18.夕空の旅


 キーンコーンカーンコーン。

 「はい。そこまで。筆記具を置いて。」

 チャイムと同時に先生の指示。その瞬間、筆具を置いて、ホッと胸をなでおろす僕。

 

 七月の最初の週の金曜日、つまりは、一学期の期末試験の最終日。

 最後の科目の試験を終え、期末が終わったとホッと一息入れる僕。そして、この週は、僕以外の他の高校でも、期末試験が行われており、樹里さんとあすかさんの通う高校も、同じように、期末試験が行われ、今日が試験最終日だった。


 期末試験最終日の今日も午前中で終了となり、この日から、週末にかけては、勉強のことなど、何も考えなくていい週末となる。

 運動部とかになってくると、今日からまた、部活が始まるという部活もあるだろう。


 しかし、写真部を追い出されて以来、何の部活にも入っていない僕は、早めに帰宅でき、嬉しい、週末となる。

 因みにだが、改めて部活はまたゆっくり決めようと思う。咲姉ちゃんの母親が、この付属高校の母体である大学の教授をしていることもあり、僕のことも、すぐに、この学校の教員に伝達された。

 そのため、馬場と鹿山の一件があったため、内部進学や推薦における、部活動の記録というのは、ある程度配慮してくれるという。もっと言えば、精神的にきつかったということもあり、今学期の成績も配慮してくれるということだった。


 これは本当にありがたく、少し余裕をもって、色々な活動に取り組むことができる。


 僕は、クラスの掃除を済ませ、すぐに家に帰宅する。

 そして、家に帰宅したら、すぐに、昨日からまとめていた荷物を持ち、再び家を飛び出す。


 目指すは、羽田空港。

 なんと、あすかさんの所属する事務所から、正式に、次のグラビアの撮影をお願いしたいということだった。鎌倉での撮影、コーチと奥様がホームページに、競泳水着姿のサーフィンのポスターや、浴衣のポスターをあげてくださり、それが、事務所の方に評価され、是非次回以降もお願いしたいというのだ。

