、俺たちは、お前の両親より、100倍優しいよ。その優しさとして、オーナーの就任祝いをやろう。ほらっ。」
男は僕に紙を渡す。
僕はその紙を受け取る。
「‥‥っ、えっと、‥‥。これは?」
僕は恐る恐る、男たちに聞いてみる。
「この店の、君の両親の残っている財産だよ。つまり、君の財産だ。」
ニヤニヤと男は笑った。
書面を見る僕。『金貨1000枚』と記載されている。
因みに、この世界の貨幣は、銅貨、銀貨、金貨、白金貨、王金貨と続く。
銅貨と、銀貨はそれぞれ100枚で上の貨幣になる。しかし、それだと数えにくくなるため、銅貨と、銀貨においては、それぞれ1枚で10枚分となる、大銅貨、大銀貨が、それぞれ存在する。
そして、金貨より上は1万枚で上の貨幣になる。つまり、王金貨一枚は銅貨1兆枚。王金貨1枚で国が作れるから、王金貨と呼ばれるのだそう。
商売をやっている僕ですら、王金貨は見たことが無い。いや、白金貨ですら見たことが無い。というより、そのレベルになると、銀行から、専用の魔法で取引される。
つまり、ここに記されている、金貨1000枚は、銅貨1000万枚、ということだ。
これでも、かなり大きな値段である。
「あの、ありがとうございます。」
僕はそう言って、その、金貨1000枚と記された紙を受け取るが。
「はあ。本当に、どこまでも、オメデタイ野郎だ。その紙、いちばん上に何て書いてある?読んでみな、いちばん上の文字を。」
男はにやにやと笑いながら僕に言う。
「えっと、請求書‥‥。」
僕は男に言われて、いちばん上の文字を読んだ。
請求書‥‥。
この瞬間、僕はこの紙の意味を理解した。うん、全て理解した。
「うん、うん、よくできました。請求書だよ。つまり、このお店の借金。今まで、毎日毎日、僕たちはここにこうして、借金の取り立てに来てたのさ。でも、君の親父はかたくなでね。借金払うの断ってたんだよね~。」
男が大きくうんうんと頷く。
僕は、全てを理解した。僕は両親に捨てられた。しかも僕に借金を残して。
「かわいそうになぁ。どうやら、君は両親に捨てられたなぁ。借金という最悪なものを残してな。」
男がニヤニヤ笑う。
自分でも、その状況をわかっている、わかっているが、頭の中が整理できないでいる。
とにかく、状況を理解するために、僕は男たちに聞いてみる。
「えっと、この残った借金は、僕が‥‥。」
「勿論、当たり前だよな。今日からキミがこの店のオーナーなんだから、何が何でも俺たちに借りた金を払ってもらわないとな。キミが。」
男はニヤニヤ笑う。
「まあ、でも、君がお店の店長に就任したお祝いだし、俺たちは君の両親より優しいから、特別大サービスとして、1ケ月待ってあげよう。1ケ月後にまた来るから、その時までに、金貨1000枚、その、倉庫にある、君が作った力作、錆びたギザギザの剣を売るなりなんなりして、集めるんだな。ああ因みに、俺はその剣、買わないからなっ。」
男はうんうんと頷いた。従えている、子分の男たちもニヤニヤ笑って頷く。
「優しいっすね。お頭っ。」
ニコニコ笑う子分たち。
「あの。もし用意できなかったら‥‥。」
僕はさらに聞いてみる。
「簡単さ。用意できなかったら、この武器屋を売ってもらう。そうだな。この家の相場は金貨500枚くらいかなぁ。もっと厳密に査定すれば正確な値段がわかるけど、まあ、見た感じだと、この借金の返済金額に足りないのは確実だな。」
男はうんうんと頷き。
「足りない分は、お前が俺たちの奴隷となって稼いでもらおう。住む場所は、そうだな、良くてこの王都の貧民街か、いや、俺の家の物置でもいいな。いや、そうだな。あまりにも借金が多いから、お前自身が、国の外で奴隷として売られるのも悪くないな。」
男たちは、うんうんと笑っていた。
「まあいい。いずれにせよ。こんな王都の、まあ、庶民街ではあるが、その庶民街の中でも一等地で借金まみれで、生活すること自体が馬鹿げているけどな。」
男はハハハっと笑い、僕に近づく。
「じゃっ。というわけで、1ケ月後までに、返済額を全て用意しておけよ。用意できなければ、家売って、貴様を奴隷として売って、国の外で奴隷として生きてもらうからな。ああっ、そうだ、もっと早く金が用意できれば、いつでも連絡してくれよ。俺の名は、ウォルフ=ブロイドだ。俺たちのアジトの場所の地図も、ここに置いておくからな。」
そういって、リーダーの男である、ウォルフは、店のカウンターに名前と、アジトの場所をかいた地図の紙を置いた。
「まあ。お前さんは、どうやら、ろくな武器が作れないだろうし、そんな値段の金を用意するのは無理だろうから、1カ月後、俺たちが、またここに来るだろうけどな。ハハハッ」
そういって、ウォルフ達、借金取り一行は、にやにやと笑いながら、この店を出て行き、帰路に就いた。
何もない武器屋、広々とした、空間の中で、ポツンと取り残されている、ドワーフの僕。もともと、ドワーフの身長が低いのだが、今日はその身長の低さが、さらに屈辱的に輝いているのだった。
辺りを見回した僕、自然と涙があふれてくる。“両親に捨てられた”だけでもショックなのに、“借金まで押し付けられた”という、あまりにもひどい状況をしばらく飲み込めない僕が居た。
これからどうしよう。不安に考える僕が居た。
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