5.オフ会という名の旅行
大型連休明けの最初の週末。
僕は、新宿駅の西口にある、小田急線の乗り場に来ていた。
大丈夫かなぁ、と僕は思う。これから乗車する小田急線のホームは、地上と地下の二層構造になっており、それ故に、改札も地上と地下に二つある。
ましてや、日本一乗降客数の多い、新宿駅だ。小田急の改札も、西口に出る改札以外にいくつもの改札がある。
それを考えて、迷わずここに皆が来られるか心配になる僕。スマホでネトゲにログインしては、チャットを確認し、集合場所が間違っていないか確認する。
『新宿駅西口の小田急百貨店側の改札。小田急の中央改札前。特急ホームがある地上の改札で、集合をお願いします。』とチャットに書いてある。
間違いないだろう。少し、深呼吸をする僕。
まさか、ネトゲのオフ会を開催するなんてなぁ。しかも、一泊二日の箱根温泉旅行。大型連休直後の週末ということで、若干宿屋は空いているらしく、個室露天風呂付きの少しいい宿を予約出来た。
因みに、費用は全部、ワタナベさんが出してくれるという。本当に、ありがたい。
あとで、お礼をしないと、と思いながら、僕の中で、完璧な箱根温泉旅行プランを練ったのだった。
そして、僕はもう一つ、確認しなければならないことがある、バッグの中から水着を確認する。部屋が一つしか取れなかったためだ。ましてや個室露天風呂付きの部屋なのだから。
少なくとも、ジュリさんとワタナベさんは女性の見た目をしている。
ネトゲでも、それを相談すると。
『大丈夫だよ。着替えを見なければいいんだし、着替えてる間は、外に出てもらって。』
という、ワタナベさんのチャット。
『はい。そうですね。心配なら、水着をもってきて、個室の露天風呂を楽しめばいいのですから。洗う時は、大浴場とかそっちを使えば。』
というジュリさんのチャット。
『ましてや、ハルさんからリンクをもらった予約サイトを見て、このホテルが良いと言ったのは私なんだから。』
というワタナベさんのチャットの内容で、僕も同意せざるを得なかったし、ましてや費用も出してくれるということなので、ジュリさんも、ワタナベさんのチャットに同意することになった。
水着が入っていることを確認して、僕は集合場所に到着したという連絡をした。
それは約束していた時間の十五分前だった。
とりあえず、着ている服装と、鞄の色を連絡しておこうと思い、それも合わせて、スマホのゲームのチャットに書き込んだ。
すると、すぐに通知が入る。
『もう着いています。』
というジュリさんからの通知だった。
なんと、僕よりも早く、ジュリさんは到着しているようだった。
深呼吸する僕。なんだか、ものすごく緊張して来た、ゲームシステムを利用した、戦略的な結婚とはいえ、いわゆるネトゲの嫁とこれから会うのだから。
一体どんな子なんだろう。ひょっとしたら、男性という場合もあり得るよな。と一瞬思う。
ゆっくりと深呼吸をして、辺りを見回す僕。
誰かと待ち合わせているような人を一人一人確認していく。
先ずは、高齢の女性の人が目に入る。だがその人は違う人だと一瞬でわかった。
なぜならば、その人はすでに何人かの人と、談笑しているし、視線が僕の方を向いていない。おそらく、これからさらに人が来るのであろう、と推測できる。
続いて、男性の人が僕の視界に入るが、この人も違う。なぜならば服装がビジネススーツだし、持っている鞄も明らかに仕事用の鞄だ。商談の相手か誰かを待っているのだろう。
そんな感じで、ジュリさんらしき人を探していくと。あの人かなと思う人が居た。
柱に張り付くように立っている女性。おそらく私服姿の女子高校生だろうか。
大きな丸い眼鏡をかけ、後ろ髪をポニーテールでまとめている。まとめているゴムは、黒色の地味なものだ。一方の前髪は、額が隠れる感じに伸ばしている。
服装は、紺色のズボンに、黒色のカットソー。持っている鞄も黒のリュックサック。
そして、明らかに、彼女の視線の先には、スマホ。
いかにも、陰キャ女子という人が、その場所にいた。