 今回は水着姿ではないが、それでも、こうして依頼されたことが大変光栄だった。


 そういう事なので、それぞれの学校で、期末試験を終えた、あすかさん、樹里さん、そして、咲姉ちゃんと一緒に、撮影旅行へ出発することになった。



 先ずは、咲姉ちゃんを二子玉川の駅で待つ。

 待つこと数分、彼女は、僕と同じで、大きな荷物を持っている。


 「ごめんね。待った?」

 咲姉ちゃんはニコニコ笑いながら、僕に微笑む。

 「大丈夫、今来たところ。」

 僕はそう言いながらも、ニコニコと微笑む。


 「試験終わり、一緒に楽しみましょう。」

 咲姉ちゃんはうんうんと頷き、拳を高く上げ、笑っていた。


 そうして、二子玉川の羽田空港行のバスが発着する場所に移動する僕たち。

 二子玉川駅から、羽田まではバスが便利。電車だと乗り換えが少し複雑であるということと、大きな荷物も持っている場合がほとんどだからだ。


 バス停に到着し、僕と咲姉ちゃんは一緒にバスに乗り込み、羽田空港へ向かう。


 バスに乗っていること一時間ほどで、羽田空港に到着。

 この間、特に到着の直前には、滑走路が見え、管制塔が見えてくると、本当に羽田に来たという感じがする。

 勿論、飛行機が離陸していく様子も見られるし、駐機場に飛行機が泊まっている様子も見られる。

 これを見ると、これから僕も飛行機に乗り、遠くの場所を目指すんだ、という実感が湧いて来る。


 羽田空港の第一ターミナルビルでバスを降りる。

 北ウィングの、三番の時計台の前。その時計台の前に、あすかさんと樹里さんの姿を見つける。

 二人も、僕たちがこちらに向かって来る姿に気づき、大きく手を振っている。


 「お待たせしました。」

 「ごめね、待った?」

 僕と咲姉ちゃんは二人に声をかける。

 二人は首を横に振る。


 「ううん、今来たところ。」

 あすかさんはうんうんと頷き、笑っている。

 「はい。私も、今来たところです。皆さん、期末試験、お疲れ様でした。」

 樹里さんは、今日までの期末試験、それぞれの労をねぎらって、頭を下げて、挨拶をする。


 そして。あすかさんが。

 「えっと、紹介するね。私のマネージャーで、宮川さん。」

 あすかさんは右手の掌を広げ、四十代くらいの女性を紹介する。


 「こんにちは、糸崎あすかのマネージャーをしています、宮川詩乃です。」

 そういって、宮川さんは僕たちに名刺をくれた。


 「初めまして、野田真晴と申します。今回は、お誘いいただいて、ご依頼いただいて、ありがとうございます。」

 「早川咲です。初めまして。」

 僕と咲姉ちゃんは深々と、宮川さんに頭を下げる。


 「頭を上げてください。野田さんですよね。貴方様の写真の技術は素晴らしいと聞いています。貴方のご経歴を調べさせていただきましたが、鉄道のフォトコンテストで沢山入賞しておられますのね。」

 宮川さんはそう言って、僕に握手を求める。


 「はい。ありがとうございます。」

 僕はそう言って、宮川さんにもう一度頭を下げる。


 「早川さんも写真部でご活躍されているとか。」

 宮川さんは咲姉ちゃんにも握手をする。


 「はい。まだまだ、未熟ですが。」

 咲姉ちゃんは照れながら笑っている。


 「いえいえ、自信を持っていただいても構いませんよ。だからこそ、今日はこうして、私ども、プロダクションから、糸崎あすかの正式な、専属カメラマンとして、これからも撮影等にご同行いただけないかと、依頼したわけであります。いかがでしょうか?」

 宮川さんは僕と咲姉ちゃんに深々と頭を下げた。


 思ってもみない話に、ものすごく緊張してしまう僕。

 それは咲姉ちゃんも同じのようで。


 「はい。まだまだ未熟ですが、頂いたご依頼ですので、精一杯務めさせていただきます。よろしくお願いいたします。」

 「こちらこそ、よろしくお願いいたします。」

 僕と咲姉ちゃんは宮川さんに深々と頭を下げた。


 「はい。本当に、ありがとうございます。よろしくお願いします。」

 宮川さんはニコニコ笑っていた。


 こうして、僕は、改めて、大人気グラドル、糸崎あすかの専属カメラマンになった。

 そして、咲姉ちゃんも、カメラマンを務めるが、基本的には、樹里さんと一緒に、撮影スタッフとして、一緒に同行することになるのだった。


 「そうしましたら、改めて、今回の撮影の打ち合わせと確認を行いたいので、場所を移動しましょう。えっと、先ずはチケットをお渡しします。」

 そうして、僕たちは宮川さんから、航空機のチケットを受け取る。

 今日の夕方の便、日本航空の旭川行の便のチケットだ。


 「そしたら、荷物を預けて、そこの保安検査場から、入ってもらって、日本航空のサクララウンジでお話ししましょう。ラウンジの場所はわかりますか?」

 宮川さんの言葉に、少しドキドキする僕。

 日本航空のサクララウンジという言葉。上級会員しか入れないという場所だ。撮り鉄で、色々な場所に撮影に出かける僕、当然、この羽田空港にも何度も来ているので、大方の場所はわかる。

 日本航空のサクララウンジ。いかにも高級そうな扉の入り口があることも知っている。その場所に入れる、と言うだけで、どこかワクワクする。


 「はい。わかります。高級そうな扉があるところですよね。」

 僕はそう宮川さんに応える。


 「そうですね。そしたら、その扉の入り口で待ってますね。すみません、私と、あすかは上級会員用の専用の入り口から保安検査に入ります。専用の入り口は、同行者が一名迄なので、皆さん全員で、行くことができないのですみませんが、よろしくお願いいたします。」

