空白の5日間
二人でボタンの底面を覗き込む、ボタンの底面に貼られたラベルにはやたら細かい字で使用方法が記載されていた。
5日間ボタンの使用方法
1)ボタン前面のスリットに10万円を入れます
2)ボタンが光ったのを確認し、押します
3)ボタンを押した後5日間、普通に生活できます
4)5日後全ては「なかったこと」になり、押した人の記憶だけ残ります
5)このボタンは何度でも使用できます
俺「いわゆる……5億年ボタンと違うな」
俺「……っていうか、お金がもらえるんじゃなくて、払うのこっちかい!」
一気にずっこけた、一方的に損するだけじゃないか!
彼女はいつもこうだ、なんか微妙にずれたものを掴まされることがある。
先日は謎の画廊で安っぽいシルク印刷の絵を100万円で売り付けられそうになって必死に止めたことがある。今回は1500円なだけまだマシだろう。
こういうところ見てられない、こいつは一生俺がきちんと見てやらないとダメだ、いずれどかーんと大失敗をしでかす。俺が守ってやらないと……。
……と思っていると恋人がなんかもじもじして俺のことを眺めている。
恋人「ねぇ、ちょっと試してみたいけどいい?」
彼女がおもむろに財布から1万円札を大量に取り出す、こいつ割と大金持ってるなぁ。彼女はするするとボタンの中にお札を入れ、ボタンが光り出す。
恋人「えいっ!」
彼女がボタンを押すや否や、彼女の顔が惚けた感じになる、にへら~とだらしなく顔が緩んでおり、潤んだ目で俺を見つめ始めた、おい、大丈夫か?
恋人はしばらく周囲を見渡し現状を確認した後、おもむろに俺の首筋に手を回す。
おかしい、彼女はそもそも映画館で手をつないだだけで顔が真っ赤になるような女だ。こういう事をしてくる奴じゃなかったはずなんだが……。
恋人「うーふーふー、だぁい好き♡」
恋人「キミにもぉ、同じ事させてあげる、今回はボクのおごりね」
彼女は財布からさらに10万円を取り出し俺に押し付ける、金持ちだなおい。だが、彼女は上気しており、文字通り「女」の目で俺を見ている。
そして俺に5日間ボタンを使うように促してくる、まぁ彼女が大丈夫だったから押して死ぬってことは無いだろう……半信半疑で金を入れ押してみる。
その瞬間彼女が俺の首に手を回し、激しく唇を貪ってくる。これがファーストキスである、という事実を完全に忘れさせるキスだった。
上気した顔で彼女は俺を見つめる。
恋人「はい、これからキミはボクのことを好きにし放題です♡」
恋人「えっちでも~、何でも、キミの好きなようにして……いいよ♡」
混乱しながらも考える、恐らく彼女は最初に彼女がボタンを押してからの5日間、俺が知らない5日間の間に俺に対して好き勝手なことをしたんだ。
俺「おい、5日間に俺に何をしたんだ?」
恋人「う~ふ~ふ~、キミがこれからボクにしそうなこと、ぜ・ん・ぶ♡」
恋人「キミがあんなに積極的だと思わなかったよ♡」
今度は俺の手を取って掌を自分の胸に押し付けてきた、マシュマロの様な感触が伝わってくる、おいおい! 往来のど真ん中だぞ、羞恥心はどうした!
彼女がうっとりと俺の目を見つめてくる。
恋人「まだわからないかなぁ?」
恋人「この5日間はキミだけの時間」
恋人「ボクをどうしようが、”なかったこと”になるんだよ」
その瞬間、俺の中で何かがはじけた。
このボタンはそういうボタンだったのか!
今から5日間はこいつに何をしてもいい、何をぶつけてもいい!
俺は彼女の手を取って、ATMでいくばくかの金を下ろした後、その足でラブホテルに駆けこんでいた。もはやそこに一切の躊躇は無かった!
5日間、俺たちは文字通り「もげる」んじゃないかって位に愛し合った。
恥ずかしながら俺は初めてだったのだが、彼女のリードがすさまじかった。
互いに溶けて一つになってしまうんじゃないかって程、愛し合った。
実際、あまりの回数にあそこが軽く擦過傷気味になって血が出てたと思う、けど構わず続けた、どうせ5日後には無かったことになるんだ。
3日目を過ぎたあたりだろうか、彼女も半分放心状態になっていた。
俺「大丈夫か?」
恋人「らいじょうぶ~、キミとやったときはもっとすごかったから~」
ホテルで適宜延長を入れ、食事はすべて出前で済ませ、文字通り「天国」ともいえる5日間が過ぎようとしたとき、突然それは訪れた。
彼女が吐血したのだ。
いくらやりまくったからと言っても人は吐血しない。
俺「大丈夫か!!!」
恋人「げぶっ……あ……ばれちゃった……ね……」
俺は彼女を抱きかかえ、119番に電話したその瞬間だった。
突如眩暈に襲われる。電話をしなければいけないのに地面が揺らいでいる!何もできぬまま、突然地面が無くなり落下していくような感覚に襲われる。
何だ!これは……目の前が……暗く……
………………
…………
……
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