ジュリさんが、現実世界で女の子であれば、間違いなくこの人だろう。
そう思って、声を掛けようとするが、念には念を入れて、もう一度辺りを見回す僕。
どうやら、他に該当する人は居なさそうなので、この人がジュリさんで間違いなさそうだ。
そうして、深呼吸して、丸い、大きな眼鏡の子に声をかけた。
「あのっ、ジュリさんですか?」
彼女はそれに反応して。
「えっと、その、は、ハルさんですか?」
その瞬間、彼女、ジュリさんはどこか安心した表情をする。
僕も、その言葉に安心する。
「はい、初めまして。ハルです。で、野田真晴と申します。」
「あ、あの、ジュリこと、
そういって、彼女は、通っている高校の名前を言ったのだが、それを聞いてビックリ。有名女子大学の付属高校で、いわゆる超お嬢様学校と呼ばれる学校だった。
「すごい。お嬢様学校。」
僕は目を丸くして驚く。
「えっと、まあ、名前だけですから‥‥。」
樹里さんはそう言って、少しうつむいているが、緊張しているのだろう、僕が来たことでニコニコと笑い、安心していた。
そうして、樹里さんとの挨拶を済ませ、僕はすぐにスマホを取り出し。
『ジュリさんと合流出来ました。』
というチャットを送り、ワタナベさんに伝える。
『OK、すぐに向かうね。もうすぐ私も合流出来そう。』
という連絡がすぐに来た。そうして、樹里さんと二人で待つこと数分。
「えっと、ハルさんとジュリさんで間違いないかな?」
声をかけてくる女性の方を向くと僕はビックリして、動かなくなる。
帽子を深くかぶり、ゆるふわの髪を綺麗にまとめ、ピンクのカーディガンに白いワンピース。服は体全体を覆うものだが、それでも、胸元は、自分を主張するかのように激しく飛び出している。
まさに、色白の美少女が現れた。
僕と樹里さんは目を丸くした。
「あ、あの‥‥。」
僕は思わず大きな声を出してしまう。その声は見事に裏返る。そして、何かを察したのか、僕は声を殺して、その美少女にこういう質問をする。
「えっと、もしかして、糸崎あすかさん、ですか?」
樹里さんも同じように頷いていた。
そう、まさに、大人気グラビアアイドル、糸崎あすかの姿が僕の目の前に、しかも、僕の名前を呼びながら、目の前に現れた。
「ふふふっ、嬉しい。二人とも私のファンかな。帽子を深くかぶって、わからないようにしてたけど、ファンだったら、バレバレだね。」
彼女はニコニコ笑って自己紹介をする。
「ワタナベこと、
ワタナベさんこと、あすかさんが、そう話してくれた。
笑顔で、ニコニコ笑いながら。その表情が、まさにアイドルそのものだった。
「すごい。」
僕は、改めて、深呼吸して、自己紹介する。
「ハルこと、野田真晴です。その、去年くらいから、ずっと、推しでした。お会い出来て嬉しいです。」
僕は照れながらも、頭を下げる。
「ふふふっ、緊張しなくても大丈夫だよ。えっと、ハルさん、ハルくん、で良いかな。」
僕はコクっと、頷く。
そして、緊張しながら、樹里さんも同じように自己紹介をする。
「藤山樹里です。よろしくお願いします。私も、雑誌で見ているので、その、そんな人とお会い出来て、嬉しいです。」
樹里さんもあすかさんに、照れながらも、自分の気持ちを嬉しそうに伝えた。
「うん、樹里ちゃんも、女の子らしくて、可愛いよ。」
あすかさんは樹里さんに向かって、ニコニコと微笑む。
「あの、ありがとうございます。」
大人気グラドルからお褒めの言葉をいただき、顔を真っ赤にする樹里さん。
「よ~し。そしたら、全員揃ったところで、早速、第一回オフ会。箱根の温泉旅行に行きましょう!!ハルさん、ヨロシクね。」
あすかさんは元気よく、僕の肩をポンポンと叩く。
「は、はい。よろしくお願いします。」
僕はそう言って、緊張しながらも、元気よく一歩を踏み出すのだった。
これが、ネトゲのパーティーのメンバーとの初めての出会い。
そして、大人気グラドルとの初めての出会いだった。
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