 宮川さんは僕たちにそう説明して、頭を下げる。


 芸能人事務所ということで、専用の法人カードなどがあるのだろう。

 こういう光景を見ていると、やっぱり凄いなと思ってしまう。


 日本航空の上級会員用の専用入口。僕も見たことがある。いつか僕も夢見てしまう。


 そうして、宮川さんの説明に僕たちは頷き、大きな荷物を各々預けていく。


 保安検査場を抜けて、いよいよ、飛行機を待つ場所へ。

 ここに来ると、いつも気分はドキドキする。


 羽田空港、第一ターミナルの丁度中央付近。北ウィング用のサクララウンジの扉の前で、上級会員専用の入り口から保安検査を終えていた、宮川さんと、あすかさんと合流する。


 「良かったです。皆さん無事にたどり着けて。」

 宮川さんはホッと胸をなでおろす。

 「流石ハルさん。飛行機も詳しいんですね。」

 あすかさんはニコニコ笑っている。


 「まあ、撮り鉄になれば、乗り物全部、自然と好きになるからね。空港も詳しかったりする。」

 僕はニコニコ笑いながら、そう説明する。


 「素晴らしいですね。」

 宮川さんは感心したように言う。

 「うん。マー君やっぱり頼もしい。」

 咲姉ちゃんはニコニコと笑って、僕の肩をポンポンと叩く。

 「はい‥‥。」

 樹里さんはどこか緊張した様子で、こちらを見ている。


 「樹里さん、大丈夫?」

 僕はそう聞くと。

 「実は、私、飛行機、初めてで。」

 樹里さんは緊張しながらもそう答える。


 「おお、そうなんだ。でも、大丈夫。すぐ慣れるから。」

 僕は樹里さんにニコニコと笑いながら頷き、樹里さんの肩をポンポンと叩く。


 「そうですね。すぐに慣れますよ。まあ、私も最初は、ドキドキしましたが。」

 宮川さんは優しく樹里さんに微笑んだ。

 あすかさんも同じで。

 「すごい。一緒に、楽しもう!!」

 緊張している、樹里さんに話しかける。

 「うん。大丈夫よ。私たちと一緒だから。」

 咲姉ちゃんも、樹里さんに向かって、うんうんと頷いている。


 「さあ、樹里さんの緊張をほぐすためにも、早速、ラウンジの中に入りましょう。」

 宮川さんの案内で、僕たちは、サクララウンジへ。


 高級な扉の中には、いかにも落ち着いた雰囲気の洒落た空間が広がっていた。

 「すごい、僕でも緊張して来た、中に入るのは初めて。」

 僕は目を見開いて、周りを見回す。


 僕が初めてということは、当然。

 「私も‥‥。すごい高級感。」

 咲姉ちゃんもドキドキしながら、周りを見る。

 「はい。どうしましょう。壊さないように、そうっと。」

 飛行機に乗るのが初めての樹里さんは尚更緊張している。

 ましてやここは、頻繁に飛行機に乗る、上級会員の人が利用する、専用のラウンジだ。

 緊張している樹里さんを見て、僕たちは、そうだよねと頷いた。


 「私も実は初めて。専用の入り口は、宮川さんと通ったことがあるけど、いつも、飛行機ギリギリに保安検査に入ってたから。」

 あすかさんも、うんうんと頷き、僕たちと同じように緊張しながら、周りの様子を見ている。


 そうして、緊張しながらも、ラウンジの受付に到着する僕たち。

 宮川さんは、専用の会員のカードを提示する。


 「追加の利用者分の料金は大丈夫でしょうか?」

 宮川さんは受付の人に聞く。当然、受付の人も、日本航空の一流のスタッフだ。


 「確認します。」

 受付のスタッフさんはモニターを見て確認し。


 「はい。確認できました。ご本人様と、同行者一名様は無料。そして、そちらの三名様の追加利用料金分は既にお支払いいただいておりますので、そのまま、お進みください。」

 受付のスタッフさんは優しく丁寧な口調で案内してくれた。

 宮川さんは深々と頭を下げ、ラウンジに僕たちを案内する。


 因みにこのサクララウンジは、上級会員本人、ここでは宮川さんと、同行者一名が無料で利用できるが、追加の料金を支払えば、同行者が何名でも利用できる仕組みである。

 今回は、宮川さん、つまり、あすかさんの事務所が追加料金をいくらか支払ってくれたため、僕たちも一緒にラウンジを利用できるのだった。


 「ごゆっくりどうぞ。」

 と、受付の人に見送られ、サクララウンジへ。


 ここからは、高級感プラス、開放的な場所になる。

 「すごい。」

 「きれい。」

 咲姉ちゃんと、樹里さんは、目を丸くしながら、ラウンジの様子を見ている。

 それもそのはず、高級感あふれるラウンジの向こうには、開放的な大きな窓。その窓の向こうには、いくつもの飛行機が止まっていて、そのさらに向こうには滑走路が見え、これから飛行機が飛び立っていく様子が確認できる。


 宮川さんに案内され、先ずは、ラウンジの中の、ドリンクコーナーへ。

 色々な、飲み物が準備されていた。


 僕たちは、ビールは流石に飲めないが、アップルジュース、オレンジジュース、コーヒー、紅茶などなど、好きなものをグラスに注いでいく。

 僕が注いだのは、アップルジュースだ。きっと、高級なリンゴが使われていると信じて、丁寧にグラスに注いでいく。


 そうして、他のメンバーも各々、好みのドリンクをグラスに注いで、飲み物の準備ができたところで、何人かで座れる席に移動して、今回の撮影旅行の打ち合わせをする。


 「今回は、時期は過ぎちゃってますが、少し遅めのジューンブライドということで、北海道のガーデンウェディングプランのモデル撮影になります。最近は感染症等の影響もあり、感染の影響も受けにくい、小さなお庭で、ご家族だけをゲストに招いた、ガーデンウェディングの需要が増えつつあります。」

 宮川さんはそう説明して、先月のジューンブライドのシーズンまで飾られていた、結婚式のチラシを僕たちに手渡す。


 その他、結婚式は、半年から一年先を見据えての予約となるので、この撮影は、来年のジューンブライド、および、それ以降の夏に挙式するカップル向けのポスターチラシ、およびホームページ用の撮影であること、北海道の気候の問題で、寒い大雪の時期ではなく、花が咲き誇るこの時期に撮影しないといけないということが、宮川さんから説明された。


 「最後に、あすかだけでなく、皆様にも、色々なドレスを着て、カメラに映っていただくことも考えておりますので、楽しみにしててくださいね。」

 宮川さんはニコニコ笑いながら、咲姉ちゃんと、樹里さんに笑顔で語り掛けた。


 「すごく楽しみ。」

 咲姉ちゃんはニコニコしながら笑っている。

 「はい。私も、ワクワクしてきました。」

 樹里さんも、先ほどの、初めて飛行機に乗るという緊張感は無くなっており、どこかワクワクしながら、宮川さんの説明を聞いていた。


 そうしているうちに、いよいよ、僕たちの乗る飛行機の搭乗時間が刻一刻と迫っており、搭乗の案内を開始したというアナウンスが、ラウンジに流れた。


 そのアナウンスとともに、ラウンジをあとにする僕たち。

 どこか名残惜しいが、いよいよ、飛行機に乗り、夕空の旅へ向かう。


 搭乗口にたどり着くと、やはり緊張してしまう、樹里さん。

 しかし僕たちが居るからだろうか、歩みは止まっておらず、期待感を持っている表情があった。


 搭乗券をバーコードリーダーにかざし、いよいよ飛行機の中へ。


 アテンダントさんに迎えられ、指定された席へと向かう。

 使用機材は少し大きめのボーイングの767型機。


 窓際に二人掛けの座席の列。そして、中央に三人掛けの座席の列が並んでいる。


 「折角なので、樹里さんが窓際へ。翼の上なので、下の景色は見えないかもしれないですが。」

 宮川さんの指示で樹里さんを窓際の席へ座らせる。

 「その隣に、野田さんですね。いろいろ教えてあげてもらって。」

 宮川さんはそう僕を促して、窓際の二列の通路側に僕が座る。


 その後ろに、あすかさんと、咲姉ちゃん。そして通路を挟んで、中央列の通路側に宮川さんが座った。

 他の客も、次々と席に座っていく。


 シートベルトを締め、上の荷物棚の扉が次々と閉められていく。そして。


 「今日も、ワンワールドアライアンスメンバー、日本航空をご利用いただきありがとうございます。」

 キャビンアテンダントさんからのこの挨拶で、僕も少し深呼吸してしまう。


 「どうしました?ハルさん。」

 樹里さんが僕に聞いてくる。

 「まあ、この挨拶は、日本航空の定型文みたいなものなんだけど、これを聞くと、これから離陸するんだなと。」

 僕はそう説明する。


 「そうなんですね。ワクワクしてきました。」

 樹里さんがニコニコ笑っている。


 続いて、安全の説明に関するビデオが流れる。

 おそらくこのビデオも、出張などで飛行機に乗り慣れた人からすれば、見ずに眠ってしまうだろう。

 しかしながら、飛行機が初めての樹里さん。そして、長期休暇など、たまにしか乗らない僕たちは、そのビデオを見て確認していた。

 特に樹里さんは真剣に見ていて、非常口の場所や、シートのポケットにある、安全のしおり、それを全て確認していた。


 そうこうしているうちに、飛行機は滑走路へ向かう。

 羽田空港ということもあり、順番待ちのため、進んでは止まる、進んでは止まるという動作を繰り返しながら、いよいよ、僕たちの飛行機が離陸する順番が来た。


 シートベルトのサイン音が点滅している。

 「皆様、間もなく、離陸いたします。」

 そんなアナウンスが入り、いよいよ、飛行機は滑走路の中へ。そして。


 「さあ、一気に加速しますよ。」

 僕は樹里さんに向かってそう言う。

 「はい。」

 樹里さんは窓の外を見ながら、うんうんと頷いた。


 僕の言葉通り、一気に飛行機はこれ以上ないくらいのスピードで、加速していく。

 そして、ふわっと体が浮き上がるような状態で、離陸していく。


 「すごい。」

 樹里さんはそう言いながら、窓の外をじっと眺める。


 一瞬だが、遠くに富士山の影が見える。


 「すごい、一瞬ですけど、富士山ですね。」

 樹里さんが指さす。

 「そうですね。飛行機に乗れば、離陸するときに結構見えたりします。」

 僕はそう樹里さんに説明する。


 夕空の旅。西日を浴びる富士山の影。樹里さんもそれを見て、安心したのだろうか、それとも無事に離陸して何事もなかったかのように安心したのだろうか、少しホッとした表情をする。


 眼下に東京湾、そして、横浜方面の街が見え、それがどんどん小さくなっていく。

 そうして、飛行機は富士山に背を向け、北の大地、北海道へ向けて進路を北に切り替えていった。


 僕たちが載っている席は丁度、翼の上。

 水平飛行を保ち、シートベルト着用のサインが消えるころには、真下に見える景色が見えない状態になったが、それでも、夕焼け空のフライトは、樹里さんにとって本当に幻想的なものとなった。


 「すごい、空がきれいです。」

 樹里さんがうんうんと頷き、笑っている。

 「はい。僕も、この時間帯のフライトは意外と初めてかもしれないですね。いつもはもっと早い時間か、もっと遅い時間かの二択なので。」

 僕はそう説明する。


 「気に入ってもらえてよかったです。」

 斜め後ろに座っていた、あすかさんのマネージャーでもある、宮川さんはニコニコと笑って、こちらの会話に頷いた。


 「はい。ありがとうございます。」

 僕と樹里さんは後ろを振り返り、頭を下げる。


 「綺麗ね。写真撮りましょうか。」

 後ろの席に座っていた、咲姉ちゃん。夏の夕空の写真をカメラに収めていく。


 あすかさんは深呼吸しながら、これからの撮影に向けて、英気を養っているようだ。


 そうして、夏の夕空が沈みかける、日の入りギリギリの時間帯に、飛行機は高度を下げ始める。

 ここからは再び、シートベルトのサインが点灯。


 どんどんと高度を下げていく。


 そうして、翼の上の座席に座っている僕たちでも、周りの風景が確認できるようになり。

 「すごい、畑と地平線が‥‥。」

 樹里さんは目を丸くしながらその景色を見る。


 北海道の北の大地。雄大な大地。これを見ると本当に北海道に来たという感覚だ。


 そして、今回降り立つ場所は、北海道の内陸部、その地平線が存分に確認できる旭川。

 僕たちは、その北の大地の、地平線のど真ん中、旭川空港に降り立った。


 飛行機は無事に着陸。

 「ふうっ。」

 という樹里さんの安心したため息。


 「無事に着陸できましたね。」

 僕はそう言って、樹里さんを安心させる。


 「はい。でも、すごく楽しかったです。」

 樹里さんはニコニコと笑っていた。


 そうして、夕空の旅を終える僕たち。

 客室乗務員の人達に見送られ、飛行機を降り、運ばれて来たて荷物を受け取り、空港の外へ。


 そのまま路線バスで旭川駅へ向かうと、夕食の時間となる。


 「とりあえず、北海道の内陸部なので、海の幸はまた今度にして、有名な旭川ラーメンを食べましょう。」

 宮川さんの提案に僕たちは頷き、旭川の駅前のラーメン屋に入る。


 ラーメンを注文し、しばらくすると、濃厚な味噌ラーメンが運ばれてくる。

 地元の野菜、そして、何といっても、地元の乳牛からとれた濃厚なバターがトッピングされている。


 思わず、少しバターをかじる僕。

 「すごい濃厚ですね。酪農も北海道の醍醐味ですからね。」

 濃厚なバターの味、他の皆も僕と同じような動作をし、地元の乳牛からとれた、濃厚なバターの味を楽しんでから、スープを味わい、ラーメンの味を楽しんだ。


 旭川ラーメンはものすごく美味しかった。


 ラーメンを食べ終え、次の場所、つまり、今日宿泊するホテルへと移動する僕たち。

 「すみませんが、ここからは電車に乗っていただいて、夜なので、景色は見えないかもしれませんが。」

 宮川さんにそう言われて頷き、旭川駅へと移動する。


 旭川駅に移動すると、お目当ての電車が停車しているが。これは電車ではなく、汽車である。

 北海道は大半が電化されておらず、動力も、電機ではなく、ディーゼルエンジンで動く。


 「二両編成。短いですね。」

 樹里さんが乗る電車を見てこういう。


 「まあね。北海道なら、一両編成の区間も沢山ありますよ。しかも、本数もかなり少ないです。」

 僕はそう樹里さんに説明する。

 確かに、都会から、こうした北海道に来れば、都会との電車とのギャップに驚くだろう。


 二両編成のH100形。この汽車に乗車して、富良野線を南下し、富良野を目指す。


 北海道の移動は早め早めの移動が基本。

 本州の人間は北海道の大きさや距離感、そして、所要時間に慣れていない場合が多いためだ。

 Google検索をすれば、一週間で北海道の三分の二を観光しながら移動するという猛者もいるらしいが、実際にやると超ハードモード。一週間でも足りないくらいだ。


 明日は富良野での撮影。様々な花々が見られるということで、今から楽しみな僕たち。

 

 「すみません。折角、鉄道ファンなのに、夜なので、景色があんまり。」

 宮川さんは申し訳なさそうに僕に謝るが。


 「いえいえ。大丈夫です。夜は、夜なりの楽しみ方があります。」

 僕はそう言って頷きながら、窓の外、旭川駅の構内を見る。これを見るとワクワクするのも鉄道ファンといったところ。


 そうして、電車はディーゼル音を立てて、走り出していく。

 「エンジンの音がしますね。」

 樹里さんがエンジンの音に反応している。


 「まあ、ディーゼル、気動車だからね。ちなみに北海道の人は、電車と言わずに、汽車と言います。電化されていないので。電化されていない、えっと、上に電線が無くて、電気を燃料として走れないということですね。代わりとなるのが、汽車、つまり、ディーゼル気動車というのでしょうか。」

 僕がそう付け加える。


 「へえ。すごいですね。」

 樹里さんがうんうんと頷く。


 「本当、エンジンの音も、東京の電車より、大きいかも。」

 あすかさんがうんうんと頷いている。


 「昔は、もっと大きかったですよ、この汽車が、新しい車両なので。」

 今乗っている車両は、H100形。昔のキハ40とかは、車内の防音の設計も古いので、車内でもかなり大きなエンジン音がしていた。


 そうして、汽車は旭川から富良野線を南下。


 やはり北海道は大きいようで、暗くて窓の外は何も見えないという状態が続いた。

 しかしながら、途中の美瑛、上富良野、中富良野という駅には、街の明かりが綺麗に灯っていて、安心感を覚える。


 「なんか、ファンタジーのゲームみたい。夜の広大なフィールドを歩いてて、町を見つけたって言う。」

 あすかさんの言葉に、皆が頷く。

 「はい。すごいです。東京だと、どこもかしこも明るいので。」

 樹里さんはうんうんと頷いている。

 「そうね。冒険してるみたいで楽しいわ。」

 咲姉ちゃんもうんうんと頷き、僕を見る。


 流石は広い北海道。これが北の大地の醍醐味だろう。


 そうして、僕たちを乗せた電車は終着の富良野に到着。

 宮川さんが予約してくれたという、タクシーに乗り込んで、宿泊するホテルへと向かう。


 ホテルにチェックインして、各々の部屋へと向かう僕たち。

 少し遅めの時間ということもあり、部屋に入って、風呂に入り、そのままベッドで眠る僕たちだった。



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